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居ても立っても居られない気持ちに急かされるように捧げる「タバコと私」

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 まずはじめに。
 煙草は大人の嗜み。大人の嗜好品。こどもが手を出してはダメな領域。
 勿論、年齢がいっていても、うまく扱えない『こども』は吸っちゃダメだと思う。
 ヒトの顔にわざと吹き付けるような真似は論外だ!


 ◇

 
 丁度、煙草に纏わるあれやこれやを考えていたのは、亡き父の命日(1月10日)から。
 そうしたら、タイムリーなエッセイを目にしまして、居ても立っても居られなくなりました。乗るしかないっ! このビッグウェイブに! な気持ち。(ナニヲ言ッテイルノダ私ハ)

 私自身は、非喫煙者です。
 過去、一度も吸ったことありません。なんなら喘息ぎみなので煙は勘弁してください勢です。
 しかし、そんな私でも「煙草? お好きに吸ってくださいませ」と思った経験があるので、ご紹介したいのです。

 あれはまだ、私が大学生の小娘だった頃。
 関東地方のとあるイベントに参加し、帰宅する為に小田急線のロマンスカーに乗った時。

 あの頃のロマンスカーは、『走る喫茶室』などと呼ばれた名残がありました。客室乗務員のおねーさんが、座席まで紅茶を運んでくれたっけ……(遠い目)

 いつもなら禁煙席を指定するのですが、たまたまその日は満席に近く、取れた席は喫煙席。まだ禁煙車が少ない時代です。というか、現在、全席が禁煙席なので、時代の格差をひしひしと感じます。

 ええと、当時の状況を説明しますね。
 全部で7両編成のロマンスカーの中で、禁煙車は2両ほど、という時代です。まだまだ喫煙者がぶいぶい幅を効かせていた時代です。JR(ん? まだ国鉄だったか?)の駅ホームに喫煙エリアができたくらいの?
 仕事中にもバンバン煙草を吸って、嫌煙ブームが出始めたくらいと、ご承知おきくださいませ。

 その当時、大学生の小娘だった私は、食べ忘れていたお昼のお弁当を持って、発車間際のロマンスカーに駆け込みました。新宿発午後16時くらい、小田原経由箱根湯本行き。

 慌てて指定席に座ると、隣の席にはすでに初老のおじいさんが座っていました。私は窓際席だったので、おじいさんに会釈して席に座りました。それと同時に動き出すロマンスカー。
 私はすぐさま腹ペコ虫を治めるべく、お弁当を開き掻き込む勢いで食べ始めました。
 イベントも楽しかったし概ね満足な休日だったなぁと、車窓に流れる景色を見ながら食事を終え、缶のお茶(まだペットボトルではなかった笑)を飲み、やっとひと心地ついたぞ、と思ったとき。

 お隣にすわっていたおじいさんが、私に話しかけてきました。

「あの……吸っても、いいですか?」

 穏やかなお声で。こちらを伺うように。
 びっくりしたのなんのって。
 だって、座っているのは喫煙席なのです。
 そこに居る以上、いつ煙草を吸ってもそれは当然の権利なのです。
 なのに、このおじいさんは、走り込んで隣に座った小娘の為に、吸うのを我慢してくれていたんです。
 私が、いきなり食事を始めたから!

 煙草喫たばこのみがいつでもどこでも煙草に火を点けたがるのは、生前の父がそうだったので、よく知っていました。だからこそ、という事実に目から鱗状態です。

 こんな、見ず知らずの小娘のために!! お年を召した方が待ってくれていたなんて!
 しかも、お伺いを立ててくれるなんて!
 なんというジェントル!!
 なんという紳士!!

 一も二も無く、どうぞどうぞ、お吸いください、でした。

 優雅に煙草に火を点けた紳士は

「どちらまで行かれるのですか?」

 と尋ねてきます。のんびり、穏やかなお声です。

「小田原です。そのあと在来線に乗り換えます」
「学生さん?」
「はい。休日なので、東京で遊んできました」
「いいですね、僕は箱根まで行きます。温泉目当てです」
「あぁ、いいですね!」

 なんということでしょう!
 見ず知らずの、初対面の紳士と会話が弾んでいます!
 そして紳士は私と話しながらも、煙草の煙が私の方に行かないよう、煙を吐く方向に気を配ってくれました。

 ……ちょっとくらい、煙がこちらにきても、気になりませんよ?
 そう言いたくなるくらい、気を遣って頂きました。心が温かくなりました。


 新宿から小田原まで、1時間ほど。とても短く感じました。
 それはお隣に座ったロマンスグレーの紳士のお陰。彼が示してくれたジェントルが私に穏やかな時間をくれました。

「それでは、お元気で」
「よい旅を!」

 まさしく一期一会の出会いでした。着席するまでは「初老のおじいさん」だった印象が、別れるときには「ロマンスグレーの紳士」にレベルアップしてました。

 それはまだ、嫌煙運動が起こり始めた頃の話。喫煙者は街中、至る所で煙草に火を点け、あちこちにポイポイ捨て、歩きたばこを平気でやって、持ち歩くから、その火がこどもに当たったりして問題視され始めて。
 誰もが仕事をしながら煙草の火をつけっぱなしにし、社内の部屋が煙だらけだとクレームが出て、喫煙ルームに隔離され始める少し前。
『ハイライト』が170円だった時代の話。

 喫煙者は、好き勝手し過ぎたのです。

 今、喫煙者は肩身が狭い思いをしています。
 外出先では喫煙スペースを探し、自宅でも換気扇の下かベランダに追いやられ、それも隣家の人間に注意されてしまうような時代になりました。
 言わば、安住の地喫煙スペースを求めて彷徨さまよう難民状態です。

 、されているのです。

 時代は嫌煙家の天下です。
 漫画のキャラクターにまで、煙草ではなく飴を持たせろと言われるほどの。

 あの頃、全世界すべての煙草喫たばこのみが、私が遭遇したロマンスグレーの紳士のように、他者に気を遣えるような人だったなら。

 今のような状況になっていたでしょうか。少しだけ、違ったのではないかと私は思うのです。
 少なくとも、ここまで急激な変化ではなかったのでは、と。


 そして次に『ざまぁ』されるのは。
 嗜好品だからとガンガン税率をあげ、本当に高価な嗜好品になってしまった煙草。煙草離れをする人の数は年々増えるでしょう。
 街角の自動販売機もあと2年くらいで消えると思います。(これはコンビニで購入できるせい)
 購入者が減少したら、税金が入らなくなるのでは? 政府の方? なんて思うのですが、どうでしょう。



 およそ六割が税金である煙草を愛用する煙草喫たばこのみは、間違いなく高額納税者です。
 セレブです。
 あなた方が治める税金が社会を回していますよ! 胸を張って生きてください。

 ただし、ジェントルにね!



 ◇



 パイプ愛用していた某教授の研究室は、ちょっとスモーキーで、渋めのいい薫りがしたことを思い出します。いい教授でした。
 私は、喫煙者の人柄で、煙草の好悪を決めているのかもしれません。

 知らないおっさんの煙はノーサンキュー!


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