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第十五章

この国(家)の王1

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 エルフのテュテュお姉さん監修で作ったワインであったが、実はまだ、残っている。
 まあ、あれだけ大量に作ったのだ、飲み干す方がおかしい。
 テュテュお姉さんも幾らか持ってったのだが、樽の中で熟成させたいと言って、残りを置いていったのだ。
「テュテュお姉さんも多少なら飲んでも良いと言っていたけど……。
 そもそも、シルク婦人さんに禁止されたんじゃなかったの?」
 正直、お酒関係は関わり合おうとは思えないので、その辺りはよく分かってないが、何やら、シルク婦人さんがすごく怒っていたのは覚えている。
 その辺りを匂わせて訊ねると、物作り妖精のおじいちゃんは一生懸命、身振り手振りをする。

 え?
 その辺りはわたしの腕の見せ所?
 いやいや、わたしにそこまで期待されても、無理だよ?
 そもそも、いきさつもよく分かっていないんだし。

 物作り妖精のおじいちゃん達に、”とにかく頼む!”と言って促される。
 スライムのルルリンも、何やら、期待したように、ポヨポヨ揺れている。

 いや、本当に期待しないでよ!

 致し方が無く、台所に向かう。
 あ、そうそう、晩ご飯のことも言わないといけないんだった。
 台所を覗くと、シルク婦人さんは竈の掃除をしていた。
「ねえねえ、シルク婦人さん。
 今日の晩ご飯、シャーロットちゃんの為にトンカツを作ろうと思うんだけど」
 婦人さんは、無表情な顔をこちらに向け、頷く。

 シャーロットちゃんに約束した三つのこと、ソリ、甘いもの、そして、トンカツ――これで最後だ。
 実は、密かに今回はチキンカツも作ろうと思っている。

 美味しく出来れば良いのだが……。
 そのことを話すと、シルク婦人さんはコクコクと頷いた。
「後ね、物作り妖精のおじいちゃんには色々ものを作って貰ったりして、お礼をしたいと思うんだけど……。
 おじいちゃん、ワインが飲みたい――」
 ”んだって”と続ける前に、シルク婦人さんは雑巾を置くと、わたしの脇をすり抜け、台所を出る。

 え?
 何?

 その背を追うように振り向くと、婦人さんは様子をうかがっていたであろう、物作り妖精のおじいちゃんとスライムのルルリンの前までカッカッカと歩を進める。

 そして、ギロリと見下ろした。

 見下ろされた、おじいちゃん達とルルリンはビクっと震え、硬直する。
 何か言いたそうにするも、言えず、最後は床にへにゃりと崩れた。

 シルク婦人さんがこちらを振り返り、思わず、ビクっと震えてしまった。
 無表情、無表情なんだけど……なんか怖い!
 シルク婦人さんは言う。
「ワインは料理用」
「え?」
「ワインは料理用でございます」
「あ、はい」

 怖い!
 声に妙な迫力があり、そして、語尾が敬体な所がさらにそれを助長している!

 シルク婦人さんは重々しく頷くと、台所に戻っていく。
 残されたのは、何やら抱き合う(?)物作り妖精のおじいちゃん達とルルリンだった。

 一体、何をやったらシルク婦人さんをここまで怒らせることが出来るのか?
 ……いや、世の中、知らなくても良いことは沢山有るかな?

 うん、我が家の平穏に、異常なし!

――

「サリーお姉さま、鳥カツ? 美味しかった!」
「そう、それは良かった」
 ニコニコ顔のシャーロットちゃんに、わたしも微笑んだ。
 今は、晩ご飯が終わり、皆でお茶を飲みながらのまったり中だ。
 ご飯時は参加しない妖精姫ちゃんもやってきて、ドライフルーツを食べつつ参加をしている。

 それにしても、チキンカツ、確かに美味しかった!

 外はサクサクはトンカツと一緒で、中の柔らかジューシーな感じはそれを上回るほどだった。
 好みは分かれるとは思うけど、わたしはトンカツよりチキンカツの方が好きだなぁ。

 う~ん、鳥肉好きの小さいコル兄ちゃんに食べさせてあげたい!

 代わりというわけでは全然無いんだけど、ママに沢山転送しておいた。
 喜んで貰えたら、良いんだけど。
 そんなことを考えつつも、わたしは立ち上がる。
 そして、可愛らしい妹ちゃんに言う。
「よし、じゃあシャーロットちゃん、ゲーム遊戯でもしようか?」
「遊戯?」
「うん!
 伝説の遊戯!」
 イメルダちゃんが「また伝説?」と胡乱げな声を上げたけどスルーして、倉庫から木製の盤を持ってくる。

 ふふふ、これぞ、異世界チートの定番……。

「リバーシなのだ!」
 マス目が8×8の盤とそこに置くための丸くて平たい板――物作り妖精のおじいちゃんにお願いしていた物がようやく完成したのだ!
 丸くて平たい板――前世では石と言っていた物――は片面が白、もう片面が黒にして貰ったんだけど、物作り妖精のおじいちゃん曰く、これを作るのが大変だったとのことだ。
 まあ、板を綺麗な丸にするのって、専用の工具が無ければ、そりゃ大変だよね。
 かといって、四角だと隣に板が並んだ場合、裏返しにくい。
 そのため、一つ一つを木材から丁寧に切り出し、作ってくれたとのこと。
 本当に、ありがたいことだ!

 正直、ワインだって上げたいぐらい感謝しているのだけど……。
 シルク婦人さんが怖いので、その辺りは別の物を考えて! とお願いしている。
 非常に、不満そうにしていたけど、頷いてくれた。
「これのやり方はね――」と説明をしようとしたけど、石代わりの板を抓み、眺めていたイメルダちゃんが盤にそれを並べながら言う。
「マス目に板を置き合い、相手の色を挟むように置いたら自分の色に変えることが出来る遊戯でしょう?
 最終的に、自分の色が多ければ勝ちになる」
「え?
 知ってるの?」
「知ってるわよ。
 りばーし? って名前じゃ無いけど。
 この辺りでは、”白黒挟み”って呼ばれているわ」
 え?
 あ、ひょっとして、わたし以外の転生者が居るとか!?
 ヴェロニカお母さんも石代わりの板を手に取り、興味深そうに眺める。
「”白黒挟み”だと、こんな風に円形の板では無いわね。
 これを作るの、大変でしょう」

 なんでも、四角い板、その角を切り落とした形の物を使用するとのことだ。
 な、なるほど……。
 それなら、めくるのもそこまで大変じゃ無いか。
「サリーお姉さま!
 やったことあるよ」
とシャーロットちゃんがニコニコしている。
 むむむ、前世チートというか、皆が知らないゲームに勝利して、どや顔をするという、ゲスイ――もとい、お約束のプレイをしようと思ったのに、それが出来そうにないや。

 だが、それでも……。
 わたしの優位は変わらない!

 他の転生者から伝えられたのか、それとも、単に似たような物が作られただけなのかは分からない。
 それでも、ネットの発達した前世では、攻略法等が広く知られていたのだ。

 つまり、転生者わたしが圧倒的に有利、なのだ!

「ふっふっふ!
 このの王が誰か、皆に知らしめる時が来たようね!」
「国?」
「シャーロット、気にしなくて良いのよ。
 こういう時のサリーさんは、大したことを言ってないから」

 イメルダちゃん、その言い草、流石に失礼じゃない?
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