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第十五章

この国(家)の王2

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「いざ勝負!」
と宣言をしつつ、シャーロットちゃんの前に盤を置いた。


 数分後。


「勝ったぁ!」
「……負けた」

 シャーロットちゃん、強かった……。
 シャーロットちゃんの白が、盤の大半を占領していた。

 いや、え?
 妹ちゃん、強すぎじゃない?
 リバーシの天才爆誕ってこと!?

「サリーさん……。
 弱すぎ」
「がはぁ!?」
 イメルダちゃんの呆れの色が籠もった言葉が、わたしの胸を貫く。

 そういえば、わたし、リバーシなんておばさんとした記憶しかないや。
 まして、ネットで攻略法なんて、調べた事なんて無いや。

 なんて、転生設定の無駄遣い!

 シャーロットちゃんが「次は誰と誰が勝負するの?」と言うので「シャーロットちゃんとイメルダちゃんで良いんじゃない?」と答える。
「明らかに、やる気を無くしてるわね」
 なんて、イメルダちゃんが苦笑するが、仕方が無い。
 テーブルの上で、ぐにゃりと伏せてしまっても仕方が無い。

 そんなわたしに、シャーロットちゃんが楽しそうに言う。

「ねえねえ、サリーお姉さま!
 これで勝ったら、王様になれるの?」
「え?」
「ああ、そうね」
とイメルダちゃんが面白そうに言う。
 まさかの下剋上!?
 なんて、恐ろしいことを考えるの!?

 わたしが戦慄している間に、シャーロットちゃんとイメルダちゃんの勝負が始まった。


 数分後。


「負けたぁ~」
「シャーロットもまだまだね」
 テーブルに崩れ伏せるシャーロットちゃんに対して、イメルダちゃんは余裕の表情だ。
 盤の上もイメルダちゃんの黒が多くを占領している。
「”白黒挟み”は”わたくし達”にとって当然の嗜み。
 シャーロットももっと上手くならないといけないわよ」

 え!?
 当然の嗜み!?

 つまり、この世界でのリバーシは出来て当たり前って事!?
「イメルダちゃん、ズルい!」
と文句を言うと、姉的妹ちゃんは呆れたように目を細めながら「サリーさんが持ってきたのに、なんでズルいのよ?」と答えた。

 でも、ズルい物はズルい!

 などとやっていると、姉妹の間に置かれた盤を、スーッと移動させる者がいた。

 ヴェロニカお母さんだった。

 ニコニコ顔の大人は、実の娘に対して言う。
「じゃあ、次はわたくしの相手になって貰いましょうか?」

 えぇ~


 数分後。


「……参りました」
「ふふふ、まだまだね」
 がっくりとうなだれるイメルダちゃんに、どや顔をする大人がいた。

 実の母親だった。

 ヴェロニカお母さんの白も、その満足げな顔同様、盤の上に満ちあふれていた。

 えぇ~

「大人として、どうなの!?」
と窘めると、ヴェロニカお母さんは少し困ったように眉を寄せる。
「まあ、わたくしも大人げないとは思うわよ?
 ただ、”女王として”、負けられないでしょう?」

 なんか、女王りだした!

 しかも、わたしに向かって「サリーちゃん、どうする? なんなら、女王として相手になるけど?」などとニヤニヤ言ってくる。

 なんて大人だ!

 ぐぐぐ、しかし、わたしでは相手にならないのは、明らか。
 エルフのテュテュお姉さんがいてくれれば……。
 などと思っていると、突然、上空からやたらとまぶしく光るものが降りてきた。

 え?
 何事!?

 眩しさに目を細めつつ、見上げると、光を放ちながらゆっくり降りてくる、黄金色の羽根が見えた。

 あれは……。
 妖精姫ちゃん!?

 神々しい雰囲気をかもしながらテーブルに降りると、妖精メイドちゃん達が準備した椅子に座り、扇子を手に取ると、不敵に笑った。
 な!?
 まさか、妖精姫ちゃん……。
 強キャラ!?
 ”いざ、勝負!”と言うように、妖精姫ちゃんが扇子を振った。


 数分後。


 テーブルの上で、膝から崩れ落ち、両手を地に付けるポーズになった妖精姫ちゃんがいた。
 周りにいる妖精ちゃん達もうなだれている。

 いやいやいや、妖精姫ちゃん、絶対わたしより弱いよね!?
 盤の上、ヴェロニカお母さんの黒が大半なんだけど!?

 え?
 初めてやった?
 じゃあ、なんであんな強キャラ演出したの!?
 え?
 見てて行けると思った?
 リバーシはそんなに浅くないって!

「ふふふ、これで最後はシルク婦人だけね!」
と何やら、ヴェロニカお母さんは、その馬鹿でかい胸を反らす。
 おかわりを入れに来たシルク婦人さんが、そちらに視線を向ける。
 ヴェロニカお母さんは両手を広げながら仰々しく言う。
「わたくしが真の女王になったら、宣言をするわ。
 大人は……。
 ワインを飲んでも良いと!」

 えぇ~

 ヴェロニカお母さんは、しょうもない事を言いつつ、チラッ、チラッ、とシルク婦人さんに視線を向ける。

 えぇ~

 ただ、わたし、イメルダちゃんを呆れさせ、シャーロットちゃんをポカンとさせた発言だったけど、特定の層の心は打ったようで、妖精姫ちゃんや、天井から降りてきたルルリン、物作り妖精のおじいちゃん達が、”ヴェ~ロニカ! ヴェ~ロニカ!”と言うように歓声(推定)を上げていた。

 えぇ~

 シルク婦人さんは一つため息をついた。
 そして、ティーポットをテーブルに置くと、こちらにやってきた。
 わたしが席を譲ると、一つ、頭を下げると座った。

 妖精姫ちゃん達が、ヴェロニカお母さんに視線を向ける。
 それに対して、ヴェロニカお母さんは力強く頷く。

「任せておいて。
 わたくし、”白黒挟み”でシルク婦人に負けたことは無いのよ!」
 何やらフラグっぽい台詞を吐く自称女王に対して、皆は大いに盛り上がっていた。

 数分後。

「そ、そんな……」
 呆然とする元女王の前には、シルク婦人さんの白に染まりきった盤があった。
 その周りには、ショックのために伏せる、妖精姫ちゃん達の姿がある。

 え?
 一つも黒が無いんだけど!
 こんなこと、出来るんだ!

「ま、負けたことなんて……なかったのに……」
 固まるヴェロニカお母さんに、席を立ちながらシルク婦人さんがぽそりと言う。
「怒る」

 うわぁ~
 それって、下手に勝つと怒るから、負けてあげてたって事だよね。

 脳裏に年若いご令嬢がぷりぷり怒りながら「シルク婦人、なんで勝つのよ!」とか言って板を投げている姿が見えた。

 うわぁ~
 イメルダちゃんが顔を引きつらせていた。
 ただ、ヴェロニカお母さんにとって救いは、シャーロットちゃんがよく分からないって感じで、「どういうこと?」と言っている所か。
 イメルダちゃんは「気にしなくて良いのよ」とか言っている。
 そんなわたし達に対して、シルク婦人さんは「入浴」と言った。
「あ、もうずいぶん遅くまでやっていたね。
 二人とも、お風呂に入ろう?」
「……そうね」
「うん!」

 テーブルに崩れ落ちるヴェロニカお母さんをそのままに、わたし達はお風呂に向かうのだった。

――

「サリーお姉さま!
 今日は一杯美味しいもの食べたし、一杯遊んで楽しかった!」
「そうだね、美味しかったし、楽しかったね!」
「うん!」
 浴槽の湯に浸かりながら、シャーロットちゃんと盛り上がっていると、イメルダちゃんも「わたくしも、何やかんや言って楽しかったわ」と同意してくれた。

 湯浴み着を着て、妹ちゃん達とお風呂を楽しむ。
 うむ、和むなぁ。

 そのうち、もう一人の妹ちゃんであるエリザベスちゃんとも一緒に入ることになるのかな?
 このお風呂は大きいから、もう一人ぐらい女の子が入っても問題ないだろうから、きっとそうなるのだろう。
 楽しい入浴タイムになるだろうなぁ~
「ねえねえ、サリーお姉さま!
 明日も、”白黒挟み”をやろうね!」
「そうだね。
 明日もやろう!」
「うん」
 シャーロットちゃんとそんなやり取りをしつつ考える。

 余り負けすぎると、お姉さまの沽券こけんに関わるのではないかと。
 いや、妹ちゃん達に負けるのはともかく、あの大人(?)なヴェロニカお母さんに負けてしまうのは、非常にムカつくことではなかろうかと。

 シルク婦人さん、コツとか教えてくれないかな?
 冬籠もりもまだまだ続くのだし、どこかのタイミングで聞いてみよう。
 あ、でも、それより文字の読み書きをしっかりやらないといけないなぁ。
 赤鷲の団のアナさんに教わった魔術についても、色々試したいことがあるし……。
 大ウサギ君の毛皮を取りに町に行かなくちゃいけない。
 料理だって、色々試したいこともある。

 う~ん、やることが一杯だ!
 何やかんや言って、冬籠もりの時期なんてあっという間に過ぎちゃいそうな気がする!
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