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『真幸商会』異世界出店編

店舗を借りました その2

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「ふむ」

 デキシーさんがつぶやいた。

「少々足が出るのですが希望に合った条件でうちが照会できる唯一の物件になります」

 そう紹介された建物は、自分もすでに見覚えのある場所だった。

 大通りに面してはいないものの、歩いて10mちょっとで大通りに出る立地条件。
 一軒家で二階建て。
 土地の広さも十分で既に中の掃除はほぼ行き届いている。
 その一軒家の扉には、このような張り紙が書かれていた。


『貸し物件 一戸建て 広さ240m2 料金応相談 オードロー・デキシーまで』


 フォッスさんがちらりとデキシーさんを覗いていた理由がよくわかった。

「こちらの建物………デキシーさんよりお預かりしている貸家になるのですが、デキシーさん依頼主より、希望額は月当たり旧金貨2枚からで細かい値段は応相談とのことでしたが……」

 かなりデキシーさんを気遣うフォッスさん。
 デキシーさんが強すぎるのか何か弱みでも握られているのか……。
できれば前者であって欲しい。

「ハヤト、そういえば今朝方もこの家うちをながめていたね」

 デキシーさんが聞いてくる。

「はい。感じのいい家だなーっと思って見ていました」

 最初にごまかした嘘がここまで引っ張られるとは思ってもいませんでした。

「……………うん。よし、決めたよ。ハヤトよければウチを使うかい?」

 そしてなし崩しに決まりそう……。

 自分はNo!と言える日本人。

 自分はNo!と言える日本人。

 よしっ!

「いい場所だと思いますけど予算を超えちゃいますので今回は候補として……」

「なぁに、諸々込みで月5千(旧金貨1枚)でいいよ。それなら大丈夫なんだろ?」

「あ、はい」

「なら決まりだ。フォッス。ちゃっちゃと契約を交わしてくんな」

 あ、一瞬で決まりました。

「フォッス、家賃が半分になったんだからあんたの分の手間賃も半分だからね」

「えぇ~、またですか~。わたしも生活かかっているんだから無茶ぶりはやめてくれって言ってるじゃないですか」

「場末の親父がなーにしょぼくれた事言ってんだい。管理する空き物件が減って毎月の酒代が増えるんだ。いいことづくめじゃないかい」

 そして、仲介代の値段交渉が堂々と行われている。
 というか、デキシーさんの言い分が一方的に決まりそ………決まったな。

 がっくりと首を垂れるフォッスさん。
 ご愁傷様です。
 と、じろりと見上げてくるフォッスさん。

「ハヤトさん、だっけ。あんたも商売を始めるんだってな。そのうち、たちの悪いのに捕まったって後悔することになるぞ。俺のようにな」

 小さく低い声で忠告してくる。

「フォッスー、なぁにこそこそ話してんだい。先に仕事をしちまいな」

「あいよっ、ハヤトさんに最終確認取ってた所だよ。直ぐ終わらせらぁ」

 結局中を確認することもなくその場で契約を交わし、3ヶ月分+今月分の旧金貨4枚を払い………

「フォッス、契約日とあたしがサインした契約書を来月の頭にできるかい。できるって?それじゃ、来月頭に契約を交わしたことにしといてくれ。ハヤト、なにかと入用になるだろ。この契約書を交わすのは来月なんだ。今月分の家賃を貰うわけにはいかないから旧金貨これは返すよ。浮いた分で必要なものを買いそろえなっ」

 払ったはずの金貨1枚と家の鍵束を預かった。

「最低限の家具類はそのままだから勝手に使っていいよ。ベッドもあるから今日から使いな。宿代の節約だね、はっはっは」

 豪快に笑いフォッスさんと帰っていくデキシーさん。
 自分はそのまま家の確認をと一人残された。
 二人は当面、形式上の書面や金銭のやり取りがあるので事務所に向かうとのこと。

「なにか困ったことがあったら私に言いな。じゃあ、本格的に開店したら酒でも持って冷やかしに行くよ」

 と頼りになる様な不安になる様な言葉を残し去って行く。
 フォッスさんが(デキシーさんから見つからないように死角で)こちらに向かってご愁傷様と両手を合わせ一礼してきた。







 鍵を開け………と思ったら自分が開けてました。
 開いたままの家に入り鍵を閉める。

 部屋や設備の確認もせずにそそくさと2階に上がりクローゼットの部屋に入る。
 開けられたままのクローゼットは商会の事務所とつながったままだったので一安心。
 事務所のほうに戻り、扉を閉めようとして………事務所の机や木の板などで戸が閉まらない様に固定する。
 このまま閉めたらまたどこにつながるかわかったものじゃない。

 夕日が差し込む部屋の中、外から流れてくる夕焼け小焼けのメロディーで土曜一日を知らない世界への旅行でつぶしたことに気付く。

 事務所を閉めながら、事務所こことデキシーさんの家の鍵をもっと頑丈なのに換えとかなきゃと考えた。
 夕飯について考えるのは面倒だったので、彩綾が帰ってきたら外食で適当に済まそうと決めて部屋のソファーにダイブ。

 よほど疲れていたのか直ぐに睡魔が襲ってきて、彩綾に蹴り落とされるまで熟睡してしまっていた。

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