彼が恋した華の名は:4

亜衣藍

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4 Euphoria

4-4

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 しかし多生は、やはり曇った表情のままだ。
 聖はこれで良いと言っているのに、何をそこまで憂いる事があるというのだろう。

 不思議に思い、多生から受け取ったカップをテーブルへ置くと、その隣へとそっと場所を移す。

 真横に座りながら、聖は出来るだけ自然を装って口を開いた。

『……あんた、何かオレに言いたいことがあるんじゃないのか?』

 すると多生は、数分の沈黙の後、ポツリと言葉をこぼす。

『こんなこと、今更言える立場じゃないが……いや、いい。やはり止めておこう』
『ターさん』
『忘れてくれ』
『ターさん!』
『こんな立派なマンションに居候させてもらっているだけで有難いってのに、説教なんて何様だよって感じだな。ははは、バカだよなぁ』

 わざと明るく振舞うと、話はこれでおしまいというように『お代わり作ってやるよ』とソファーから立ち上がってキッチンへ向かってしまった。

 どうやら、今は喋る気は無さそうだ。
 これ以上、無駄なやり取りをするだけ野暮ってものだろう。
 聖はそう思い、今は、これ以上問い詰めるのは止めておこうと判断した。

 多生には、出来るだけ長く、このマンションに居続けて欲しい。
 万が一気分を害して、出て行かれては困る。
 そんな事を考えている自分に気付き、聖は苦笑した。

(久しぶりだな。誰かを繋ぎ止めておきたいなんて、こんな気持ちになるのは)


「どうしました、御堂社長」
「え?」

 声を掛けられて、聖は現実に引き戻された。
 いつの間にか、すっかり考え込んでいたらしい。

 時は過ぎ、ゴルフコンペもそろそろ終盤に入るところだった。

 今は、各参加者へ割り当てられた部屋で軽くシャワーを浴びて着替えも終わり、授賞式の会場へと向かう途上であった。
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