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 今のリリスは『リリス・パメラ』という名で、王都でブティック経営を展開していた。

 貴族向けのフルオーダーから庶民向けのカジュアル、その両方を扱うブティックのオーナー兼デザイナーとして、王都で一目置かれる存在まで上り詰めている。

 彼女の顧客の中には(どのようなを使ったのか)この国の第一王女もいるので、後ろ盾もばっちりだ。

 そして、商才に加えて、この美貌と若さだ。
 今、尤も王都で注目されている三大美女の一人だと、巷でも有名人であった。

   ◇

「そ――そんな、バカな! リリスという女は醜い赤毛の豚姫だと、父上が言っていたぞ!」

 アイスが悲鳴混じりの声を上げると、傍に控えていたエリオスも追従した。

「そうです、坊ちゃまの言う通りです。オレの叔母が半年前に夏の館へ遣いに行った時も、ボーボーの赤毛に襤褸切れの様な服を着てウロウロしていたリリスを見たが、気の触れた狂女のようでとても伯爵令嬢には見えないと言ってました。リリスが、こんな美女の訳が無い!」

 少年特有の甲高い声に、リリスは失笑する。

「お前達が『リリス』と言っていた女は、今朝がた王都へ到着したわ。可哀想に、王都では一切口を開くなとマーロー男爵に酷く脅されたそうで、怯えていたわね。でも『狂女』が浸透していた所為か、誰も彼女に触れようとしなかったらしいわ。お陰で、ここ王都に到着するまで、誰も彼女が偽物影武者とは気付かなかったというのだからお笑いね」

 そう言うと、リリスは再び背後を振り返った。
 そこには、いつの間にか、真新しいメイド服を着た華奢な栗毛の女が控えていた。

「ユリ。六年間、ご苦労様でした」

「いいえ、こちらこそ! 身寄りのないあたしに、寝床と食い物がもらえる場所を与えてくれてどんなに感謝した事か。……ただ、ジンさんから渡された鬘は、この六年ですっかりボロボロになってしまいましたが」

「構わないわ。もう必要が無いもの」

 フフフフと笑い、リリスは言う。
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