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   ◇

「お嬢様、後はあたしが片付けるんで、どうぞこっちで休憩してください」

 ユリの言葉に、リリスは汗の浮いた額をタオルで拭いながら、ニッコリと笑って頷いた。

「ありがとう。お陰で大分片付いたわ……でも、もうちょっとだけ……」
「いーけーまーせん! お嬢様は立派な貴族令嬢なんですから、これからは床掃除もしちゃダメですよ」

 王都へ上京し、華やかな都会の雰囲気にのぼせ上がっているユリであったが、だからといって『自分も』とは彼女は考えないようだ。

 伯爵令嬢でありながら、身寄りのなかった自分以上の辛酸を舐め、たった一人で不条理な世の中へ下剋上を成そうというリリスを、ユリは心から敬愛して応援するつもりのようである。

 埃にまみれながらせっせとコマネズミのように動き回り、新しく移り住む屋敷を、献身的に隅から隅まで磨いている。

 幾人か下女を雇ったが、ユリはそれらにも堂々と指示を出していた。
 マーロー男爵の許では狂女として振る舞っていた彼女であったが、ここでは立派なメイド長の貫禄である。

 まだまだ若いのに、中々どうして肝が据わっているようだ。

(初対面の時は、頼りない気の弱い子かと思ったけど。まさか、それがこんなに使える子だったなんて、本当に私はツイてるわ)

 さすが、ジンが見つけて来た影武者だ。
 彼はリリスの為に、こうして色々な『道具』を用意してくれる。

 ちなみにこの屋敷は、王室からクラシス伯爵へ下賜された、新たな邸宅であった。

 第一王女お抱えのデザイナー兼、第一王子の衣装係。
 そして、クラシス伯爵令嬢であるリリスには、それに相応しい住まいを与えよという王の命により、この屋敷が与えられた。
 先々代の王が寵姫の為に建立した屋敷であったが、その後は無人のまま置かれていた屋敷である。

「さぁて、次は社交界デビューね。どなたの招待を受けようかしら」
「え? アナスタシア様の所ではないんですか?」
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