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「あらあら、どなたかと思ったら、救国の英雄マリウス提督ではありませんの? 今日はお天気にも恵まれて、本当に善い日ですこと」

「――これはマルグレーテ様。相変わらずお美しいですね」

 確かに美しいが、けばけばしい極楽鳥のような衣装とメイクは悪目立ちが過ぎる。
 王女は、目一杯めかし込んで、バルコニーでマリウスが挨拶に来るのを待ち構えていたようだが、いつになっても来ないので、痺れを切らして自ら広間へ足を運んだらしい。
 取り巻き達も、王女の突然の予定変更にあたふたと追走して来る。

「マ、マルグレーテ様! 本日は広間へ訪れるのは、開催の挨拶だけとお聞きしていたのですが……楽隊もこちらへ移動させますか?」
「私はバルコニー席へお酒を運ぶよう承ってましたが、どうしましょう?」
「あら、皆さま何をおっしゃてるのかしら?」

 ほほほと笑い、王女は凍てつくような視線を一瞬だけ取り巻きへ注ぐ。

「今日はティーパーティーなんですよ? 昼間からお酒なんて、あまり非常識なことを口にしないでいただきたいわ」

 視線を受けた相手はサッと青ざめると、深々と頭を下げた。

「も、申し訳ありませんでした!」
「あら、よろしいのよ。私もお酒は好きですわ。寝る前に少しだけ嗜むの」

 朗らかに笑うと、マルグレーテは返す瞳でマリウスを見つめる。

「ところでマリウス様。主催者である私に挨拶も無しに、何やら帰ってしまわれるご様子でしたが……私の気のせいですわよね?」

 こう言われては、肯定するしかない。
 何といっても、相手はこの国の第二王女だ。

 それに真横で『兄さん! 変な事言わないでよ!』と妹に脇腹を突かれては、これはもう仕方がない。

 マリウスはリリスを追う事を諦めて、マルグレーテに向き直った。

「――ええ、王女様の見間違いです。挨拶も無しに退出するなど、そんな無礼な真似は致しませんよ」
「ほほほ、そうですわよね。リリス様は何やら急用が生じて、私に挨拶も無しに退室なさったようですが。……さぁ、あちらでマリウス様の武勇伝を聞かせて下さいな」

 王女は高慢な物言いを巧みに使い分けながら、リリスが消えた方向を睨みつけた。
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