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 視線も合わせずに即答するジンに、マリウスは重ねて質問を投げ掛けた。

「それなら、ファニーラ国のザザドゥ公は知らないか? 貴様と何かえにしがあるのでは?」
「初めて聞く名です。それでは失礼いたします……さぁ、お嬢様」

 ジンは顔色も変えずにマリウスの詰問を素っ気なく受け流すと、リリスの前へとサッと身を滑らせ、先導するかのように歩き出した。
 有無も言わせぬような雰囲気に、リリスは戸惑いながら従う。

 それもこれも、周囲がザワつき始めている状況なので、一刻も早くこの場を後にした方がいいと理解しているからだが。

(何だか、いつものジンの様子とは違うわ。ファニーラ国って、海峡を挟んだ西の大陸よね? 交易路を巡って我が国と長く争っているって、耳にしたことがあるわ。いわばバーバロザ帝国の仇敵に当たるワケだけど……その国の、ザザドゥ公とは、いったい誰なのかしら?)

 あの荒城でジンを召喚してから、もう六年が経つ。
 その間ずっと一緒に行動しているが、未だにジンの正体は謎だ。

――彼は悪魔か、精霊か?

 リリスはジンの事を『人知を超えた神秘の存在』と認識しているが。
 しかし、ジンと同じくリリスと六年間行動を共にして来たアッシュは、それを怪しんでいるようだ。

(ジン、あなたの正体は、アッシュの言う通り詐欺師なの? まさか、違うわよね?)

 リリスはその疑問を口に出そうとするが、寸前で我慢した。
 ジンに対しての『不審』の芽が、これ以上育つのを恐れて。

   ◇

「あの男、やはり覚えがあるぞ……接収したザザドゥ公の邸宅で、
※権力機関が強制的に国民の所有物を取り上げること。

 鋭い眼光でジンとリリスの消えた方角を睨んでいたマリウスだが、媚びるような声で近寄る王女の気配を察知して、その顔は途端に曇った。
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