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 海軍のシャロンとは、マリウス直下の腹心の名である。
 現在は、マリウス同様に王都での休暇を楽しんでいる筈だが?

「分かった。オレの部屋へ通してくれ」
「かしこまりました」

 客人の案内の為に去って行く執事と兄を交互に見遣り、ミリアは癇癪を起した。

「兄さん! 今は、あたしの方が先でしょ!」

「お前の言い分は分かるが。だが、もしかしたら、軍の機密に関して内々にオレを訪ねて来たのかもしれないだろう」

 そう返されては、さすがにミリアもこれ以上食い下がる事は出来ない。
 何といっても、兄マリウスは海軍提督なのだ。
 休暇だろうと何だろうと、何事かコトが起こったならば、真っ先に先陣を切って出撃しなければならないのだから。

「……分かったわ。あたしの用件は、シャロンの後ね」
「理解のある妹で助かるよ」

 マリウスはニッと微笑んだ。

   ◇

 さて、突然屋敷を訪ねたシャロンだが。
 何か重要な報告を伝えに来たのかと思いきや、その内容は実にどうでもいい事だった。

「なに? 練兵所で、兵士たちの修練を視察せよ、だと?」
「はい。日頃の訓練の様子を、是非提督にもご覧頂きたいとの事です」
「くだらん」

 嘆息しながら、マリウスは手にしていた紅茶のカップを傾けた。

「うん、美味いな。かつては黄金と同じ価値を持つと讃えられた、カイオン産の茶葉だ。王都でも中々手に入らない逸品なだけはある。せっかくだ、お前も飲むがいい」
「は……ありがとうございます」

 シャロンは恭しくカップを頂くと、ふぅと溜め息をついた。

「本当はこうやって、オレも提督のようにゆっくりと過ごしたいのですが……練兵所へ、うるさい厄介者のが来たらしいのです」
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