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41 ハイロール一族の制裁

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「それでは先日二人が受け取ったという書類を」

 オラルフ氏はくるくると巻かれていたつやのある細紐を解くと、書類をテーブルの上に乗せる。

「どうですか、フレデリックさん。この紙に押された印章は」
「ああ、確かにこれはあの家のものだ」

 伯父は自分の鞄の中から手紙の束を出す。

「近場に住んでいた一族の奴から預かってきた封筒だ。それぞれに封蝋がしてある。それと合わせてみてくれ」
「こちらもお願いします」

 そこにはタシュケン子爵夫人マリューカの紹介で彼等と手紙で繋がっていた芸術家達の姿もあった。

「これはチャイナに移住した方の様ですね」

 ハイロール一族の中でも、移動した家々で封蝋が異なっていたのだという。

「我々は乱に紛れて北インド在住の本家を詐称したドイツ系移住者ヘルムート某を許す訳にはいかない。
 ヘルムート某は北インド在住の本家において雇われた労働者に過ぎない。
 まだ、単に労働者であるにも関わらず、わが本家の温情により、生活と仕事を保証され、能力の高さを見込んで学問も身につけさせたにも関わらず、本家当主が襲われた際に隠れ逃げ、その後当主の血筋を証明する書類を漁って逃げたことは万死に値する。
 なおかつ道中において、罪の無い女性を殺害したことも調べがついている。
 よって我が一族はヘルムート某個人に対し、制裁を発動する。
 なお、その過程において派遣員が不要と思った者は排除する」

 現在のそれぞれの家の当主の署名がされ、印章も押されていた。
 しかも本家を騙ることに対しての怒りであったのだろう、それに関しては同一の怒りということを示すのか、連判はぐるりと同心円状になっていた。

「ヘルムート某」

 私はふと口にする。
 それがあのひとの本名だったというのか。
 私にはやはり実感が湧かない。

「野心を抱いてしまったということですかね。それにしても怖い一族だ」

 キャビン氏はため息交じりに感想を述べた。



「いやーでも、母屋の中でも一部だけだったので助かりましたよ」

 男爵家の使用人達は子爵家の別室に集められていた。

「何ですかねえ。屋根裏から外に続く通路は確保されていた、という感じで。火事自体は二階が中心だったのに」

 ハルバートは不思議そうに言う。

「最初に音がしたのは、奥様の部屋だったんですよ。でも、火の手は旦那様の部屋からも上がっていて。その他の部屋には異常が無いというか。私達が二階に下りてきた時には、既に扉が吹き飛んで炎が出ていたので、もう何も考えずに逃げました」

 ヒュームもそう言う。
 さすがに時間を指定した爆発物を仕掛けたのがあの「ペット」だった男だったとは使用人達の前では私は言う勇気が無かった。

「それにしても、子爵様に紹介状を書いてもらえるのはありがたいですね」

 え、と私はヒュームに問い返した。
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