〈完結〉ある日予告も無しに赤紙が届いたんですが

江戸川ばた散歩

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 そう、問題はそれだけなのだ。
 あの日を境に、「見えない壁」で分かたれた「アイする者同士」の元に、手紙が舞い込むようになった。
 「戦争に参加せよ」と。
 召集令状だ。
 ある日突然。
 予告もなく。
 赤みの強いサモンピンクの封筒に「招待状」と書かれたカードだけが入ったものを「赤紙」と呼ぶようになったのは皮肉だろうか。
 「召集」された者はそれから数時間から数日以内にその場から消えた。
 文字通り「消える」のだ。
 ふっ、と。
 最初はお昼の生放送のトーク番組で司会の前から女性ゲストが消えた。
 驚く司会者の姿は、あっという間にサイケデリック万華鏡に切り替わった。
 その中に女性ゲストと、誰だか判らない男が映し出された。
 お昼時、学食で「ありゃ誰だ?」「何で**ちゃんが?」等の言葉が飛んだ。
 そこに金髪男の皮肉な声だけが響き渡った。

『さーあ、相手と戦いましょう! 選ばれたアイし合う恋人達よ! 殺し合いましょう!』

 「戦争」がようやく形をとった瞬間だった。
 俺は「これか!」と頭を横からがん、と殴られた気分だった。
 二人の頭上に白手袋だけが浮かび上がる。
 下手に顔が出てくるよりずっと怖かった。

『ルールは簡単。相手を殺したら終わり。できないならずっとこの中。いいですよ? 別に。ここではアナタ方、お腹空きませんし疲れもしません。アナタは東。アナタは西。勝った側にポイントがつきます。負けた側は…… むふふふふ』

 ぞくり。
 悪寒が走った。

『さーあ、がんばって戦って下さい。考えつく自分の最も得意なもので。ここには何でもあります。相手を倒すためのものは。思えば出てきます。何がいいですか?銃? 刀? 爆弾? それとも包丁?』

 この時を皮切りに、不意打ちにこの「戦争」が全世界一斉にTVモニタに映し出される様になった。
 毎日何処かで誰かが戦う姿が見られる様になった。
 一組の場合もあれば、画面が九つに区切られたこともあった。
 当初はサイケデリック万華鏡が背景だったが、やがてそれでは「戦争」が見にくいと誰かさんは思ったのだろうか、実に目に優しい背景色となった。
 その目に優しい背景色の中では、殺伐とした「戦争」。

 例えば。

 とある日映されていたカップルは、泣きながら包丁とダイナマイトを手にしていた。
 彼等が互いに突進して爆散した。そして画面には「GAME OVER」の文字が出た。
 また別のカップルは、様々な武器を山と積みながら横並びに膝を抱え、じっと動かずにしばらく悩んでいた。
 どれだけの時間が過ぎただろう。
 やがてふっと顔を上げた女は小型のマシンガンを掴むと、男に向かってぶっ放した。
 撃たれた男は血まみれになってその場に倒れた。撃った女は銃の反動で何処かへ飛んでいき、その行方が知れないまま。
 またまた別のカップルは「アンタアタシを殺してもいいと思ってたの!?」「お前こそ!」といった会話を繰り広げた挙げ句、殴る蹴るの肉弾戦の果て、不意に爽やかな笑顔になると、それぞれ自分自身の頭をピストルで打ち抜いた。
 一番嫌だったのは、その場でお互いが好き合っているということが判ってしまったカップルだ。
 そういう時に限って、一組だけしか画面に登場させず、無駄にカメラアングルも凝っていた。
 ……さすがにその結末を俺は見る勇気は無かった。
 例は挙げればきりが無い。
 いずれにせよ、吐き気がする程嫌な光景なのに、TVのスイッチを切ることもできず、俺達はその様子を見続けていた。
 負けた側、について金髪男は何も語らなかった。また、
 ポイントがつくという、勝った側の帰還の話も聞かない。
 ひどく胸くそ悪く、そして良くも悪くもカタルシスも無い「戦争」。
 その召集令状が「赤紙」。

 俺達の元に届いたのは、そんなものだった。
 だからあり得ない、と俺は思った。
 何故なら、俺のアイする相手は、当の電話の向こう側に居る奴なのだ。
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