〈完結〉ある日予告も無しに赤紙が届いたんですが

江戸川ばた散歩

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『……失礼致しました。臨時ニュースを追加します」

 だから、その声、その姿が現れた時には何となくほっとした。
 見慣れた穏やかな色彩のニューススタジオだ。
 だけどデスクに座っていたのはさっきまでのアナウンサ氏じゃなかった。

『先程入りました連絡によりますと、東海道・山陽新幹線、東海道本線が米原で分断…… 北陸本線…… 同様に各自動車道も分断……』

 読み上げて行くその声は、籠もった棒読みだった。
 心なし、原稿を読む視線が虚ろに見えた。
 だがやがてモニタに近い場所を取っていた学生達から「何だそれ」「冗談じゃない」と声が上がりだした。
 俺は、と言えばなかなかアナウンサ氏の言うことが理解できず、とりあえず友人の顔を見た。
 佐久田は俺よりずっと頭が良いのだ。
 俺にとってはちょうどいいランクのこの大学に居るのが不思議な程だ。
 「師事したい教授が居たから」と言うのが奴の言だった。
 奴は眼鏡の下の目を細め、黙って食器を持つと立ち上がった。
 いつの間か、すっかり綺麗に食べ尽くしていた。
 俺も慌てて残りをかき込むと、奴の後を追った。 

 学食を出て黙々と早足で歩く佐久田を、俺は慌てて追いかけた。
 だが身長が頭半分以上違う相手とのリーチの差は厳しかった。
 追いついた時には学食から既に五百メートルは離れていた。

「ちょ…… 待てよ」

 へろへろになりながら、俺はその腕を掴んだ。

「ああ?」

 佐久田はびっくりした顔で振り向いた。
 その顔がちょっと憎らしくて、俺は掴んだところをぎゅっと握りしめた。

「どうしたんだよ、いきなり!」
「情報収集に学部棟へ行こうと思っただけだが…… 高村、お前も一緒に来るか?」

 奴の腕を捕まえたまま、俺は大きく首を縦に振った。
 そのまま学部棟へと向かった。
 奴の専攻している学部には自由に使えるPCが沢山あったのだ。
 ネットの海の中もてんやわんやだった。
 どうやらあの瞬間、金髪男はワールドワイドに電波ジャックを行ったらしかった。
 ただし国によって、言葉と外見はそれなりに違った。面白いことに、どんな国であれ、共通する要望つき感想があった。

「も一度出て来い! モニタ越しでもいいからあのツラ殴ってやりてえんだ!」

 残念ながらその要望はその夜、ゴールデンタイムに実現してしまったのだが。

 なお、その時間になるまでに、国内国外関わらず、様々な事実が判明した。
 大まかに言うと。
 あちこちに「見えない壁」が出現した。
 透明で、厚みが感じられない、だけど「壁」。
 向こう側は見えるけど、決して通り抜けることができない「壁」。
 ネットを飛び交う情報によると、「材質に関しても調査中だが結論の目処が立たない」とのこと。
 ちなみにその「壁」で、日本は琵琶湖付近で東と西の二つに分けられた。
 アメリカも東部と西部に分けられた。
 中国は仮首都が北京と上海になった。
 大陸の細々とした国々も、半島の元々分けられていた国も、バチカンの様に小さな国ですらも、例外無しに真っ二つだと。
 何のために。
 皆そう思った。
 そして「彼」がその答えをくれた。更に嫌みたらしい憎たらしい殴ってやりたい笑みと共に。

『さあ戦争の始まりです』

 夜、再びの電波ジャック。
 金髪男は白手袋で包まれた手を胸の前で組んでにたにたと笑いつつ。

『ルールを遵守して』

 全世界に、全人類にそう呼びかけた。

『戦って下さい!』

 何と何が?
 内心突っ込んだであろう俺を含めた多数の人類に彼はこう付け加えた。

『アイする者同士が!』

 ズームアウト。
 両手を広げて叫んだ。
 さもそれは世界の真理であるかの様に。
 佐久田の部屋で一緒に見ていた俺は、思わず下唇を突きだして「うー」とうなった。

 そんな訳で、「戦争」が始まった。

 だがしかし、俺とか佐久田とか、そのもろもろの一般市民の生活には大して影響が出た訳じゃなかった。
 金髪男曰く、「戦争」は分かたれた国同士「のみ」がやり合うものであり、他を巻き込むものではないのだ、と。
 「壁」に関しても、別の国を中継点にすれば、分かたれ場所同士でやりとりもできる。
 人の出入りも貿易も可能だ、と。
 それを聞き、確かめた結果「何の意味があるんだ」と各国首脳は頭をかかえた。
 「何だかなあ」と俺を含めた一般市民はその現実から目を逸らすことにした。
 そうだろう。
 ただちょっと移動が困難になって、少しだけ物流に手間取るだけだ。
 これまでに起きてきた地震だの台風だの竜巻だのといった自然災害に比べれば何ってことはない、日常の延長だ。
 遠距離恋愛、単身赴任、出稼ぎその他流通に携わる人々ならともかく、半径数キロメートルで全ての人間関係が終わってしまう人々にとって「戦争」は遠い世界の出来事に過ぎなかった。
 いや、遠恋の人々にしたところで、本気の思いさえあれば何とかなった。
 他国で逢えばいいのだから。

 ――「赤紙」さえ来なければ。

 
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