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あれは半年程前のこと。
『……えー…… ここで臨時ニュースをお知らせします』
学食の真ん中にある馬鹿でかいTVモニタの中が不穏な空気を漂わせた時、俺と佐久田はいつもの様に昼飯のおかずの取り合いをしていた。
昼食時、賑やかな食堂の中、腹を減らした学生達(男女問わず)の耳に、緊張した顔のアナウンサ氏の声はすぐには届かなかった。
届いたのは、彼がこう言った時だった。
『……すみません。戦争が始まり…… 始まったそうです。始まりました』
ほえ? とその時やっと俺は箸を止めた。
一方佐久田はモニタに目を引きつけられた俺の、口元についたご飯粒を当たり前の様に回収していた。
さすがに学生達もようやく「お昼のニュース」がいつもとは違うことに気付いたらしい。
声が少しだけ静まり、視線がモニタへ集中した。
アナウンサ氏は放送事故になる寸前まで黙りこんだ。
画面が変わるか、と思われた瞬間、彼はデスクの上にばん、と手を打ち付けると、文字通り飛び乗った。
マイクを掴み、目を大きく見開きヒステリックに叫びだした。
『繰り返します! 聞いてくださいよ!』
はい、と思わず俺はうなづいてしまった。
『全世界で戦争が始まっちゃったんですよ!! お笑いぐさですよ!! ねえどうしたらいいいんでしょうかね!!』
あーはははははははははははははは。
笑う。
笑い続ける。
モニタの中で止める者は誰も居なかった。
ただでさえ滑舌の良いアナウンサ氏の、響く声、乾いた高笑いに、学食内が一瞬しん、と静まりかえった。
反応は様々だった。
何が起こったんだ、と顔を見合わせる者、とりあえず箸を止める者、何のネタだ、と胡散臭げに目を細める者……
ちなみに。
「なあ、戦争って今言った?」
俺は横に座っていた佐久田の顔を見た。
自分の耳が信用できない時には、奴に確認を取るのが常だった。
「そう聞こえた」
奴は平然と言った。
「何それ。お前もアレはネタと思ってる方?」
「いや……」
黒い四角いフレーム眼鏡の下の視線が動き、奴が何か言いかけた時。
画面が切り替わった。
穏やかな色彩の某国営放送のスタジオから、サイケデリックな色彩が閉じたり広がったりを繰り返す万華鏡の映像に。
悲痛な声を張り上げるアナウンサ氏から、嘘臭い笑みを満面にたたえた国籍不明の金髪男に。
ただ、浮かび上がった彼は、美男子でありながら、オールバックにチョピ髭、そしてロイド眼鏡。手にはしゃかしゃかと算盤を動かしている。
「さいざんす・マンボ?」
誰かの声が飛んだ。
そうそう、そんな感じだ。
その姿は、数日前に動画で見たトニー谷を思い出させた。
その男の顔が、ぐい、と目を中心に広角レンズを使った様にズームアップされた。
『わっかりませんかー? そんなご理解できないなんて、まあお馬鹿さんですねー。それではわっかる様に正確に言いますよぉ。今からアナタ方に、戦争をしてもらいましょ、ということです』
……これまた実に神経に障る口調で。
流暢すぎる日本語が更に嘘臭かった。
その頃には既に、学食は水を打った様に静まりかえっていた。
何かの冗談か、と思いつつも不吉な予感がしているのだろう、席を立つ者は誰も居なかった。
金髪男はにへらにへらと嫌らしく笑いながらその口を動かした。
更にそこに白手袋をした手も実に表情豊かに加わった。
『あなた方はよぉやく、ここまで育ってくれた。我々は、とても、嬉しい。さぁてさぞ、これからのゲェムは楽しいものになるでしょうねえ』
「ゲームだって?」
佐久田の声が俺の耳に飛び込んで来た。
「冗談じゃねえ」というつぶやきがそれに続いた。
珍しく本気で怒っている。
『さて、それでは今からアナタ方の言うところの各「国」という名の共同体を全て分断しまーす。はいっスタート!』
掛け声が決まった――
とばかりに、胡散臭い金髪男は「かっかっか」と水戸黄門式高笑いと共にフェイドアウトしていった。
彼が消えると同時にサイケデリック万華鏡もぷつりと消えた。
暗転。
数秒、テストパタンのカラーが出て。
復帰するまで、どのくらいかかっただろう?
ひどく長く感じた。
あれは半年程前のこと。
『……えー…… ここで臨時ニュースをお知らせします』
学食の真ん中にある馬鹿でかいTVモニタの中が不穏な空気を漂わせた時、俺と佐久田はいつもの様に昼飯のおかずの取り合いをしていた。
昼食時、賑やかな食堂の中、腹を減らした学生達(男女問わず)の耳に、緊張した顔のアナウンサ氏の声はすぐには届かなかった。
届いたのは、彼がこう言った時だった。
『……すみません。戦争が始まり…… 始まったそうです。始まりました』
ほえ? とその時やっと俺は箸を止めた。
一方佐久田はモニタに目を引きつけられた俺の、口元についたご飯粒を当たり前の様に回収していた。
さすがに学生達もようやく「お昼のニュース」がいつもとは違うことに気付いたらしい。
声が少しだけ静まり、視線がモニタへ集中した。
アナウンサ氏は放送事故になる寸前まで黙りこんだ。
画面が変わるか、と思われた瞬間、彼はデスクの上にばん、と手を打ち付けると、文字通り飛び乗った。
マイクを掴み、目を大きく見開きヒステリックに叫びだした。
『繰り返します! 聞いてくださいよ!』
はい、と思わず俺はうなづいてしまった。
『全世界で戦争が始まっちゃったんですよ!! お笑いぐさですよ!! ねえどうしたらいいいんでしょうかね!!』
あーはははははははははははははは。
笑う。
笑い続ける。
モニタの中で止める者は誰も居なかった。
ただでさえ滑舌の良いアナウンサ氏の、響く声、乾いた高笑いに、学食内が一瞬しん、と静まりかえった。
反応は様々だった。
何が起こったんだ、と顔を見合わせる者、とりあえず箸を止める者、何のネタだ、と胡散臭げに目を細める者……
ちなみに。
「なあ、戦争って今言った?」
俺は横に座っていた佐久田の顔を見た。
自分の耳が信用できない時には、奴に確認を取るのが常だった。
「そう聞こえた」
奴は平然と言った。
「何それ。お前もアレはネタと思ってる方?」
「いや……」
黒い四角いフレーム眼鏡の下の視線が動き、奴が何か言いかけた時。
画面が切り替わった。
穏やかな色彩の某国営放送のスタジオから、サイケデリックな色彩が閉じたり広がったりを繰り返す万華鏡の映像に。
悲痛な声を張り上げるアナウンサ氏から、嘘臭い笑みを満面にたたえた国籍不明の金髪男に。
ただ、浮かび上がった彼は、美男子でありながら、オールバックにチョピ髭、そしてロイド眼鏡。手にはしゃかしゃかと算盤を動かしている。
「さいざんす・マンボ?」
誰かの声が飛んだ。
そうそう、そんな感じだ。
その姿は、数日前に動画で見たトニー谷を思い出させた。
その男の顔が、ぐい、と目を中心に広角レンズを使った様にズームアップされた。
『わっかりませんかー? そんなご理解できないなんて、まあお馬鹿さんですねー。それではわっかる様に正確に言いますよぉ。今からアナタ方に、戦争をしてもらいましょ、ということです』
……これまた実に神経に障る口調で。
流暢すぎる日本語が更に嘘臭かった。
その頃には既に、学食は水を打った様に静まりかえっていた。
何かの冗談か、と思いつつも不吉な予感がしているのだろう、席を立つ者は誰も居なかった。
金髪男はにへらにへらと嫌らしく笑いながらその口を動かした。
更にそこに白手袋をした手も実に表情豊かに加わった。
『あなた方はよぉやく、ここまで育ってくれた。我々は、とても、嬉しい。さぁてさぞ、これからのゲェムは楽しいものになるでしょうねえ』
「ゲームだって?」
佐久田の声が俺の耳に飛び込んで来た。
「冗談じゃねえ」というつぶやきがそれに続いた。
珍しく本気で怒っている。
『さて、それでは今からアナタ方の言うところの各「国」という名の共同体を全て分断しまーす。はいっスタート!』
掛け声が決まった――
とばかりに、胡散臭い金髪男は「かっかっか」と水戸黄門式高笑いと共にフェイドアウトしていった。
彼が消えると同時にサイケデリック万華鏡もぷつりと消えた。
暗転。
数秒、テストパタンのカラーが出て。
復帰するまで、どのくらいかかっただろう?
ひどく長く感じた。
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