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気付くとそこはアースカラーの空間だった。
背中に佐久田のぬくもりがある。
腕が肩に回っている。
確かなのはそれだけだ。
足は確かに地面についている感触がある。
だが周囲360度、何処を見てもアースカラー。
「佐久田、なあ、ここ、何?」
「……判らん」
背後からの声はいつもより低い。
俺を抱き留める手の力も、心持ち強くなる。
「怖いか?」
佐久田は問いかける。
俺は首を横に振る。
怖いという気持ちは奇妙な程に無かった。
ただもう、性懲りも無く俺は考えていた。
「……なあ、ここってあの、みんなが戦わされてるとこ?」
「一応目に優しい色だな」
そうなのだ。
アースカラー。
上から下まで右から左までぐるりとひたすらアースカラー。
光源が何処にあるのかも判らないのに、辺りは明るい。
くっと顎を上げると、佐久田の顔がはっきり見える。
『SO! OK、れっつ・すたーと・ふぁいてぃんぐ!』
あの金髪男の声が響いた。
『何でもいいですよー。考えたものが出てきますよー。いいえどんな方法でもいいんですよー。相手を抹殺できるのなら』
途端に俺はむっとくるものを感じた。
あの胸くそ悪い映像の中、彼等はいつもこんなことを言われてたのか?
『おやおや仲いいですねー。そうだあなた方は赤紙でお互いの気持ちを知ったんでしたよねー。いいですよねー。今が幸せ絶頂でしょうねー』
声のする方向を俺は睨み付けた。
『でもここからも出たいでしょう?』
「ここは何処だよ!」
俺は叫んでいた。答えは無い。
『相手を倒せばアナタが出られます。アナタが死ねば相手が出られます。さあどうします?』
そうでなければ、ずっとこの空間に居続けることになると。
そう聞かされたのか。
でも、もし戻れても、それでどうする?
全国の視聴者が生き残った方が、相手を死に追いやったと知ってるじゃないか。
ああそうだ。
それで皆絶望したのか。
二人して死ぬ道を選んだのか。
冗談じゃ、ない。
怒りが更にふつふつと湧き上がる。
せっかく両思いになったというのに!
叶うなんて思っていなかったのに!
ぐるり、見渡す。
アースカラーの周囲には果てが何処にも無い。
でも、だからと言って「本当に」果てが無いとは限らないんじゃないか?
「佐久田」
するり、奴の腕の中を抜け出し、俺は奴の両腕を取る。
どうした、と無言で眼鏡越しの視線が問いかけてくる。
「戦おう」
ガラスの向こうの目が大きく広がる。
「本気か?」
「お前とじゃない」
奴の腕を握ったまま、目を閉じる。
ドラマや映画やゲームで見知った武器をおぼろげながら想像する。
そして願う。
出てこい出てこい。
するとばらばら、と音を立てて、何処からか武器が降ってくる。
湧いてくる。
銃だの剣だの刀だの、何だこれは手裏剣か。
ああこれも判る。
手榴弾。
マンガで見たことがある、ピン型の信管のついた奴。
拾い上げてみるとずしりと重い。
「何を……」
「もちろん」
俺はぐい、と信管を抜いた。
そして勢い良く斜め上に投げる。
数秒。
アースカラーの中に、突然ひどい爆音と共に炎が広がる。
危ない、と佐久田が俺を抱え込んで伏せた。
「お前、何無茶なことしてるんだよ」
「無茶じゃない」
キーン、としている耳を押さえながら、俺は投げた方向を指し示す。
斜め上から更に上に向かって煙が出ていた。
空中で破裂して落ちたなら、もっと下から上がるはずのものが。
「何か」ある。
この生中継の舞台は全く何も無い場所じゃない!
「結末は、どうせ同じなんだろ!」
俺は金髪男に対して叫んだ。
「だったらここをぶっ壊してやる!」
いいだろ? と俺は佐久田に視線で問いかける。
奴は少しの間、黙りこんだ。
眼鏡を取り、ふう、と軽くため息をつく。
どうだろう。
俺は奴の反応が怖かった。
信じたい。
でももしかしたら同じ様には考えてはくれないかもしれない。
やがて眼鏡をかけ直すと、佐久田はおいで、と俺に手招きをした。
無心で俺は近寄る。
と。
ぐっ、と右手で腕を引き寄せられ。
ぐい、と左手で顎を掴まれ。
気が付けば深い深いキスをされていた。
ややかさついた唇も、そのすき間から俺の中へ侵入してくる舌の熱さも、これまでに俺がこっそり想像していたものよりずっと強烈だった。
身体から力が抜ける。
一分…… 二分……
どのくらい続けただろう?
山の様に積まれた武器の真ん中で、俺達はひたすらお互いの唇を貪っていた。
やがて下半身にも興奮が伝わってくる。
そのままなし崩しにセックスになだれ込んでしまってもいい様な気も、一瞬、した。
だが一瞬だ。
俺は勇気を出して奴の身体を引きはがした。
耳たぶまで熱くなっている顔で、まっすぐ奴を見つめる。
「続きは、生き残ってからだ。……それから、しよう」
最後は小声になった。
佐久田は黙って笑った。
そしてうなづいた。
うなづいてくれた。
気付くとそこはアースカラーの空間だった。
背中に佐久田のぬくもりがある。
腕が肩に回っている。
確かなのはそれだけだ。
足は確かに地面についている感触がある。
だが周囲360度、何処を見てもアースカラー。
「佐久田、なあ、ここ、何?」
「……判らん」
背後からの声はいつもより低い。
俺を抱き留める手の力も、心持ち強くなる。
「怖いか?」
佐久田は問いかける。
俺は首を横に振る。
怖いという気持ちは奇妙な程に無かった。
ただもう、性懲りも無く俺は考えていた。
「……なあ、ここってあの、みんなが戦わされてるとこ?」
「一応目に優しい色だな」
そうなのだ。
アースカラー。
上から下まで右から左までぐるりとひたすらアースカラー。
光源が何処にあるのかも判らないのに、辺りは明るい。
くっと顎を上げると、佐久田の顔がはっきり見える。
『SO! OK、れっつ・すたーと・ふぁいてぃんぐ!』
あの金髪男の声が響いた。
『何でもいいですよー。考えたものが出てきますよー。いいえどんな方法でもいいんですよー。相手を抹殺できるのなら』
途端に俺はむっとくるものを感じた。
あの胸くそ悪い映像の中、彼等はいつもこんなことを言われてたのか?
『おやおや仲いいですねー。そうだあなた方は赤紙でお互いの気持ちを知ったんでしたよねー。いいですよねー。今が幸せ絶頂でしょうねー』
声のする方向を俺は睨み付けた。
『でもここからも出たいでしょう?』
「ここは何処だよ!」
俺は叫んでいた。答えは無い。
『相手を倒せばアナタが出られます。アナタが死ねば相手が出られます。さあどうします?』
そうでなければ、ずっとこの空間に居続けることになると。
そう聞かされたのか。
でも、もし戻れても、それでどうする?
全国の視聴者が生き残った方が、相手を死に追いやったと知ってるじゃないか。
ああそうだ。
それで皆絶望したのか。
二人して死ぬ道を選んだのか。
冗談じゃ、ない。
怒りが更にふつふつと湧き上がる。
せっかく両思いになったというのに!
叶うなんて思っていなかったのに!
ぐるり、見渡す。
アースカラーの周囲には果てが何処にも無い。
でも、だからと言って「本当に」果てが無いとは限らないんじゃないか?
「佐久田」
するり、奴の腕の中を抜け出し、俺は奴の両腕を取る。
どうした、と無言で眼鏡越しの視線が問いかけてくる。
「戦おう」
ガラスの向こうの目が大きく広がる。
「本気か?」
「お前とじゃない」
奴の腕を握ったまま、目を閉じる。
ドラマや映画やゲームで見知った武器をおぼろげながら想像する。
そして願う。
出てこい出てこい。
するとばらばら、と音を立てて、何処からか武器が降ってくる。
湧いてくる。
銃だの剣だの刀だの、何だこれは手裏剣か。
ああこれも判る。
手榴弾。
マンガで見たことがある、ピン型の信管のついた奴。
拾い上げてみるとずしりと重い。
「何を……」
「もちろん」
俺はぐい、と信管を抜いた。
そして勢い良く斜め上に投げる。
数秒。
アースカラーの中に、突然ひどい爆音と共に炎が広がる。
危ない、と佐久田が俺を抱え込んで伏せた。
「お前、何無茶なことしてるんだよ」
「無茶じゃない」
キーン、としている耳を押さえながら、俺は投げた方向を指し示す。
斜め上から更に上に向かって煙が出ていた。
空中で破裂して落ちたなら、もっと下から上がるはずのものが。
「何か」ある。
この生中継の舞台は全く何も無い場所じゃない!
「結末は、どうせ同じなんだろ!」
俺は金髪男に対して叫んだ。
「だったらここをぶっ壊してやる!」
いいだろ? と俺は佐久田に視線で問いかける。
奴は少しの間、黙りこんだ。
眼鏡を取り、ふう、と軽くため息をつく。
どうだろう。
俺は奴の反応が怖かった。
信じたい。
でももしかしたら同じ様には考えてはくれないかもしれない。
やがて眼鏡をかけ直すと、佐久田はおいで、と俺に手招きをした。
無心で俺は近寄る。
と。
ぐっ、と右手で腕を引き寄せられ。
ぐい、と左手で顎を掴まれ。
気が付けば深い深いキスをされていた。
ややかさついた唇も、そのすき間から俺の中へ侵入してくる舌の熱さも、これまでに俺がこっそり想像していたものよりずっと強烈だった。
身体から力が抜ける。
一分…… 二分……
どのくらい続けただろう?
山の様に積まれた武器の真ん中で、俺達はひたすらお互いの唇を貪っていた。
やがて下半身にも興奮が伝わってくる。
そのままなし崩しにセックスになだれ込んでしまってもいい様な気も、一瞬、した。
だが一瞬だ。
俺は勇気を出して奴の身体を引きはがした。
耳たぶまで熱くなっている顔で、まっすぐ奴を見つめる。
「続きは、生き残ってからだ。……それから、しよう」
最後は小声になった。
佐久田は黙って笑った。
そしてうなづいた。
うなづいてくれた。
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