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カーペットの上で、二匹の猫の様に軽いキスや、じゃれてごろごろとしているうちに夜が来た。
そして腹が減った。
佐久田からも要望があったので、冷蔵庫の中のもので俺は適当に食事を作ることにした。
買いだしに出ようかとも思ったが、佐久田がそれを嫌がった。
外に出ている時に召集されたらどうする、と。
赤紙が来てから召集されるまで、何日、いや何時間かかるのだろう。
遠いことではないのだろう。
何にせよ、当初の動揺はいつの間にか治まっている。
奴が一緒に居るせいだろう。
その佐久田は、キッチンに立つ俺を横目で見つつも、TVを何となくつけていた。
狭い部屋だ。
料理をしながらでも内容は判る。
芸能界一のおしゃべり男が今日も今日とてハイテンションで司会をしているトーク番組。
最近では珍しいゴールデンタイムの生放送だ。
お題に沿って、ゲストが司会に指名され、自分自身の体験のトークをしていくというもの。大物芸人が若手をいじる時のそのリアクションが受けて、最近では生も見直されつつあると聞く。
本日最初のお題は「生まれてこのかた最悪だったと思うこと」。
「おい佐久田ー、誰が今日出てるー?」
俺はざくざく、と白菜を切りながら問いかける。
今日はもう適当な煮込みだ。
幸い白菜もネギも肉も少しずつ買い置きがあった。
味付けは何にしよう。
だしにしょうゆ。味噌?
それともいっそごま油で炒めて中華風……
「若手芸人特集だな。最近売れ出した連中。年末のM―1の決勝がどうの、と言ってるぞ」
「M―1グランプリかー。見たいなあ」
つぶやいてからはっとする。
それまで自分達は無事でいられるだろうか。
いや、無理だ。
ふとトマト缶が目に入る。
オリーブオイルは……
まだあった。
バジルも佐久田が買ってきて置いたのが。
ガーリック…… ある。
そうだいっそイタ飯もどきにしよう。
そう思って、両手鍋を下ろして片手鍋を取り出し、コンロの上に置く。
炒めてからならこっちの方が楽だ。
その間にもトークが進められているらしい。
時々一気に笑いがTVの中から聞こえてくる。
皆そんなに最近「最悪なこと」があったのか、大変なことで。俺等なんか。
やや自嘲気味に、内心悪態をつく。
そして安売り輸入缶のホールトマトは片手で開けられる様なものではないことに気づき、引き出しから缶切りを取り出す。
と。
「高村!」
佐久田の叫び声が聞こえた。
瞬間移動でもしたのか、というくらい奴は素早くこちらへ移動した。
そしてぐい、と俺を抱き寄せる。
「ななななな」
黙って佐久田は画面を指さす。
そこには目と口をこれでもかとばかりに大きく開け、硬直している司会者の姿があった。
他の出演者も皆、声が止まっていた。
次にカメラが不自然に素早い動きで、俺達も知っている若手芸人コンビを映す。
『やっぱコレって最悪ちゃいます?』
『なぁ』
顔を見合わせ、並ぶ二人の揃って挙げた右手には、何処かで見た様な…… サモンピンクの封筒が……
「え、こいつ等できてたの?」
思わず俺はそう叫んでしまった。
いや問題はそこではなく。
『大体コイツが、実はあっちの県でしたー、なんて、オレ言われるまで気付かんかったわ。どないしてくれる』
片方がそう言って相方の頭をげし、と殴る。
うわ、哀しい。
それ何処かで聞いた話だ。
『そんなコト言うたかて、生まれるトコ指定できひんし』
『オマエおかんの腹ん中で何とかできひんかったか?』
『キミ時々無茶言うな』
そんな応酬の後、彼等はふと黙り込み――
やがてひし、と抱き合った。
『ネタやったら良かったのになぁ』
『ホンマやわぁ』
二人はその場でおいおい泣き出し――
……やがて、ふっ…… と消えた。
司会者は特有の声で、「ほぇー!」と叫んだ。
他の出演者の動揺が次々に映し出されて行く中、自分の視界が次第に揺らぎ、色を無くして行くのを俺は感じていた。
そして腹が減った。
佐久田からも要望があったので、冷蔵庫の中のもので俺は適当に食事を作ることにした。
買いだしに出ようかとも思ったが、佐久田がそれを嫌がった。
外に出ている時に召集されたらどうする、と。
赤紙が来てから召集されるまで、何日、いや何時間かかるのだろう。
遠いことではないのだろう。
何にせよ、当初の動揺はいつの間にか治まっている。
奴が一緒に居るせいだろう。
その佐久田は、キッチンに立つ俺を横目で見つつも、TVを何となくつけていた。
狭い部屋だ。
料理をしながらでも内容は判る。
芸能界一のおしゃべり男が今日も今日とてハイテンションで司会をしているトーク番組。
最近では珍しいゴールデンタイムの生放送だ。
お題に沿って、ゲストが司会に指名され、自分自身の体験のトークをしていくというもの。大物芸人が若手をいじる時のそのリアクションが受けて、最近では生も見直されつつあると聞く。
本日最初のお題は「生まれてこのかた最悪だったと思うこと」。
「おい佐久田ー、誰が今日出てるー?」
俺はざくざく、と白菜を切りながら問いかける。
今日はもう適当な煮込みだ。
幸い白菜もネギも肉も少しずつ買い置きがあった。
味付けは何にしよう。
だしにしょうゆ。味噌?
それともいっそごま油で炒めて中華風……
「若手芸人特集だな。最近売れ出した連中。年末のM―1の決勝がどうの、と言ってるぞ」
「M―1グランプリかー。見たいなあ」
つぶやいてからはっとする。
それまで自分達は無事でいられるだろうか。
いや、無理だ。
ふとトマト缶が目に入る。
オリーブオイルは……
まだあった。
バジルも佐久田が買ってきて置いたのが。
ガーリック…… ある。
そうだいっそイタ飯もどきにしよう。
そう思って、両手鍋を下ろして片手鍋を取り出し、コンロの上に置く。
炒めてからならこっちの方が楽だ。
その間にもトークが進められているらしい。
時々一気に笑いがTVの中から聞こえてくる。
皆そんなに最近「最悪なこと」があったのか、大変なことで。俺等なんか。
やや自嘲気味に、内心悪態をつく。
そして安売り輸入缶のホールトマトは片手で開けられる様なものではないことに気づき、引き出しから缶切りを取り出す。
と。
「高村!」
佐久田の叫び声が聞こえた。
瞬間移動でもしたのか、というくらい奴は素早くこちらへ移動した。
そしてぐい、と俺を抱き寄せる。
「ななななな」
黙って佐久田は画面を指さす。
そこには目と口をこれでもかとばかりに大きく開け、硬直している司会者の姿があった。
他の出演者も皆、声が止まっていた。
次にカメラが不自然に素早い動きで、俺達も知っている若手芸人コンビを映す。
『やっぱコレって最悪ちゃいます?』
『なぁ』
顔を見合わせ、並ぶ二人の揃って挙げた右手には、何処かで見た様な…… サモンピンクの封筒が……
「え、こいつ等できてたの?」
思わず俺はそう叫んでしまった。
いや問題はそこではなく。
『大体コイツが、実はあっちの県でしたー、なんて、オレ言われるまで気付かんかったわ。どないしてくれる』
片方がそう言って相方の頭をげし、と殴る。
うわ、哀しい。
それ何処かで聞いた話だ。
『そんなコト言うたかて、生まれるトコ指定できひんし』
『オマエおかんの腹ん中で何とかできひんかったか?』
『キミ時々無茶言うな』
そんな応酬の後、彼等はふと黙り込み――
やがてひし、と抱き合った。
『ネタやったら良かったのになぁ』
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二人はその場でおいおい泣き出し――
……やがて、ふっ…… と消えた。
司会者は特有の声で、「ほぇー!」と叫んだ。
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