〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩

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162 次の一手を探して①機械を入れた結果

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 縫製機械の導入は大きかった。
 導入したこの年だけでも、それまでの倍以上の服を作ることができた。
 ちなみに縫製機械を使うのはサミューリンだった。

「何で私が? まずはテンダー様では?」
「私はもう頭が固くなってしまっているし。サミューは元々覚えがいいわ。あと何と言っても」

 テンダーはポーレと共に苦笑した。

「どうしても私達機械は苦手でね」
「それにこれ、足をばたばたさせるでしょう? 私達がやるともう足が吊りそうで」
「あーそうですか」

 サミューリンは納得と呆れ半々の表情で大人達を眺めたものだった。

 そんな彼女が動かす機械によって、まず何と言っても、綿生地の服の量が増えた。
 夏に最も着られるが、他の季節でも室内着の基本。
 それだけに、倍以上製作時間が短くなったのは大きい。
 次に冬物。
 何と言っても、厚手生地に手を広げることができるというのは大きかった。
 それまでは手間や力の関係もあり、敬遠していたところもあった。
 ウッドマンズ工房でも扱うことはなかった。
 あくまでカメリアの工房では、室内用のドレスが作られていた。
 だがテンダーは、ここぞとばかりに冬の外出の際の上着に手を出した。
 冬の外套に関しては、帝都であってすら、それまで実用一辺倒だった。
 上流階級の子女はともかくぬくぬくとした毛皮のそれをまとって馬車に乗り込み、予定の場所に着いたらすぐに暖かい中でそれを取ってしまう。
 外で遊ぶということは殆ど無い。
 買い物に出る際でも同様だった。
 彼女達が行く様な場所は店内も暖かく、外套は入り口で預けてしまうのだ。
 だがあいにくテンダーの相手はそこではない。
 冬であっても街中に出て自分で歩いてあちこちへ行くお嬢さん方ご婦人方なのだ。
 それなら冬の上着がもっと楽しくなればいいのではないか?
 ――とは思っていた。
 だが厚手の生地がそれまでその試みを邪魔していた。
 手縫いで厚手の生地に針を通すには、やはり指先に力が必要なのだ。
 試していた一時期、テンダーの人差し指の爪の内側が剥がれて浮いてしまったことがあるくらいだった。
 疲れもあっただろうが、さすがにそれには彼女も困った。
 だが縫製機械はその悩みを解決してくれた。
 針と糸と調子を変えることで厚手のものを縫うのが楽になったというのは大きい。
 それはテンダーだけではない。

「毛皮の縫い付けがこんなに楽だなんて!」

 故郷でいちいち穴を空けてから縫っていたというサミューリンは、袖口に縫い付けながら感動していた。
 曰く、ともかく皮革というものは針を押し込むこと自体が厄介なのだ、と。

「だから革細工は男の仕事でしたねえ。厚さによっては、いちいちあらかじめ穴を空けてからそこに糸なり紐を通すんですよ」

 なのに自分でできるなんて! しかも上着まで! というのが何処までも嬉しかったのだそうだ。
 もっとも、サミューリンもすぐに皮革まで自由自在に扱える様になった訳ではない。
 そもそも導入して一ヶ月は指導員がついていた。
 軍服の縫製工場で同じ型の汎用機械を扱っている女性は、ともかく安全第一! ということをサミューリンに叩き込んでいた。

「針の付け方を間違えたら、折れて何処かにいきなり飛んで、誰かしらを傷つけることもあるんですよ! うちの工場では目をやられた者もおりました」

 この脅しは効いた。
 サミューリンはともかく針と糸、そして糸調子については理屈と感覚を自分の中に叩き込んだのだ。
 約束の一ヶ月の期間を終えた時、指導員は「自分の教えることは何も無い、むしろもう教えられる」と満足げに去っていったくらいだった。
 とは言え、それはあくまで夏付近の話であり、その後来た冬に向かう季節に必要な厚い生地であり、毛皮や皮革を含むものに関しては、調整を端切れで手探りでやっていくしかなかった。
 サミューリンは元々どちらかというと感覚より理屈が勝っていたのも大きかった。
 彼女はそんな経験したものをノートに付けていた。
 無論、針や機械の手入れも。
 結果、翌年はもう一台の機械と、二人の縫い子を増やすこととなった。
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