190 / 208
182 発表会来たる③直前舞台裏
しおりを挟む
「うわ、緊張してきた」
「何あんた舞台の時には平気なのに」
「だって舞台はやることが決まってるじゃない」
若い女優達は服を着け、髪飾りや帽子をつけ、少しばかり普段より涼しい足元を気にしながらそんなことを口にする。
「んー、何かちょっと今日この靴きついんだけど」
「腫れてんの? それとも太った?」
「違うってば! 朝は元々靴がきつくなるの!」
まあそれはよくあることだ、と皆微笑ましく聞いている。
足元が気になるのは、スカート丈がほんの少し短いのと、生地が非常に軽いせいもある。
普段彼女達が着ている服は重力に従ってすとんと落ち、重ねた下着と共に足を隠し、風にも飛ぶことは無い。
だが今回のスカートはふわっと広がることが特徴だった。
風に翻る程の軽さと、その鮮やかな模様。
そのため足もある程度出ることが前提だったので、靴下や靴には特に気がつかわれていた。
「新しい素材の靴下の宣伝にもなるな」
提供したセレも言う。
新素材で作られたそれは、薄手の膝下靴下の中では、それまでの主流である絹のものよりずっと安価だった。
耐久性にはまだやや難ありだったが、たまに着る街着としては悪くはない。
「今まで靴下を引っかけたらいちいち自分でかがっていたものねえ」
そう、金持ちで無い限り、絹の靴下は引っかけて穴を空けてしまった時には、専用の編み針で自身でかがるのが普通だった。
「でもセレ様のおっしゃるお値段だったら、破けた時には捨てても心が痛まないわ」
「でも薄すぎるからかしら、ちょっと靴に足が擦れて」
「それは靴が新しいからでしょ?」
自身の靴で合いそうなものがある場合にはそれでも良い、としていた。
だが実際、若手の女優達は舞台でぱっと見せられる程の靴は持っていない。
まあ「これに合う服を私は」と言って、足首までの編み上げ靴で舞台を歩く、と言った強者も居たが。
そういう女優の求めにテンダーは応じた。
実際普段は編み上げ短靴で歩く者も多かったのだ。
その一方で、ここぞとばかりに普段は履けない小綺麗な靴を、と用意されたものに飛びつく者も居た。
淡い色のすっきりしたデザインの靴など普段は履けない、ときゃいきゃいと嬉しがる者も居たのだ。
ただそれを見てヒドゥンは黙って何か考え込んでいる様だった。
どうしたんですか、とテンダーが訊ねても、「考えすぎなことだと思うから」と口にはしなかった。
開演の時間が近づいてくるので、テンダーは自分の口上の原稿を見て要点を覚えるのに頭がいっぱいで、それ以上のことは彼に訊ねなかった。
発表会は全体が一時間程度のものである。それを三回行う。
ただし昼の二回と夜の一回では演出がやや変わる。
「昼の部」が昼食とお茶の時間に差し込む窓からの光の下に相応しい服を見せる予定だった。
自然光のもと、若手女優達を中心に、ひらひらとしたスカートを翻させるのがこの時間帯のものだった。
対し、夕食時に合わせた「夜の部」のそれは、照明のもと、伸縮する素材のスカートとジャケットを見せるのが中心の、ゆっくりと落ち着いたものだった。
なお、花嫁衣装に関しては「昼の部」の二回目と夜に見せることになっていた。
結婚式を行うのは、この辺りの慣習では大概昼だが、夜にかけてずっと衣装をつけていることも多い。
そしてまた、昼の部でも見せる/見せないと分けたのは、数日にかけて行われる中で、時間による特別感が欲しかったというものもあった。
ちなみにこの花嫁衣装を着ることになっていたのは、ポーレと体型がまあまあ近い、若手女優のミナ・ランシーだった。
最も近かったのはアリュール・ルダの方だったのだが、彼女曰く「自分の結婚前に衣装を着てしまうと婚期が遅れるってお母ちゃんから言われていて」とのこと。
実際その様な言い伝えはあちこちにあるので、テンダーも無理強いはしなかった。
ミナの方は靴も新しいものを、と張り切っていた。どうやら古い慣習より着てみたいものの方が大きいらしい。
それだけでなく、大トリに自分、というのが大きかったらしい。
意欲があるならいいかな、とテンダーは思っていたが、その辺りにもヒドゥンは微妙な表情をしていた。
が、やはりテンダーはこの時点では自分のことで精一杯だった。
何と言っても最初のことなのだ。
「何あんた舞台の時には平気なのに」
「だって舞台はやることが決まってるじゃない」
若い女優達は服を着け、髪飾りや帽子をつけ、少しばかり普段より涼しい足元を気にしながらそんなことを口にする。
「んー、何かちょっと今日この靴きついんだけど」
「腫れてんの? それとも太った?」
「違うってば! 朝は元々靴がきつくなるの!」
まあそれはよくあることだ、と皆微笑ましく聞いている。
足元が気になるのは、スカート丈がほんの少し短いのと、生地が非常に軽いせいもある。
普段彼女達が着ている服は重力に従ってすとんと落ち、重ねた下着と共に足を隠し、風にも飛ぶことは無い。
だが今回のスカートはふわっと広がることが特徴だった。
風に翻る程の軽さと、その鮮やかな模様。
そのため足もある程度出ることが前提だったので、靴下や靴には特に気がつかわれていた。
「新しい素材の靴下の宣伝にもなるな」
提供したセレも言う。
新素材で作られたそれは、薄手の膝下靴下の中では、それまでの主流である絹のものよりずっと安価だった。
耐久性にはまだやや難ありだったが、たまに着る街着としては悪くはない。
「今まで靴下を引っかけたらいちいち自分でかがっていたものねえ」
そう、金持ちで無い限り、絹の靴下は引っかけて穴を空けてしまった時には、専用の編み針で自身でかがるのが普通だった。
「でもセレ様のおっしゃるお値段だったら、破けた時には捨てても心が痛まないわ」
「でも薄すぎるからかしら、ちょっと靴に足が擦れて」
「それは靴が新しいからでしょ?」
自身の靴で合いそうなものがある場合にはそれでも良い、としていた。
だが実際、若手の女優達は舞台でぱっと見せられる程の靴は持っていない。
まあ「これに合う服を私は」と言って、足首までの編み上げ靴で舞台を歩く、と言った強者も居たが。
そういう女優の求めにテンダーは応じた。
実際普段は編み上げ短靴で歩く者も多かったのだ。
その一方で、ここぞとばかりに普段は履けない小綺麗な靴を、と用意されたものに飛びつく者も居た。
淡い色のすっきりしたデザインの靴など普段は履けない、ときゃいきゃいと嬉しがる者も居たのだ。
ただそれを見てヒドゥンは黙って何か考え込んでいる様だった。
どうしたんですか、とテンダーが訊ねても、「考えすぎなことだと思うから」と口にはしなかった。
開演の時間が近づいてくるので、テンダーは自分の口上の原稿を見て要点を覚えるのに頭がいっぱいで、それ以上のことは彼に訊ねなかった。
発表会は全体が一時間程度のものである。それを三回行う。
ただし昼の二回と夜の一回では演出がやや変わる。
「昼の部」が昼食とお茶の時間に差し込む窓からの光の下に相応しい服を見せる予定だった。
自然光のもと、若手女優達を中心に、ひらひらとしたスカートを翻させるのがこの時間帯のものだった。
対し、夕食時に合わせた「夜の部」のそれは、照明のもと、伸縮する素材のスカートとジャケットを見せるのが中心の、ゆっくりと落ち着いたものだった。
なお、花嫁衣装に関しては「昼の部」の二回目と夜に見せることになっていた。
結婚式を行うのは、この辺りの慣習では大概昼だが、夜にかけてずっと衣装をつけていることも多い。
そしてまた、昼の部でも見せる/見せないと分けたのは、数日にかけて行われる中で、時間による特別感が欲しかったというものもあった。
ちなみにこの花嫁衣装を着ることになっていたのは、ポーレと体型がまあまあ近い、若手女優のミナ・ランシーだった。
最も近かったのはアリュール・ルダの方だったのだが、彼女曰く「自分の結婚前に衣装を着てしまうと婚期が遅れるってお母ちゃんから言われていて」とのこと。
実際その様な言い伝えはあちこちにあるので、テンダーも無理強いはしなかった。
ミナの方は靴も新しいものを、と張り切っていた。どうやら古い慣習より着てみたいものの方が大きいらしい。
それだけでなく、大トリに自分、というのが大きかったらしい。
意欲があるならいいかな、とテンダーは思っていたが、その辺りにもヒドゥンは微妙な表情をしていた。
が、やはりテンダーはこの時点では自分のことで精一杯だった。
何と言っても最初のことなのだ。
85
あなたにおすすめの小説
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!
山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。
「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」
周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。
アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。
ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。
その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。
そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。
転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。
桜城恋詠
ファンタジー
聖女見習いのロルティ(6)は、五月雨瑠衣としての前世の記憶を思い出す。
異世界から召喚された聖女が、自身を虐げてきた前世の姉だと気づいたからだ。
彼女は神官に聖女は2人もいらないと教会から追放。
迷いの森に捨てられるが――そこで重傷のアンゴラウサギと生き別れた実父に出会う。
「絶対、誰にも渡さない」
「君を深く愛している」
「あなたは私の、最愛の娘よ」
公爵家の娘になった幼子は腹違いの兄と血の繋がった父と母、2匹のもふもふにたくさんの愛を注がれて暮らす。
そんな中、養父や前世の姉から命を奪われそうになって……?
命乞いをしたって、もう遅い。
あなたたちは絶対に、許さないんだから!
☆ ☆ ☆
★ベリーズカフェ(別タイトル)・小説家になろう(同タイトル)掲載した作品を加筆修正したものになります。
こちらはトゥルーエンドとなり、内容が異なります。
※9/28 誤字修正
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる