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183 発表会来たる④はじまり~お昼の部・アクシデント
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昼の鐘が何処かで鳴ったのを合図に、店内で流れる音楽が止まった。
と同時に、それまで閉ざされていた緞帳が上がる。
軽い昼食と共にその時間を待っていた客達のさざめきも鎮まる。
舞台中央にテンダーはゆっくりと歩みを進め、声を張り上げた。
「本日は我がテンダー・ウッドマンズ工房の春夏の新作発表会にありがとうございます。ほんのひとときですが、この春夏に我が工房が新たに製作し売り出す予定の服を実際にご覧下さい」
客の手には、既に三部それぞれで見せる予定の服がナンバーつきで記された二つ折りの厚紙のパンフレットがある。
写真も絵も無し。
ただ文字でのみその服についての情報が記されている。
テンダーの挨拶ののち、会場には常に流れている静かな音楽とは違う、弾む様な踊りの曲が始まった。
そして一人、また一人と番号札を持った女優達が音楽に乗った弾む様な足取りで舞台の右から中央――そして花道へとゆっくりと進んで行く。
軽い素材のスカートは彼女達の動きにつれて揺れ、プリントされた大きな花もまた、鮮やかな軌跡を観客の目の裏に残して行く。
マリナの様な背の高い女優はやや動きも大きい。
花道の端、二の腕の半分辺りの袖から伸びた腕で、短い髪の上に乗せた帽子を取ってはくるり。
帽子に飾られた花飾りもひらり。
さりげなく、だが全身くまなく見せつけていく様が、既にある程度の年季の入った女優の貫禄をも感じさせる。
だがその一方で、マリナは「自分自身」はかなり抑えていた。
主役は服。
彼女はあくまで服を見せる動きを端から端まで徹底する。
そんな女優達が、花道に行った時点で次々にと現れる。
一人に目を奪われていたと思ったらすぐに次が。
「……確か、あの方……」
「ええ、でも……」
客達は女優達が誰だったか、思い出そうとするのだが、その余裕も与えずに次々と新しい服が目の前にやってくる。
パンフレットと突き合わせ、これがいい、と思ったら客の彼女達は持っていたペンで番号に瞬時に丸をつけていく。
「速すぎません?」
「や、これでいい」
次から次へとめまぐるしく女優達を歩かせることを決めたヒドゥンはじっとその様子を見据えている。
腕組みをし、真剣な眼差しで、主に彼女達の足元を見つめている。
――と。
総勢二十五人がほぼ2回着替えては舞台裏を慌てて回り、また右手から出ていくという流れを繰り返した終盤――
彼の形の良い眉がひゅっ、と動き、組んでいた腕が外れた。
慌てて舞台裏の通路へと向かうと、戻ってくる女優達に向かい声を張り上げた。
「ミナ! ミナは居る?」
「は、はい……」
珍しい剣幕に、テンダーは何事か、と思ったが終わるまでは舞台袖を離れる訳にはいかない。
普段はああいう声は上げない。
その彼は、ミナ・ランシーの前にかがみ込むと、彼女の左足首をぐっと掴んだ。
「!」
声にならない悲鳴がミナの喉から漏れる。
「やっぱりな」
「す、すみません! でもまだできます!」
そう言うミナを黙って彼は右手の舞台袖へと引っ張って行き、椅子に掛けさせる。
「ファン先生!」
「お? 何だ俺の出番か?」
「出番だよ。ミナが足くじいてる。あと靴擦れも酷い。すぐに見て」
「よっしゃ」
そのやりとりを聞いてテンダーはぱっと振り向いた。
「いや、キミは舞台見てて」
「でも」
「ミナの出番は昼の部はもう無いから」
「あ…… そうでしたね」
二周の後、彼女の出番は無い。昼の部では。
「あ……!」
昼の部では無い。
だが、お茶の時間の大トリ。
花嫁衣装が彼女にはあるのだ。
「だ、大丈夫でしょうか、足? 足なんですよね?」
「まあそう酷くは無いし」
「や、でもテンダー嬢、結構腫れてきたぞ」
ファン医師の声が届く。
「大丈夫です、私できます!」
外には聞こえない程度に、それでも叫ぶ様にミナは訴える。
するとファン医師はやや大げさに首を横に振り。
「いやいやお嬢さん、お茶の時間にはちょっと厳しいぜ」
「それじゃ……」
どうしよう、と思ったテンダーの肩をぽん、とヒドゥンは丸めたパンフレットで叩く。
「仕方ない」
ふう、と彼は息をつく。
「俺がやるから」
と同時に、それまで閉ざされていた緞帳が上がる。
軽い昼食と共にその時間を待っていた客達のさざめきも鎮まる。
舞台中央にテンダーはゆっくりと歩みを進め、声を張り上げた。
「本日は我がテンダー・ウッドマンズ工房の春夏の新作発表会にありがとうございます。ほんのひとときですが、この春夏に我が工房が新たに製作し売り出す予定の服を実際にご覧下さい」
客の手には、既に三部それぞれで見せる予定の服がナンバーつきで記された二つ折りの厚紙のパンフレットがある。
写真も絵も無し。
ただ文字でのみその服についての情報が記されている。
テンダーの挨拶ののち、会場には常に流れている静かな音楽とは違う、弾む様な踊りの曲が始まった。
そして一人、また一人と番号札を持った女優達が音楽に乗った弾む様な足取りで舞台の右から中央――そして花道へとゆっくりと進んで行く。
軽い素材のスカートは彼女達の動きにつれて揺れ、プリントされた大きな花もまた、鮮やかな軌跡を観客の目の裏に残して行く。
マリナの様な背の高い女優はやや動きも大きい。
花道の端、二の腕の半分辺りの袖から伸びた腕で、短い髪の上に乗せた帽子を取ってはくるり。
帽子に飾られた花飾りもひらり。
さりげなく、だが全身くまなく見せつけていく様が、既にある程度の年季の入った女優の貫禄をも感じさせる。
だがその一方で、マリナは「自分自身」はかなり抑えていた。
主役は服。
彼女はあくまで服を見せる動きを端から端まで徹底する。
そんな女優達が、花道に行った時点で次々にと現れる。
一人に目を奪われていたと思ったらすぐに次が。
「……確か、あの方……」
「ええ、でも……」
客達は女優達が誰だったか、思い出そうとするのだが、その余裕も与えずに次々と新しい服が目の前にやってくる。
パンフレットと突き合わせ、これがいい、と思ったら客の彼女達は持っていたペンで番号に瞬時に丸をつけていく。
「速すぎません?」
「や、これでいい」
次から次へとめまぐるしく女優達を歩かせることを決めたヒドゥンはじっとその様子を見据えている。
腕組みをし、真剣な眼差しで、主に彼女達の足元を見つめている。
――と。
総勢二十五人がほぼ2回着替えては舞台裏を慌てて回り、また右手から出ていくという流れを繰り返した終盤――
彼の形の良い眉がひゅっ、と動き、組んでいた腕が外れた。
慌てて舞台裏の通路へと向かうと、戻ってくる女優達に向かい声を張り上げた。
「ミナ! ミナは居る?」
「は、はい……」
珍しい剣幕に、テンダーは何事か、と思ったが終わるまでは舞台袖を離れる訳にはいかない。
普段はああいう声は上げない。
その彼は、ミナ・ランシーの前にかがみ込むと、彼女の左足首をぐっと掴んだ。
「!」
声にならない悲鳴がミナの喉から漏れる。
「やっぱりな」
「す、すみません! でもまだできます!」
そう言うミナを黙って彼は右手の舞台袖へと引っ張って行き、椅子に掛けさせる。
「ファン先生!」
「お? 何だ俺の出番か?」
「出番だよ。ミナが足くじいてる。あと靴擦れも酷い。すぐに見て」
「よっしゃ」
そのやりとりを聞いてテンダーはぱっと振り向いた。
「いや、キミは舞台見てて」
「でも」
「ミナの出番は昼の部はもう無いから」
「あ…… そうでしたね」
二周の後、彼女の出番は無い。昼の部では。
「あ……!」
昼の部では無い。
だが、お茶の時間の大トリ。
花嫁衣装が彼女にはあるのだ。
「だ、大丈夫でしょうか、足? 足なんですよね?」
「まあそう酷くは無いし」
「や、でもテンダー嬢、結構腫れてきたぞ」
ファン医師の声が届く。
「大丈夫です、私できます!」
外には聞こえない程度に、それでも叫ぶ様にミナは訴える。
するとファン医師はやや大げさに首を横に振り。
「いやいやお嬢さん、お茶の時間にはちょっと厳しいぜ」
「それじゃ……」
どうしよう、と思ったテンダーの肩をぽん、とヒドゥンは丸めたパンフレットで叩く。
「仕方ない」
ふう、と彼は息をつく。
「俺がやるから」
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