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184 発表会来たる⑤代役ヒドゥン氏
「え、貴方が」
テンダーは目を見開いた。
「ファン先生、その足は今日の夜は綺麗に歩き続けることはできる?」
「お嬢さん次第だな。ともかくお茶の時間はやめとけ。腫れが酷くなる。その様子次第で夜も駄目」
そんな、とミナは涙目になる。
「お嬢さんあんた、何でこの靴なんだ? そもそもサイズが合ってないぞ」
「だ、だって、このスカートと靴下に合わせる靴のうち、一番可愛かったから……」
そういうミナの履いていた靴は、確かに可愛らしい。
この時彼女が付けていたスカートはまばゆいばかりの太陽を思わせる花を大きくプリントしたものだった。
そしてその足元には、肌の色が透けるのかと思わせる程の薄い靴下と、夏向きの靴。
庶民の女性にとっての靴は、そもそも歩くためのものだ。
足の甲までしっかり覆い、幅の違いは紐で締めることでカバーする。
だが夏ばかりはそれが多少変わる。
蒸れない様に、風が通る部分を増やすべくできるだけ足を覆う部分を少なくし――ベルトでそれを留めるのだ。
ただ、その場合は足に絶対に合うものを、素材が馴染むまでは足の方に保護をつけて履くものだった。
踵の高さも普通なら、高くはしない。
だが今回は靴の方もやや冒険していた。
土台が白、そしてネットが涼やかなそれにミナは惹かれてしまった。
だがそれは彼女の足よりほんの少し――本当に、ほんの少し小さかった。
普段と違うもの。
それを素足に近いもので履いたのだから、多少の練習はしたとはいえ、舞台という慣れぬ場で妙な力が入ってしまったのかもしれない。
ともかく高い踵は彼女の足首を痛め、甲を締めるベルトは肌を思い切り擦っていた。
「ミナ、次は別のもの選べよ」
「……わかりました」
ミナは小さく頷いた。
そうこうしているうちに、昼の部の二十五人の発表が全て終わった。
テンダーはとりあえず挨拶に向かい、この後のお茶の時間と夜の部の案内を何とか告げることができた。
拍手と共にとりあえず幕が下り、テンダーはほっと胸をなで下ろす。
だがその一方で。
「ヒドゥンさん! 代役が私じゃいけないんですか!?」
アリュールが身を乗り出していた。
「アリュールにはキミの役分があるだろ? ミナができない分だ」
「だけど、サイズが一番近いのは私です!」
「手順を今更煩雑にさせる気か? それにキミ確か、花嫁衣装は婚期が遅れるから着たくないはずだろう?」
ぐっ、とアリュールは詰まる。
出番を増やそうという気持ちがあるのは一目瞭然だった。
だがそもそもその最も目立つ部分を断っているのだ。
「……わかりました」
「よし」
さて、とヒドゥンはタンダの方を向く。
「了解ですよ」
「頼むわ」
何かしらのアクシデントがあった時のことを予想していたのか、とテンダーは驚いた。
タンダは荷物の中から何やら取り出す。
それはかつら、コルセット、そして靴だった。
「テンダーさん、この靴に合う様に小物を少し調整したいんだけど。あと髪」
「あ、はい」
現在の彼は世間一般の男性同様の短髪だった。
だが今回の女性達のそれとは確実に違う。
ミナは特に、切らないでまとめていた。
「ミナに全て寄せなくてもいいけど、似た雰囲気に頼む」
「了解です。あと、久々に締めますが大丈夫ですか?」
「まあ、何時間かならな」
そう言うと、あっさり彼は服を取り去る。
古株の女優達は慣れているが、若い子達は「えっ?」と思わず目を逸らす。
「何でコルセット……」
テンダーは思わず聞いていた。
「まあ腰の細さもあるけど、胸と尻に詰め物が必要だし。……ちょっと皮肉なのは、まあ勘弁して」
あ、とテンダーは気付く。
そもそもはコルセットを付けなくても楽なはずの服なのだ。
なのに彼が着るとなるとそれが逆に必要となる。
「……ごめんなさい」
「何もキミのせいじゃないし。うちから貸し出す女優のミス」
彼はそれ以上を言わせはしない。
靴もまた、無難な色だが、しっかりと地を踏みしめ、ステップを踏めそうなものを用意していた。
体型を整え、顔や雰囲気を隠せる帽子や髪飾りを選び、靴に合う靴下を改めてつけ――
そこには元の彼を想像させない少女が居た。
テンダーは目を見開いた。
「ファン先生、その足は今日の夜は綺麗に歩き続けることはできる?」
「お嬢さん次第だな。ともかくお茶の時間はやめとけ。腫れが酷くなる。その様子次第で夜も駄目」
そんな、とミナは涙目になる。
「お嬢さんあんた、何でこの靴なんだ? そもそもサイズが合ってないぞ」
「だ、だって、このスカートと靴下に合わせる靴のうち、一番可愛かったから……」
そういうミナの履いていた靴は、確かに可愛らしい。
この時彼女が付けていたスカートはまばゆいばかりの太陽を思わせる花を大きくプリントしたものだった。
そしてその足元には、肌の色が透けるのかと思わせる程の薄い靴下と、夏向きの靴。
庶民の女性にとっての靴は、そもそも歩くためのものだ。
足の甲までしっかり覆い、幅の違いは紐で締めることでカバーする。
だが夏ばかりはそれが多少変わる。
蒸れない様に、風が通る部分を増やすべくできるだけ足を覆う部分を少なくし――ベルトでそれを留めるのだ。
ただ、その場合は足に絶対に合うものを、素材が馴染むまでは足の方に保護をつけて履くものだった。
踵の高さも普通なら、高くはしない。
だが今回は靴の方もやや冒険していた。
土台が白、そしてネットが涼やかなそれにミナは惹かれてしまった。
だがそれは彼女の足よりほんの少し――本当に、ほんの少し小さかった。
普段と違うもの。
それを素足に近いもので履いたのだから、多少の練習はしたとはいえ、舞台という慣れぬ場で妙な力が入ってしまったのかもしれない。
ともかく高い踵は彼女の足首を痛め、甲を締めるベルトは肌を思い切り擦っていた。
「ミナ、次は別のもの選べよ」
「……わかりました」
ミナは小さく頷いた。
そうこうしているうちに、昼の部の二十五人の発表が全て終わった。
テンダーはとりあえず挨拶に向かい、この後のお茶の時間と夜の部の案内を何とか告げることができた。
拍手と共にとりあえず幕が下り、テンダーはほっと胸をなで下ろす。
だがその一方で。
「ヒドゥンさん! 代役が私じゃいけないんですか!?」
アリュールが身を乗り出していた。
「アリュールにはキミの役分があるだろ? ミナができない分だ」
「だけど、サイズが一番近いのは私です!」
「手順を今更煩雑にさせる気か? それにキミ確か、花嫁衣装は婚期が遅れるから着たくないはずだろう?」
ぐっ、とアリュールは詰まる。
出番を増やそうという気持ちがあるのは一目瞭然だった。
だがそもそもその最も目立つ部分を断っているのだ。
「……わかりました」
「よし」
さて、とヒドゥンはタンダの方を向く。
「了解ですよ」
「頼むわ」
何かしらのアクシデントがあった時のことを予想していたのか、とテンダーは驚いた。
タンダは荷物の中から何やら取り出す。
それはかつら、コルセット、そして靴だった。
「テンダーさん、この靴に合う様に小物を少し調整したいんだけど。あと髪」
「あ、はい」
現在の彼は世間一般の男性同様の短髪だった。
だが今回の女性達のそれとは確実に違う。
ミナは特に、切らないでまとめていた。
「ミナに全て寄せなくてもいいけど、似た雰囲気に頼む」
「了解です。あと、久々に締めますが大丈夫ですか?」
「まあ、何時間かならな」
そう言うと、あっさり彼は服を取り去る。
古株の女優達は慣れているが、若い子達は「えっ?」と思わず目を逸らす。
「何でコルセット……」
テンダーは思わず聞いていた。
「まあ腰の細さもあるけど、胸と尻に詰め物が必要だし。……ちょっと皮肉なのは、まあ勘弁して」
あ、とテンダーは気付く。
そもそもはコルセットを付けなくても楽なはずの服なのだ。
なのに彼が着るとなるとそれが逆に必要となる。
「……ごめんなさい」
「何もキミのせいじゃないし。うちから貸し出す女優のミス」
彼はそれ以上を言わせはしない。
靴もまた、無難な色だが、しっかりと地を踏みしめ、ステップを踏めそうなものを用意していた。
体型を整え、顔や雰囲気を隠せる帽子や髪飾りを選び、靴に合う靴下を改めてつけ――
そこには元の彼を想像させない少女が居た。
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