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1 あんころ餅で尻を叩かれる
しおりを挟む「お前には今日から1年間、私の息子のペットになって貰いたい……無事に1年間息子のペットでいられたら、その時は対価として、何でもお前が望む物をやろう、じっくり考えておくといい」
「……しょ、承知しました」
お師匠様……
師匠から全てを継承した私の初仕事は、なんと獣人のペットでした。
何故こんな事になったかと言えば、それは数日前までさかのぼります。
私はその日、大学という名の修行を終えて自宅に帰る途中でした。
いつもの交差点で信号待ちをしていると、信号が変わっても横断歩道を渡りきれずにいるおばあさんが目に入ってきました。
そして、おばあさんの奥にはスピードを出して交差点に向かってくる大型ダンプ……ダンプからすれば信号は青……その時私は、頭で考えるより先に、身体が動いていました。
私はおばあさんを歩道に突き飛ばし、人混みにキャッチしてもらい、その様子を確認したのと同時に、おそらく私はそのままダンプに弾かれ、帰らぬ人となってしまったようです。
人前で術は使わない、という師匠の教えを遵守するがあまり、下手をこきました。
ところが師匠、一体どういう訳か、私は無傷で目を覚ましました。
ですが、問題はここからでした。
なんと……私が目覚めた場所は異世界だったのです。
……嘘でも冗談でも、最近読んでいた娯楽小説の内容でもありません、信じて下さい。
目を覚ました時、私は病院のベッドの上にいました。
親切にしてくれた私の担当看護師さんに話を聞けば、私は3日ほど前に、“少年が突然空から降ってきた”と、慌てた様子の男性によって、この病院へ担ぎ込まれたのだそうです。
……少年? と、少し疑問に思いましたが、まぁ、それはそれ。
その時、看護師さんも言われるがまま、私を少年だと思って引き受けたので、意識のない私に対して、怪我の有無を確認する為に服を脱がした所、身体が女性であった為、大変驚いたと言っていました。
……聞くに、この世界では、私のような髪の短い女性は珍しいのだそうです。
短いと言っても、ボブですけどね。
さて、ここで話しを先に進めましょう。
何故私は目覚めた場所が、異世界だと気付いたかといえばですが……それは単純明快……看護師さんも医師も、みんな一見人間なんですけど、何故か動物の耳らしき物が頭に生えていたのです。
あ、もちろん、尻尾も確認済であります。
おしゃべりをしながら、ケモ耳がちょいちょい動くので、カチューシャなどでない事はすぐにわかりました。
もふもふ好きの私としては、萌え萌えで仕方ありません。
つまりですね、この病院で働く人は皆、いわゆる“獣人”と呼ばれる種族だったのです。
と、なれば、ここは獣人の世界なのか、と思いきや、幸いな事に、この世界にもちゃんと“人間”は存在していました。
だからこそ、私は病院に運んで貰えたと言えます。
しかし……問題がありました。
この世界で人間は、獣人の愛玩動物……つまり、ペットのような存在だったのです。
この世界では、人間に戸籍は存在せず、飼い主のペット登録と首に埋め込まれたマイクロチップにより、その存在が管理されていました。
つまり、この世界で人間は、必ず獣人の庇護下でしか生きられないのです。
しかし、都市伝説的レベルで、この世界のどこかには、人間だけの国が存在するといいます。
そこはまさに、人間達の楽園……人間ならば誰もが一度は憧れる国なのだとか。
……それ、本当に都市伝説なのでは? っですよね。
私がこの事実を知る事ができたのは、同じ病室に入院していた人間さんから、色々と話を聞く事が出来たからです。
「ねぇねぇ、君は野良なの? 首輪を着けてないんだね」
同じ病室の男性から初めて話しかけれられた時の、第一声がこれでした。
あまりにも聞き慣れない言葉に、思わず聞き間違いかと思い、2度も聞き返してしまったくらいです。
「……野良? そんな猫みたいな言い方……」
「っ!」
私のこの言葉に、話しかけてくれた男性は、何故か慌てた様子でキョロキョロと周囲を確認しながら私に近寄ってきました。
「猫、だなんて呼び捨てにしたら駄目だよ! 君は首輪も着けてない上に、そんな呼び方で軽々と口にするなんて、もしかして、君の飼い主さんはずいぶん上位種なの?」
男性の話している内容の意味が、私には全く理解ができませんでした。
猫と呼び捨てが駄目なら、なんと言えばいいのだろう……猫様? ……変なの、が単純な感想です。
しかし私は、なんとなく男性のその謎の忠告と会話を聞かれまいとする周囲を警戒する様子から、ただならぬ雰囲気を感じたのです。
そして、第六感とでも言うのでしょうか、そんなものがあるのかはわかりませんが、何か警報のようなものを感じました。
いつの世もそうですが、無知である、つまり、知らない、という事が様々な意味で命取りになりかねないという事を、私はお師匠様から学んでおります。
ですので、私はその男性から、この世界の一般常識を教えて貰うことにしました。
私が突然、“自分は世間知らずのようだから、色々と教えてほしい”と、男性に頼んだ時、とても不思議そうな顔をされましたが、彼は知っている事の全てを丁寧に教えてくれたのです。
……まぁ、入院中って、暇ですからね。
そして知りました。
私が運ばれた病院は、人間専門の病院だったのです。
まぁ、例えるならば、ここは動物病院のような所であり、この病院の医師や看護師さんは、獣医師のようなポジションの方々なのでしょうね。
電気はもちろんの事、冷暖房完備にリクライニングのベッドにナースコール、テレビに冷蔵庫、ウォシュレット付きトイレにバスルームまで揃っていましたので、実に快適でした。
看護師さん達はみんなタブレットやノートPCを操作していたし、スマホのような物も持っていたようだったので、Wi-Fiも完備だったのでしょう。
異世界といえど、ライフラインその他モロモロの環境はそちらの世界と変わらずのようです。
そして……ひと通り話を聞き終えた私は、自分のおかれた現実とも思えないこの現実を受け入れる事に決めました。
お師匠様……この世界でお師匠様から教えて頂いた事を活かした仕事が出来るかはわかりませんが、私は精一杯この世界で生きてみます。
かつて、お師匠様に拾っていただいたこの命、一度は人の為に失いましたが、与えられた二度目の生は自分の為に生きたいと思います。
そう決心したものの……これからどうしようかと、私は真剣に考えました。
無傷な上に病気でも何でもない私は、記憶があいまいと言うだけで病院に入院し続け、ベッドを使用しており、日を追うごとに些か肩身が狭くなっていました。
看護師さんや医師からは、言われたわけではないにせよ、早く帰れ、と思われているように感じてしまい、食事もあまり喉を通らなく……は、なりません。
私、結構図太いので。
どうやら病院側としては、飼い主が迎えに来てくれないと、治療費や入院費が回収できないからか、記憶が戻るまでは置いて貰えそうな雰囲気でした。
とはいえ、迎えにくる飼い主など、私にはいやしません。
私、異世界で死んだはずが、何故かこの世界に身体ごと来てしまった身ですから。
私にしては珍しく、頭を悩ませる日々を送る事、はや数日……その日はなんの前触れもなく、訪れました。
「迷子ちゃん、飼い主さんが迎えに来てくれたわよ、見つけてもらえてよかったわね」
その日の午後、それはそれは嬉しそうな笑顔の看護師さんに言われました。
自分の耳を疑いましたよ。
……飼い主、がお迎え……って?
……そんなミラクルあり得る?
一瞬、お師匠様が異世界まで迎えに来てくれたのかと思っちゃいました。
……そんなはずないのに。
いや、でも、間違いなく人違いなので……私の顔を見るなり“あ、違った”と言って、また置いていかれるであろう事は目に見えていました。
しかし、私を早く追い出し……ゴホン……退院させたいのであろう看護師さんは、わりと強引に私を病室から連れ出します。
荷物もないので、身一つ……あっという間でした。
「……多分、私の飼い主じゃないと思います……」
うさぎ耳の看護師さんに手を引かれ、ドナドナ気分で歩きながら、私は呟きました。
「何を言ってるの、あなたの写真と特徴を迷子センターに届けておいたの、それを見て迎えに来てくださったそうよ、 飼い主さんじゃなきゃ、誰が迎えになんてくるものですか、それに、来るなりお支払いも済ませてくださったわ」
迷子センター? 支払いを済ませた? 何それ聞いてない、いつの間に……。
ますます謎が深まりました。
飼い主だと言って支払いをしてくれた人は、一体何者でどういうつもりなのでしょう……もしかして、私と似た人間でも飼っていて、本当に逃げられたかで、勘違いしているのかもしれません。
そうでなければ、おかしいです……なぜなら、当然ながら私は、お師匠様以外と生活していた記憶など、全くないですから。
そもそもここは異世界ですし。
腕を組みながら、そんな事を考えつつも、歩みを勧める限り、その時はやってきます……飼い主が待つという受付へ到着した私は、すぐさま自称飼い主に引き渡されます。
受付で待っていた、自称私の飼い主は、白スーツの若い豹の獣人でした。
まるでホストのような格好をしています。
……ちょっとイケメンです。
どうして豹だとわかるかって?
だって、頭についてる耳は豹柄ですし、髪の毛は黒髪に金色のハイライト、白スーツの中に着ているシャツも、チラ見せしてる靴下も豹柄だからです。
私が獣人だったら、他種族の柄は絶対に身に着けないと思うので、きっと……多分……間違いありません。
「っ!」
豹さんは、飼い主だと言って迎えに来た割に、私を見て驚いていました。
「……?」
ここまで案内してくれたうさぎ耳の看護師さん、それはそれはスムーズで鮮やかな引き渡しでした。
本人確認とかないのですか?
あら? 私だけ?
「それじゃ、お大事にね」
そう言って、すぐさまいなくなってしまいます。
……っ2人にしないでっうさぎさん! 私は訴えかけるように、看護師さんの背中をじっと目で追っていました……が、彼女は一度も振り向く事なく、行ってしまいます。
「……」
「……」
そして……2人きりになり、無言で向かい合う私達。
……え、私、どうしたらいいの?
「……?」
気まずそうに首をかしげる私に、豹さんは目を見開き驚いた後、ようやく口を開きました。
「……私はラフェドといいます、ついてきてください」
ラフェドと名乗った豹さん。
結局、この状況ではどうする事も出来なかった私は、そのままラフェドさんの後ろをトコトコとついて行きます。
そして、病院のエントランスの真ん前に横付けされた真っ黒に輝くフルスモークの高級車の後部座席のドアを、ラフェドさんが開けてくれ、私は恐る恐るその車へ乗り込みました。
「……失礼しまぁす……」
後部座席には、和服姿の……虎の獣人さんがいました。
お師匠様ほどの年齢に見えるその虎さんは、目尻に斬られたような傷のある渋めのイケオジです。
そうそう……何故虎だと思ったかといえば、着物のチラ見えする襟と帯が、虎柄だったからです。
やはりここでも、まさか他の種族の柄を着るわけないし、きっと獣人は自分の柄が好きなんだろうと思う事にしました。
そんな事を考えながら、私が虎さんをじっと見ていると、虎さんと目が合いました。
「っ……」
やはり、この虎さんも私を見て驚いていました、迷子センターで写真を見て迎えに来たのではなかったのでしょうか。
と、ここでようやく私は気付きました。
よく考えてみればコレは飼い主のフリをした誘拐ではないでしょうか?
この世界での人間の価値は、元の世界で言う所の競走馬のようなものだと聞きました。
つまり、人間をペットに出来るのはお金持ちの家、ということ……馬主さんみたいなイメージです。
車のドアが閉められた後も、虎さんはただただ無言のままじっと私を見つめ続け、ひと言も言葉を発する事はなく、車内は終始沈黙のまま、ラフェドさんが運転する車は走り続けます。
結局私は、隣の虎さんの無言の圧に負け、何の質問も出来ないまま、どこかに到着し、何故か帽子を被せられ、車から降ろされたのです。
眩しさに目を細めながら見上げた先には、とんでもなく大きく豪華な和と洋の折り混ざったような豪華絢爛な御屋敷が建っていました。
「……」
虎さんは、無言のまま先に車を降り、使用人らしい沢山の獣人達が出迎え、頭を下げる中を、しれ~っと通過し、中へと入って行ってしまいます。
私は豹のラフェドさんに連れられて、少し遅れて御屋敷の中へと足を踏み入れたのですが、やはりここでも使用人らしい獣人達が私を見て、驚いているような視線を感じました。
……そんなに人間が珍しいのかな?
そして、迷子になりそうなほどに広い屋敷の中を、ひたすらラフェドさんについて歩き、到着したのは書斎のような部屋でした。
部屋の中には、先ほどのイケオジの虎さんが1人いるだけで、他の獣人の姿はありません。
高級そうな黒の本革のソファーに座るよう言われ、私は言われるがままに、借りてきた猫のようにちょこんと座ります。
素朴な疑問……このソファーはなんの……誰の皮なんだろう……。
「……名はあるのか?」
虎さんが初めて私に話しかけてきたと思ったら、低く掠れたダンディな声で、名前を聞かれました。
元いた世界の名前で通用するかはわかりませんでしたが、名前と言われるとそれしか思い浮かばなかったので、とりあえず名乗りました。
「……瑠香です、柊 瑠香」
「……ルカ……ヒイラギ……ヒイラギ……珍しい姓だな、お前を捨てた前の飼い主は異国の者か……」
虎さんは、1人でブツブツ言いながら勝手に納得しています。
「お前は幼く見えるがいくつだ?」
「20歳です」
「……」
思ったよりも私の歳がいっていて驚いているようでした。
……何か少し複雑な気分です……もう少し若いのがお好みでしたか?
「……ならば話しは早いな……飼い主に捨てられたお前は、行く宛もないだろう、私の所で仕事をしないか?」
「……仕事?」
獣人にとって、ペットでしかない人間に仕事とは、一体なんのつもりでしょう……それははたして、まともな仕事なのでしょうか。
「お前には今日から1年間、私の息子のペットになって貰いたい……無事に1年間息子のペットでいられたら、その時は対価として、何でもお前が望む物をやろう、じっくり考えておくといい」
「……」
まぁ、そうですよね! そうなりますよね!
人間はペットなんですもんね!
でも、それがなぜ仕事になるのでしょうか、ペットとして可愛がられるだけというハッピーな仕事は上に、さらに報酬が発生すると?
……ん? でもさっき、無事に1年と、意味深な言葉を使っていましたね。
もしかして、その息子さんとやら、ヤンチャが過ぎるのでしょうか?
思うところは沢山ありましたが、他に行く宛もない私。
加えてすでにこの虎さんは私の入院治療費を払ってくれたので、ここは引き受ける選択肢しか私にはなさそうだと、腹をくくりました。
「……しょ、承知しました」
私があまりにも物分かりがいいので、話を持ちかけた方である虎さんですら、少し驚いているようでした。
1年後、1人で生きて行く為にはそれなりの準備が必要です……どこかに存在するという“人間の国”を目指すにしても先立つものが必要です。
いずれにせよ、報酬についてじっくり考える時間があるのは嬉しいですね。
何でも望む物と言われましたが、結局の所、お金になりそうですけど。
この虎さんの息子ならば、きっと虎の子、つまり、しま◯ろうの獣人バージョンに違いないので、そうと思えば、チョロいもんです。
多少の問題やヤンチャが過ぎる子であっても、私にはお師匠様から受け継いだモノがありますから、問題ないでしょう。
それに、こちらのお家はどっからどう見てもお金持ちに違いありません。
お金持ちのペットになる以上、着るものや食べる物に困るような思いはしないはずです。
もしかしたら、最高の1年間になるやもしれません。
「ならば雇用契約書にサインを」
“雇用契約書”
契約書まであるとは……用意周到です……。
私はサラサラと自分の前世の名前を、ローマ字表記の筆記体で書きました。
私がサインした紙は、シュッと光の速さでラフェドさんにより回収され、なんだか少し違和感を感じましたが、すぐに虎さんが話しを始めました。
「よし、契約成立だ……ではまず、見た目を少しイジらせてもらうぞ、まぁ……なんだ……制服のようなものだとの思ってくれ」
いきなり気安いおじさんのような態度に変わった虎さんがそう口にした直後、突然距離を詰めてきたかと思えば、私の顔の前でパチンッと指を鳴らします。
そして……。
「っえ?!」
なんだか突然、頭と腰の辺りがムズムズすると思ったら、なにやら背後にニョキニョキと何かがチラ見えしています。
まさかと思い、私は部屋の壁に掛けてある鏡の前に移動し、自分の姿を確認します。
鏡には、まさかの姿をした自分が映っていました。
「け、獣耳! 尻尾! っっ髪まで伸びてます!」
まるでコスプレをしたような気分でした。
私の黒い髪の毛の間からは、先の少し丸い黒い獣耳が生え、心なしか私の感情の変化で動いています。
さらに尾てい骨のあたりからは、黒く細長いしっぽが生えて、履いていたスカートをめくり上げてしまっていました。
「お前を黒豹の獣人にした、見た目だけな」
虎さんは、獣耳と尻尾の生えた私を見て、何とも言えない複雑そうな表情を浮かべながら教えてくれました。
「よく似ている……きっと見た目だけでは誰も別人とは気がつかないだろう」
そうですかそうですか、似てますか……って、誰に?
説明を求めます。
それよりも……。
「今のは魔法……っですか?」
「そうだ、魔力を持つ上位種の獣人のみが使う事が出来る、人間は知らない者が多いだろうな」
やっぱりこの虎さん、凄い人な予感です……。
「失礼ですが、ペットなのになぜ獣人に……? 理由があるのなら把握しておきたいのですが……」
突然生えた獣耳と尻尾に、なんだか落ち着かずモゾモゾしながらそう願いでると、先ほど私の契約書を素早く回収したラフェドさんが話に入ってきました。
「その辺りのご説明は後ほど私からさせていただきますね、旦那様、お話しがお済みのようであれば、私がレーニャ様をお部屋にご案内いたしますが」
……え? レーニャ様って……?
「ではルカ、お前は今からレーニャ・リーベルス20歳、黒豹の獣人で私の息子の妻だ、この屋敷で共に生活し、共に食事をとり、共に眠り、妻としての役目を果たすことが、お前の仕事だ、しっかり励めよ」
ぽんぽん、と肩を叩かれました。
ちょっと待って下さい……い、今、“妻”という字に無理矢理“ペット”とルビをふっていたように聞こえたのですが……あれ?
なんだか、契約成立後に、後出しの重要な情報が沢山出てきたぞ……契約違反では?
あ……マズイです……先ほどの雇用契約書、しっかり読みませんでした!
ラフェドさんのスピード回収の理由はそれだったのでしょうか!
……私の落ち度です。
整理しましょう。
私は今からレーニャ・リーベルス20歳……黒豹の獣人……この虎さんの息子の配偶者……。
あとは……共に眠り、妻としての役目を果たすことが仕事……?
共に眠る……ってのは……同じベッドで、息子さんと?
まぁ、犬や猫と一緒に眠る飼い主はいますよね。
“妻としての役目を果たすこと”、については、息子さんご本人次第でしょうから後の要確認事項とします。
そんな事よりも気になるのは、この尻尾が邪魔で、仰向けに眠れないかもしれないという事ですね。
「驚かないのか?」
「……何にでしょう?」
「……いや、リーベルスの名や、共に眠るという辺りに……」
「リーベルスという家名すら今初めて聞いたので……特に……なにか訳ありの家なんですか? 共に眠るとは、そのまま一緒のベッドで寝るというだけですよね?」
虎さんは少し心配そうな表情で私を見ています。
……はて、リーベルス家とは、獣人界では有名なお家なのでしょうか? まぁ、魔法が使えるんだから、かなりの上位種の家には違いないでしょう、お金持ちそうですし。
共に眠る件については、無駄に意識するのも勘違い女みたいで恥ずかしいですし、寝るくらい減るもんじゃないので気にしません。
「……そうか……異国で飼われていたとはいえ、リーベルスの名を知らぬか……まぁいい、詳しい事はそこのラフェドに聞くといい」
虎さんの中で、私は異国で飼われていて、捨てられた子、という設定になっているようです。
「ラフェドさん、宜しくお願いします」
金髪ホスト風のラフェドさんとは、仲良くなりたいです。
なんとなくこの豹柄を見てると、落ち着きます。
お師匠様がよく豹柄をお召しになっていたからでしょうか。
「ええ、こちらこそ宜しくお願いします、どうぞ、ラフとお呼び下さい、レーニャ様もそう呼んでくださってましたので(ニコリ)……それでは旦那様、レーニャ様をお部屋へご案内いたしますね」
「ああ、後は頼んだぞラフェド……レーニャ、また夕食の席でな」
「……はい、旦那様」
「……名乗るのを忘れていたな、私はグレゴール・リーベルスだ、息子の名はレオポルト・リーベルス、レーニャは息子をレオ、と呼んでいたから、同じように呼ぶといい」
「承知しました、レオ……レオ……」
……ん? レーニャはレオと呼んでいた?
レーニャという獣人は実在した人なのでしょうか?
ラフェドさんから詳しく聞く必要がありそうです。
応援ありがとうございます!
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