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8 馬子にも衣装

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(ルカ=レーニャ視点)
 

「連合会のパーティー、ですか?」

「ああ、リーベルス家を筆頭とする企業や組織の重役が集まる会が連合会なんだか、来週、そのパーティーがある……それに俺達も参加しろとの事だ」

「……重要なミッションですね」


 私の開通工事を終えて以降……レオさんはたいそう私の名器とやらをお気に召したようで、毎晩性行為をしています。

 それも、一晩に何度もです。

 レオさんの睾丸は一体どうなっているのでしょうか、なぜあんなにも射精出来るのでしょう……いや……もしかすると、獣人あるあるだったりするのかもしれません。

 おまけにその日の1回目の射精時に、必ず首を噛まれるので、私の首は噛み跡だらけで不気味過ぎます。

 なんなのでしょうか、首を噛むのも、獣人あるあるなのでしょうか。


 とは言え、ティルさんの言っていたとおり、性行為を経て、レオさんとの距離感はグッと縮まった気がします。

 まぁ、私にとってレオさんはクライアントでしかないので、仕事がしやすくなり、よかったよかった、という所です。


 そして今宵もレオさんは、3度目の性行為を終えた後、今のパーティーの話しを持ち出してきました。


「俺や父上よりも下位の種族ばかりだから、レーニャが人間だとバレる可能性は低いが、それなりに危険なパーティーだ」

「危険……とは、どのような意味でしょうか? 物理的に危険なのであれば、私の事は心配いりません、むしろ、レオさん達をお守りする所存です」

「……」

 あれ、また変な事を言ってしまっただろうか……レオさんが目を細めて私を見ています。
 最近わかった事ですが、レオさんがこの目をしている時は、私に対して引いているか、呆れている時です。

「リーベルス家の若頭の嫁が結婚式以来、初めて公の場に現れるんだ、注目の的だろうな、取り入ろうとする者もいれば、若輩者と蔑む者もいるだろう」


 あ、つまり精神戦が繰り広げられるという事ですね。


「任せて下さい、そんな時の“無”で行きますね」

「……いや、“無”が得意なのはわかるが、今回“無”は封印だ」

 な! っ何故! 私の“無”!

 正直、“無”は楽なんですよね、なんてったって、“無”ですから何も考えてませんので。

「では何を全面に出せばよろしいのでしょうか……」

「“新婚幸せ愛されオーラ”だ」

「……“新婚幸せ愛されオーラ”……ですか? ……」

 なんですかその中二病ネームは。

「ああ、とりあえずはパーティーまで毎日抱いて、俺の匂いを染み込ませるから、そのつもりでいろ」

 ん? ……パーティー関係なく、毎日行為におよんでおられますよね?

 私の首、もう噛む場所ありませんけど。

「それから、パーティーのドレスは俺が一緒に選ぶから、明日の午後空けとけ」

「安心して下さい、いつも空いてますよ」

 よかった、そっち系のセンスには全く自信が無いので、正直助かりました。

「そうなのか? 毎日どこかに出かけていると聞いたが」

 ……。
 やはり私の行動は筒抜けでしたか。

 実は、身体が鈍ると悪いので、リーベルス家の道場を紹介してもらいまして、通っております。
 獣人相手になかなか筋が良いと師範にお褒め頂いております……えへへ。

「ご存知でしたか、リーベルス家の道場に通って体系の維持に尽力しております」

 と、言う事にしています。

「道場!? お前、毎晩俺に抱き潰されて、その上、日中は道場だと?! どれだけタフなんだよ」

 ……抱き潰され?

「私、潰れたことはありませんが……」

「……」

 あ、またあの顔です。
 ここはゴマでもすっておきましょう。

「レオさんも、上質な筋肉のついたたくましくしなやかな身体をされていますよね、日頃から鍛えていらっしゃるのですか?」



「……俺は毎朝ジムに寄ってから仕事に行っている、汗を流すと頭がスッキリするからな、最近は行ってないが」

 ……ああ……最近は汗もかけて性処理もできる、一石二鳥の別の事でスッキリしてますもんね。


「……なんだその目は、失礼な事考えているだろ」

「とんでもありません」

 危ない危ない、“無”を封印されてから、ちょいちょい感情が顔から漏れてしまっているようです。

「ところで、獣人の“新婚幸せ愛されオーラ”とやらを学べる動画などはありませんか?」

 この世界にも、You◯ube的なものはあるのだろうか。

「動画?」

「はい、昨日、旦那様が私にスマホを支給・・してくださいましたので、ネット検索が可能になりました」

 つまり、私は無敵です。

 旦那様はお屋敷にいらっしゃる時はいつも昼食に誘ってくださって、今では結構仲良しだったりします。

 お師匠様と歳が近いからでしょうか、私は旦那様の纏う雰囲気にとても癒やされます。
 獣人ですし、極道ですけどね。

「……それ、早く言えよ、番号教えろ、トークアプリでもいいが」
 
 私はレオさんに、自分でやってくれとばかりにスマホを手渡しました。
 正直、まだ使いこなせていません。
 
 
「ったく、父上はレーニャの事、相当可愛がってるな」
 
「そうでしょうか……?」
 
「間違いない、父上はタフな女が好みだからな」

 え、好みって……そういう意味の可愛がってるなのですか?! っまさかまさかっ!
 
「……旦那様はイケオジですもんね……旦那様なら私も アリかもしれません……」
 
 っは! 私ってば、クライアントに対してなんとハレンチな事を!
 

「……お前、オッサンもイケるのな……残念だったな、父上には最愛のつがいである、母上がいらっしゃるから、お前じゃ相手にされないだろうな」

 いや、相手にしてもらおうなどとは、これっぽっちも思っておりませんけど。

 でも待ってください。

「旦那様はレオさんと同じ超上位種ですよね? なら、旦那様と奥様をお手本にしたらいいのではないでしょうか?」

「……あの夫婦にはもう“新婚”が当てはまらないだろ……」

「ならせめて、“幸せ愛されオーラ”だけでも……奥様から学びたいのですが……難しいでしょうか」

 でも、そういえば、このお屋敷で奥様のお姿を見たことがありません。
 こちらにはお住まいではないのでしょうか。

「母上は……」

 奥様の話しになり、レオさんは急に真面目な表情になりました。
 ……まさか……ご病気で入院中だったりするのでしょうか……。

「母上は、忙しい人なんだ、基本的に早朝に出て行って、夜遅くにしか戻ってこないぞ」

 よかった違いました。

「……お仕事をされているのですか?」

「……仕事と言われたら、仕事だが……趣味と言えば趣味だ」

 え、一体、奥様は何をされているのでしょう。

「母上はな……女大工なんだ、朝から晩まで現場、夜はウチのシマで女帝をしてる」

「……oh……タフネス……」

 大工に女帝……?

「……リーベルス家の嫁は、そういった仕事をしなければならないのですか?」

 もしそうなら、レーニャさんはそれが嫌でいなくなったのではないでしょうか。


「まさかっ……言っただろ、どっちも完全に趣味だよ……リーベルス家の女は働く必要なんかないんだ、さっさと引退すればいいのに、好きなんだろうな仕事が……父上も働く母上が好きみたいだしな」

「……そうなんですね……カッコイイです……それに、旦那様の奥様ヘの愛を感じます」


 素晴らしいご夫婦です。

 っで、結局私は奥様には会えないのですね? 承知しました。

「もう寝るぞ、明日はドレスショップだからな忘れるなよ、おやすみ」

「承知しました、おやすみなさい」


 レオさんは、当たり前のように私に尻尾と身体を巻き付けて、人の事を抱き枕にして眠ります。

 正直、寝づらいです。



 ○○●●


(レオポルト視点)


 俺が女の所に通い詰める日が来るとは……。

 いや、違う、俺はただ自分の屋敷の自分の寝室に帰ってるだけだ。

 たまたま、俺の寝室に毎晩レーニャがいるってだけだ。

 レーニャの身体に溺れてなどいない、断じてそれはない。


 来週のパーティーまでに、たっぷり俺の匂いを染み付けて、“十分に愛し合っている”様子をアピールしなければいけないからな、パーティーには、祖父も来るだろうから、尚更だ。

 そう、だから、俺はまたレーニャを抱かないといけないんだ。

 うむ。

 それに、最近はレーニャも慣れてきたのか、結構ノリノリだ。

 手コキとフェラテクは自分で言うだけあったしな……どこで覚えたんだあんな技……。
 ウチの店の嬢達も指南してやって欲しいくらいだ。

 まさかこの俺が素人のフェラでイかされるとは……。




「若、難しい顔してどうしました?」

「……ラフェド、レーニャの前の飼い主については何かわかったか?」

 実は少し前に、ラフェドに調べるように頼んでおいたのだ、父上いわく異国の者らしいが、まさかそいつがレーニャにいかがわしい事を仕込んだのだろうか。

「それがですね、レーニャさんが病院に搬入される以前の事は全くわからないのです」

「……そう言えば、レーニャを病院に運んだのはヴォルフィートの問題児だったぞ」

 思い出したら、なんかムカついてきたな。

「なんですって?! アルベルト・ヴォルフィートですか?! 何故彼が! 何故若がそれを!? レーニャ様がおっしゃったのですか?!」

 俺はあの日の事をラフェドに話した。


「……まさか……そんな……レーニャ様……よりにもよって、アルベルト・ヴォルフィートに目を付けられるなんて……若、彼は必ず1年後にレーニャ様を迎えに来ますよ」


 まぁ、そうだろうな、犬科の執着心はなかなかに有名だからな。おまけに狙った獲物は逃さないで有名なヴォルフィートの直系だ。
 俺達ネコ科のように、アッサリしてない、面倒な奴らだ。

「でも俺、約束破ったからなぁ」

 匂いつけちゃった。

「……そうですが、若とレーニャ様は獣人と人間である以上、本当のつがいではありませんから、匂いくらいは時間が経てば消えますし、上書きすればいいだけの事です」

「どのみち、1年後俺はレーニャと離婚するんだ、関係ないだろ」

 そう……俺には1年後のレーニャの事なんて、関係ない。


「あれだけレーニャ様の身体に執着されて、手放す事など出来るのですか? そのまま、ペットとして飼ってしまうのではと、我々は思ってましたけど」

「俺は人間は飼わない! 何度も言わせるな」

「……失礼しました」

 人間をペットなんかにしたら駄目だ……絶対に……。



「話しは戻りますが若、レーニャ様の過去はやはりレーニャ様ご本人に聞くのが一番かと……」

 聞けるなら、とっくに聞いてる。
 あいつの口から……あの淡々とした口調で聞くのが嫌だからこんなに回りくどい事をしているんだ、察しろ。

「お前らこそ、雇うなら履歴書とか書かせなかったのかよ」

「……なるほど、履歴書という手がありましたね! 今更が、書いてもらいましょうか」

「……知らん、好きにしろ……書かせたら見せろ」

「はいはい、かしこまりました」




 こうして俺は、午前で仕事を切り上げ、午後からはレーニャとドレスショップへ行く事にした。



 ○○●●


(ルカ=レーニャ視点)


「……ほぉ~……凄いですね、ドレスって色々あるんですね」

「時間がないからな、今回はセミオーダーで我慢しろ」


 セミオーダーですら私には凄く贅沢に思いますが、お金持ちのレオさんからしたら我慢なのですね。

「コレとコレと……コレとコレを着せてみてくれ」

 レオさんは、手際良くカタログから私のドレスを選び、フィッティングルームに運びこませていました。

 私はあれよあれよとショップのお姉さんにフィッティングルームへ連れ込まれ、服を剥ぎ取られます。


「まぁ! ……奥様、愛されてますね」

「……」

 お姉さんは、私の首の噛み跡を見て言いました。

 え、コレを見て愛されてると言うのですか? やはり獣人は男女共に強者です。

「首を噛むのは、ネコ科の男性の最上級の愛情表現なんですよ?」

「……」

 ボロが出ると悪いので、今はとりあえず無口な妻のフリをすることにします。

「私は仕事柄、女性とお話する事が多いので、リーベルス様に愛されたいと願う美しい獣人を沢山知っております……ですが、いざリーベルス様がお選びになられた女性がこれほどでは……誰も太刀打ち出来ませんね」


「……」

 え、どういう意味でしょうか。

 “これほど”の次には、なんの言葉が続くのですか?
 これほどブサイク? これほど貧相?

 “太刀打ち出来ません”という事は、このお姉さん、私の隠れた筋肉を見破ったのでしょうか?

 侮れませんね。


「さぁ、まずは1着目です」

 シャッ


 フィッティングルームのカーテンが開けられ、目の前にはイケメンが1人偉そうにコーヒーを飲みながらスマホをいじってました。

「リーベルス様、いかがでしょうか、奥様はとてもスタイルがよろしいので何でもお似合いになりますよ」

「……」

 レオさんは無言でした。

「……似合わないかしら、駄目ね、次……」

「いやいやいやいや、待て待てレーニャ」

 カシャッ


 その言葉の直後、レオさんのスマホからシャッター音が聞こえ、さらにその後も何回か聞こえてきました。

「よし、次だ」

 その繰り返しで、私は計4着を試着し、レオさんはその全てを撮影し、スマホに収めていました。


「全てとてもお似合いでしたが、どちらになさいますか?」

 お姉さんがレオさんにジャッジを仰ぐと、レオさんはとんでもない事を口にしました。

「今着たものは全てサイズを直して屋敷に運んでくれ、今回のパーティーはアレにする」

 レオさんの指差す先には、一体のトルソーが飾られており、トルソーが着ていたのはなんと着物。

「え?」

 着物、ですか?

 めちゃめちゃお高そうですけど!


 こうして、此度のパーティードレス選びはレオさんの独断と偏見により、和装になったのでした。



 帰りの車内で、今日の運転手をしてくださっているノーランさんにどんなドレスを選んだのか尋ねられ、困ってしまいました。

「ドレスを何着か着てみたんですが、最終的に試着していない着物になりました」

「っえ?! 着物っすか?! 若も和装で行くんすか?」

「ああ、そのつもりだ」

「マジっすか、若、あれだけ和装は旦那様と被るから嫌だとおっしゃってたのに!」

 え、そうなんですか?

「別に今は気にしない、あの着物がレーニャに似合いそうだったから選んだだけだ」

「若、まさか、虎柄を入れるおつもりじゃぁ……」

「入れるに決まってるだろ、レーニャ、帯はリーベルス家の物で締めるからな」


 なんでもいいですけど、着物だといざという時に動きづらそうで心配です。
 明日から、脚を縛った訓練をしなければ。




 こうして、私達はパーティーの日を迎えるのでした。


 
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