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9 たまに出る子は風に遭う

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(レオポルト視点)
 
 
 俺が選んだドレスを着たレーニャは、控えめに言っても最高に美しかったので、スマホに保存しておく。
 
 まぁ、俺のセンスがいいからだろうが、それにしても似合いすぎて思わず全て購入してしまった。
 
 1年後にはいなくなる女だってのに。
 
 まぁ、選別にくれてやればいいか。
 
 
 
 そうして迎えたパーティー当日。
 
 レーニャは俺が選んだ着物に、リーベルス家の虎の画の刺繍された帯を締めていた。
 
 父上がそれはそれは喜んでいたとか。
 母上は和装が嫌いだからな。
 
 俺はレーニャの着物と合わせた着物を用意させて、ペアになるようにそれに袖を通した。
 
 
「さて、行くかレーニャ」

「はい!」

 
 会場に入れば、おそらくは気が休まる事はなくなるだろう。
 俺はレーニャの右手をとり、エスコートする。

「……思ったとおり、よく似合うな、さすが俺の見立てだ」

「着付けの方にも褒めて頂きました、ありがとうございます」


 二人だけのうちに、一応褒めておく。





『まぁ、リーベルスの御子息夫妻よ、なんて画になるお二人なのかしら』

『すごいな、あの帯を見ろ、億はくだらないぞ』

『なんだか若奥様、結婚式の時よりも雰囲気が柔らかくなられましたね』

『そりゃ若頭が溺愛して一歩も外に出さなかったって話しだ、愛されてるからだろ』

『やーん、私のレオポルト様がぁ!』

『若奥様、あんなお綺麗だったか?』

『若頭も、つがいを得たからか、さらに凛々しくなられたな』

『レオポルト様の隣は私のはずだったのに!』


 ……ヒソヒソ話しているつもりだろうが、俺にはハッキリ聞こえる。

 レーニャは人間だから聞こえていないだろうから、教えてやるか。

 俺はレーニャの耳元に触れそうなほどに唇を近づけ、囁いた。

「レーニャ、皆が俺達を見て称賛してるぞ、お似合いだとか、お前が綺麗だとか」

「……レオ、やめてこんな場所で」

 レーニャはすでにレーニャの演技に入っているようだ。

 彼女の耳に触れそうな俺の唇に、少し恥ずかしそうにしながらも自然な仕草で顔をこちらに向けて、自分の顔と俺の顔との間にそっと手を出し、俺の唇に指で触れる。

 その時の表情がなんとなく妖艶で、たまらなくなった。

「っ……誘うなよ」

「誘ってなんかないわ」

 額と額をくっつけ、俺達はじゃれ合い、周囲に仲の良さをアピールする。


『まぁ、仲のよろしい事……いいわねぇ、新婚さんは』

『幸せそうだなぁ、若頭の笑った顔なんて初めて見たぞ』

『溺愛は本当だったみたいだな』

『おい、誰か挨拶して来いよ』

『お前行けよ、あの新婚のラブラブオーラにあてられてこいよ』



 ……お、そろそろ来はじめるか。

「これはこれは、どちらの美男美女かと思えば、リーベルスの若頭に若奥様ではありませんか、結婚式依頼ですかな、仲が良さそうで何よりでございます」

 トップバッターで声をかけて来たのは、リーベルス家の直下の御三家の一つ、キンスキー家の当主だ。

「キンスキーさん、ご無沙汰しております、なかなか顔を出せずすみませんでした、妻を愛でるのが忙しくて」

「はっはっは! それはそれは良いことだ、御隠居もご当主もさぞお喜びでしょうな、ねぇ、御隠居、ご当主!」

 なっ! 父上、まさかもう爺さん連れてきたのか!?

 キンスキーのおっさんの視線の先には、思ったとおり、父上と祖父がいた。

「そうだなキンスキー、息子がようやく最愛の相手を見つけたようで、私もひと安心していた所だよ、なぁ、親父」


「……レオポルト、レーニャ、後でわしの所へ来い」

 父上は当たり障りない言葉でキンスキーのおっさんをあしらうも、何か気付いている祖父はじっとレーニャを見ながらひと言だけ口にして、キンスキーを無視して行ってしまった。

「……かしこまりました」
「かしこまりました」

 俺の緊張感が伝わったのか、レーニャは俺の手をギュッとにぎり、俺の真似をして祖父に頭を下げた。


「……父上、爺さんはレーニャの事は知らないんだろ?」

「……ああ、バレたら俺もお前も大目玉だ」

 だが、祖父なら父上の魔法なんてすぐに暴いてしまうだろうから、レーニャが偽物で人間である事はバレバレだ。

 先ほどレーニャをじっと見ていたが、もしかしたら婚式の時に会ったレーニャと、今のレーニャが別人と気付いているのかもしれない。

 祖父の逆鱗に触れるとしたら、人間のレーニャを影武者にした事ではなく、妻である本物のレーニャに逃げられた俺に対して、なんと情けない、という部分であるはずだ。

 だとすれば、呼び出しは俺だけでいいと思うんだが、俺とレーニャの二人を呼んだという事は……説教以外の他に何かあるのだろうか。



 それから俺達はひと通りパーティー会場でラブラブアピールをし終えると、二人で目で合図しあい、祖父の所へ行く事にした。


「さっき……お祖父様にじっと見られた時、全て見透かされているような気持ちになりました、さすが御隠居……素晴らしい眼力でしたね」

 この期に及んでそんな呑気な事を言いだしたので、俺はさすがに驚いた。

「……レーニャ、爺さんが怖くないのか?」

「え、怖いですか?」

 どこが? とでも言いたげなレーニャのとぼけた表情に、俺はなんだか自分が緊張しているのがバカバカしくなった。

「っふん、いい度胸だ、その調子で爺さんに何を言われても気にするなよ」

「気にしませんよ、気にする理由もありませんからっ仕事ですので」

「……そうだな、仕事だ……」

 そうだ、この女は1年後他人になる存在で、本人もそれを徹底している。
 ……きっと、リーベルス家だのヴォルフィートだの、心底どうでもいいのだろう。

 何故かわからないが面白くない。




「お祖父様、レオポルトです、レーニャと参りました、入ります」


 祖父の控え室へ入ると、驚く事にそこには傷だらけのボロボロのレーニャ・・・・がいた。

 パッと見えるだけでも、暴行を加えられたようなアザや出血が見られる。

「っ!」

 そして、その横には……。
 1人の男が血を流して横たわっている。

 ……俺が逃がしたレーニャの恋人だ。

 部屋には他に1人、祖父の部下がおり、銃を手に持っていた。



「っ! 見るなレーニャ!」

 俺は咄嗟に隣にいるレーニャの目を手で覆い、目の前の悲惨な光景を見せまいとした。


「……レオポルト、レーニャ・リーベルスは……お前の妻はこっちの女だろ?」

 祖父はうつむき自分の前に跪く本物のレーニャの髪を掴み、顔を上げさせ、そう口にする。

「……っ」
 
「レオポルト、わしを騙せるとでも思ったか? お前とこの女が愛し合っていないことなんぞ、結婚式の前から気付いておったわ」

「……」

「大人しくつがっておけばいいものを……でなければ、初めから結婚などするでないわ! 親の言いなりになりよって、それで当主が務まると思っとるのか! 腑抜けどもが!」

 俺は今のその言葉でようやく、祖父が何に怒っているのかを理解した。

「まぁいい……お嬢ちゃん、巻き込んで悪かったな、わしのバカ息子とバカな孫夫婦のために色々迷惑かけたようじゃな」

 祖父は俺の隣にいるレーニャに声をかけ、本物のレーニャの血のついたその手で彼女の肩をぽんぽんと叩く。

「……」

 レーニャはあまりの恐怖に声も出ないようだ。





 ……と、思ったが違いました。


「お祖父様、せっかくレオが選んでくれた着物が汚れてしまいますわ、血のついた手で触らないでくださいまし」

「……っ?!」

「……」

 レーニャは、こんな状況でもレーニャの演技を続けていた……なんて図太い女なんだ……そこで獣人1人死んでるんだぞ。


「っはっはっは! そりゃ~すまなかった」

 しかし、祖父にはウケたようだ。

「レーニャ、もう演技しなくていい」

「……え? レオ、何を言ってるの? お祖父様、レオが変ですわっ……あら、そちらの女性は私にソックリですわね」


 レーニャが何を考えているのか、俺にはわからない。

 そこからレーニャの一人劇場が始まり、俺はただただぼーぜんと見ている事しか出来なかった。



「……そちらのお寝んねしている男性は……あら、まだ息がありますねっ……ちょっと失礼してっ……ヨッ!」

 レーニャは本物のレーニャの恋人に何かをしている。

 今……何をした?

 よく見れば、男からドクドクと流れていた血が止まったように見える。

「そこの私のソックリさん、お祖父様の部下は優しいわね、大事な臓器は外してくれたみたい、この人助かるわ、早く病院へ連れて行ってあげてっ、一応、今、血は止めたけど、これ以上の出血は危険よ……いいですわよねっお祖父様っ? お片付け・・・・も大変ですものねっふふっ」

 な、何を言って……。

「……はっはっはっ! ああ、かまわんよ、お嬢ちゃん」

 信じられない……この状況で、祖父が裏切り者を見逃すというのか? ……有り得ない。


「っですって、よかったわね、何をしたのか知らないけど、もうお祖父様を怒らせるようなおイタはしちゃ駄目よ、見逃してくれるのはきっとこれっきりだから……ほらっ早く行って! そうだっコレっ! タクシーを拾って、このカードで支払ってね、シートを汚しちゃうから、運転手さんにクリーニング代も運賃に上乗せするように伝えてね、カードはそのまま入院費の支払いに使って、全て終わったら、カードを切って捨てて……私は貴女を信じてる……貴女も治療してもらいなさいね」

 レーニャは本物のレーニャの手を取り、励ましながら手にクレジットカードを握らせていた。

「っ! ……っあ、ありがとう……っ必ず、必ずそうするっ」


 レーニャは父上が渡したお小遣い程度のカードを、自分のカードかのように本物のレーニャに渡してしまったようだ。

 ……あのカード、上限設定してあんだぞ。

 そうとも知らない本物のレーニャは、男を担ぎ、引きずるように部屋を出て行った。

 あとで父上に言って、上限を増やして貰おう。



「……」
「……」


「ヤダお祖父様、床が血だらけですわ、ホテルの人に叱られてしまいます」

「はっはっはっ! 心配ない、ほれ」

 祖父は血だらけの床を魔法で綺麗さっぱりと片付けてしまった……相変わらずチカラは健在のようだ。


「まぁ、さすがお祖父様だわっ、レオ、お祖父様にさせないで、貴方がしなきゃ駄目じゃない」 

「……あ、ああ、そうだな、気が利かず、すまない」


 こうして、レーニャの一人劇場は幕を閉じたのだった。




 その時だ。


「親父っ!」

 父上が血相を変えて部屋飛び込んできた。

 おそらく、血だらけの男とボロボロの女を見かけた誰かが、父上に報告したのだろう。


「なんだ、どうした?」

 祖父は何事もなかったように上機嫌に父上と話し始めたため、俺はレーニャを連れて部屋を出た。







「……驚いただろ、すまなかった」

 部屋を出てエレベーターに乗ると、掴んでいたレーニャの手から、微かに震えが伝わってきた。

「いいえ、大丈夫です、任侠ドラマみたいでドキドキしました……興奮して震えが止まりませんっ、あの男性、後遺症が残らないといいですが……」

「……レーニャ、その震えは本当に興奮の震えなのか?」

 俺はレーニャの身体を引き寄せ、すっぽりと包み込むように抱き締める。
 ……やはり、手だけではなく彼女の身体全体が震えていた。


「怖い思いさせて悪かった……全て俺の責任なんだ……」

「……」










 俺とレーニャはそのまま会場へは戻らず、屋敷へと戻った。

 どうやったのかはわからないが、男の止血をした際についたであろう生々しい血が、レーニャの手にべっとりとついていたため、俺はレーニャと一緒に風呂へ入り、丁寧に丁寧に洗い流してやる。


「自分で出来ますよ?」

「黙って洗われてろ……俺にこんな事させたのはお前が初めてだぞ」

「……」

 レーニャの手がキレイになると、二人で湯船につかり、俺はこの時もレーニャ、身体を放さなかった。


「今日みたいな事は、きっとこれからもある……」

「えっ銃殺ですか? ……いえ、あの方はきっと死にませんけど」

「いや、血の気が多い集団だって意味だ」

「まぁ、ヤクザですもんね……映画やドラマの世界しか知りませんが」


 温かな湯に浸かり、レーニャの身体も少しずつほぐれてきたようだ。

 俺は彼女を後ろから抱きしめ肩にキスをした後、彼女の肩に顎を置き、尻尾を彼女腰に巻き付けておく。



 そして、俺と本物のレーニャの離婚計画から実行までをレーニャに洗いざらい話し、改めて謝罪することにした。



「……なるほど、やっぱりそうでしたか、本当に任侠ドラマみたいですね、なら、余計にあの男の人を助けてよかったです」

「……」

「お祖父様のあの様子なら、きっと1年後の離婚にも目を瞑ってくれそうですよね、リーベルス家とレーニャさんとの縁を切る気満々でしたもん」

「そうかもな、レーニャのおかげだ」

「お役に立ててよかったです、ミッションクリアですね」

「ああ、そうだな」



 俺は、思いきってこの場で、レーニャに過去の事を聞いてみる事にした。


「レーニャ、お前、何者なんだ?」

「……私ですか? 人間ですが」

「それは見ればわかる」

「そうですか……なら……お話しするしかありませんね……実はですね……私……特殊な訓練を受けてまして、色々出来ちゃうんです」

 特殊な訓練……だと? 色々出来ちゃうとは……。

「誰から訓練を受けたんだ? 前の飼い主か? あのフェラテクもか?」

「前の飼い主といいますか……私のお師匠様からですね、口淫の指導はお師匠様の遊び相手の女性からご指導頂きました」

「……お師匠様……?」

「はい……私を育ててくれた、父であり、師です……これ以上は企業秘密ですっなんちゃって」

 少しとぼけているレーニャからは、それ以上聞くな、という壁を感じる。

 いずれにせよ、何か普通のペットとして生きてきた人間でない事はわかったので、俺もそれ以上は無理に聞き出す事はしなかった。



 そして風呂から出ると、レーニャの身体を拭き、ドライヤーで髪を乾かす事まで全て俺がやってやり、横抱きにしてベッドに運ぶ。


「……あの、至れり尽くせりなのは大変有り難いのですが、パジャマをお忘れでは……?」

「パジャマ?」

「はい、パジャマです、せめてバスローブとか……」

「身体にタオル巻いてあるだろ」

「はい、それはありがたいのですが、こんなタオル1枚巻いただけでは眠れないです」

「寝るのか?」

「寝ないのですか?」

「否、俺は寝る、レーニャを抱いてから」

「……」



 俺はレーニャをベッドにゆっくりとおろし、キスをした。

 何にしても学習能力の高いレーニャは、キスも完璧だ。
 何故か、レーニャとキスしていると、フェラされてる気分になるのは謎だが、まぁいい。


「レーニャ、今日は全部俺がするからお前はただ感じてろ」

「え、それではつまらないです」

「ずいぶん余裕だな……そんな事言えなくしてやる」


 俺はなんだか少し悔しくて、とにかくレーニャの身体を隅々まで愛した。

 レーニャも何度もイッていたし、ほんの少し喘ぎが漏れ出るくらいには、感じまくっていた事だし、これくらいで良しとしよう。

 俺はイきすぎてぐったりするレーニャの脚を開くと、昂ぶる自分のソレを彼女の中心にゆっくりと奥まで挿し込む。

「っ……」
「……んっ」

 奥にぶつかるも、彼女の名器はうにうにと動き、さらに奥へと引きずり込みそうな勢いだ……名器に翻弄されながらも、俺はゆっくりと腰を引く。

 本当にヤバい、気持ち良すぎる……締りもいいんだよな……。


 夢中で抽挿のスピードを上げれば、レーニャも良さそうな反応を示し始めたので、その可愛らしい姿に思わずキュンとし、彼女にキスをした。
 そのまま彼女の身体をくるりとひっくり返し、バッグで突く。

 首を噛むのに、この体制が一番噛みやすいからだ。

「っ……レーニャ、出すぞっ……」

「……んっ」


 彼女の首にカブッと噛みつきながら、俺はレーニャの中へたっぷりの子種を注ぎ込む。

 本当なら、噛み跡は魔法できれいに消してやれるんだが、消したくない。
 痛々しいほどのレーニャの首についた無数の噛み跡を見ると、なぜか安心するからだ。

「……はっ……マーキング、か……」

 この俺がマーキング……。


「……っなにか言いました?」

「いや、気にするな……このまま抜かずに続けるぞ」

「っえ、まだするのですか?」

「当たり前だろ、レーニャの着物姿を見た時に3回はすると決めていた」

「なんですかソレ…」





 こうして、この夜も俺はレーニャを貪りつくした。
 
 
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