【完結】忘れても君がいる

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番外編

俺達のその後1

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らん、腰が逃げてるっダーメ……」
 
「んっ……マティ……俺もぉ……中つらいっ……」
 
 
 ……もう何度目だろうか……。
 
 マティは俺の腰をガッチリと掴み、後ろから俺の好きな奥深くに自身を突き立てながら、甘く引くい低音で俺の耳元に囁やく。
 
 
「嵐はもう後ろじゃないとイケない身体なのに、俺が一週間もいなくて平気なの? ねぇ嵐、一人じゃ寂しいよね? 一緒に行く?」
 
「っ行かなっ……い……仕事……っマティ、深っ……っ……くっ……」
 
 ズンズンと奥を攻め立てられ、俺はこれまでに何度イッたかわからない。それでもまだ満足いかない様子のマティは俺の首に歯をあて……噛み付いた。
 
「……やっぱり嵐は平気なんだ……俺は片時も離れたくないのに……っ(ガブッ)」
 
「っつ……っ!」
 
 
 
 
 
 
 
 晴れて夫夫ふうふとなった弁護士の俺、星ノ宮ほしのみや らんと、世界で活躍するモデルのマティアス・ヴィルケ・ザイフェルト。
 
 紆余曲折ありながらも俺達が26歳の時にドイツで入籍し、俺がラン・ホシノミヤ・ザイフェルトになった。
 
 
 仕事がら海外への出張の多いマティは、出国直前と帰国直後のセックスが凄く……執拗で意地悪だ。
 
 何故かといえば、マティが出張でいなくても、俺が平気そうに見える、という意味のわからない理由だったりする。
 
 でも……なんとなくだけど、マティはそもそも俺と物理的に離れる事が不安なんじゃないかと思う。
 ……きっと……心のどこかで、また俺がマティを忘れるんじゃないかと心配しているのかもしれない……トラウマなんだろうな。
 本当に申し訳ない事をしてしまった。
 
 
 
 
 
 
 
「……嵐……行きたくない……」
 
「マティ、毎回毎回出張の度に駄々っ子になるの、やめなさい……マネージャー佐久間さんを困らせたら駄目だよ」
 
 今回はパリで撮影があるのだが、朝から行きたくないと駄々をこねるマティをなんとか車に乗せ、空港まで引きずってきた。
 
「嵐さん、毎度毎度すみません……ありがとうございます」
 
「佐久間さん……こちらこそマティが毎回毎回ご迷惑をおかけして……」
 
 マティのマネージャーの佐久間さんとの空港でのこのやり取りも何度目かわからない。
 
「……嵐も行こうよ、パリ」
「俺にも仕事があるんだよ?」
 
 ムスッとするマティは子供みたいで可愛い。
 
「……キスしてくれたら頑張れるかもしれない」
 
 これもお決まりのセリフとなっている。
 
 俺はマティのこの言葉を聞いた後は、一目もはばからず濃ゆいキスをしてマティを送り出す。
 
 いつもは恥ずかしがってばかりの俺のこの大胆な行動に、マティは満足し、気持ちを切り替えて飛行機に乗ってくれるのだ。
 
 
 
 
 マティを見送った俺は車に戻りすぐに仕事に戻る。
 
 俗にフロント企業と呼ばれる会社をいくつも持つ蓮華組の顧問弁護士をしている父親と一緒に、俺も同じように弁護士をしているので、なかなかに忙しかったりするのだ。
 
 
「……でも、寂しくないわけ無いだろ、マティ……」
 
 
 街中でマティの映る媒体を目にしたり、マティが契約している輸入車のCMを目にする度に、俺はマティを独り占めしたくなるし、もちろん会いたくなる。

 マティが仕事でいない時、俺がマティの部屋着を抱きしめて眠っている事なんて、マティは知らないだろう。
 
 
 
 
 
 
 
 
「あ、マッテオだ! カッコイイよねぇ~写真とっとこ」
 
 マティが出張に出て数日が経っていたその日、外で待ち合わせをしていると、マティの等身大ポスターの前で女子大生らしい二人が足を止めてスマホをかざしていた。
 
「マッテオ好きなの? でもマッテオって男の人と結婚してるよね?」
 
「そうなんだよ! それもさぁ、隠さずに公表してるって所が、最高に素敵だよね~愛を感じるよ~」
 
 
 ありがとう、見知らぬ女子よ。
 そうなのだよ、その通りなのだよ、見知らぬ女子よ。
 

 マティは俺と結婚してからは、堂々と同性婚を公表し、雑誌のインタビューまで受けている。
 さらにはどんな仕事でもマリッジリングを外す事はなく、むしろそれを条件に仕事を受けている徹底ぶりなのだ。
 
 一時、マティのマリッジリングはどこのブランドのものか、などと話題になったりもしたが、俺達のリングはマティがデザインした、世界でたった2つのフルオーダーのリングだ。
 
 
 

 
「おい、なに旦那のポスターの前でニヤニヤしながら突っ立ってるんだ?」
 
「……伊万里……ニヤニヤなんて……(してたかもしれない……)いや、カッコイイな、と思って」
 
「惚気か? そりゃそうだろうよ、世界のマッテオ様だからなぁ……何等身あるんだ?」
 
 
 俺は今、大学時代からの友人で今は弁護士仲間の伊万里 星いまり せいから頼まれて、皇煌組すめらぎぐみがこれから手掛ける大規模な土地の買収の案件についての相談にのっている。

 皇煌組すめらぎぐみの会長は、蓮華組の御隠居と言われる俺の曾祖父の友人でもあるため、そちらからもよろしくと頼まれ、忙しいが断わる事が出来なかったのである。
 
 今日はその打ち合わせだ。
 
 
 ちなみに伊万里は今、皇煌組すめらぎぐみの組長の息子と、ノンケ同士がくっつき、恋人同士らしい。
 皇煌組の息子は一級建築士で、自ら建築士事務所を起ち上げているそうで、伊万里は父親の弁護士事務所を辞め、そこで弁護士として働いているそうだ。

 仕事まで恋人と一緒だなんて、俺としては公私の切り替えが出来るか不安で、絶対に無理だ。


「それで、今日はどこに行くんだ?」

「今日は、皇煌組すめらぎぐみの会長に会ってこの前の話しをしてほしいんだ」

 俺は前回、土地の買収のいろはを丁寧に伊万里に説明してやったのだが、それをまた会長にしろというのか……。

「お前、俺の話し聞いただろ、自分がしろよ」

「いや、会長がなぜかお前を気に入っているらしくてな会って直接聞きたいそうだ」

 何故、皇煌組すめらぎぐみの会長が俺を?

「……俺の曾祖父絡みかもしれない」

 曾祖父はあの襲撃事件の後、俺が自分を庇って大怪我をした事をずっと悔やんでいたが、こうして今、記憶も戻り何不自由なく生活している俺を見て、気が変わったようなのだ。

「お前の曾祖父って蓮華組の御隠居だろ? ……ああ、お前に命を救われたってアレ・・か」

「お前まで知ってるのか……」

 曾祖父はいつからか、曾孫に命を救われた、と行く先々で自慢して歩き始めたのである。

「俺は一応、巻き込まれた一般人であって、カタギなんだぞ」

「……俺だって、カタギだぞ」



 こうして俺は、意図せず皇煌組すめらぎぐみの門をくぐる事となったのだった。







 皇煌組すめらぎぐみでは、1人のイケメンに出迎えられる。

 握手の手を差し出しながらサングラスを外したその男は、日本人離れした整った顔立ちをしていた。

「はじめまして星ノ宮さん、すめらぎです、よろしく」

 そのイケメンが皇と名乗った事で、俺はすぐにピンときた。

 確か彼には双子の妹さんがいたはずで、彼女はマティとタイプが違うがモデルなどもする業界人だった気がする。
 

「星ノ宮です……お会いできるとは思いませんでした、よろしくお願いします」

 間違いない、彼が伊万里の恋人だろう。
 
「……伊万里お前、面食いだな」
 
「お前に言われたくないな」



 そのまま俺は皇煌組すめらぎぐみの会長のもとへと案内され、お茶を頂きながら伊万里と伊万里の恋人と会長の三人に土地の買収について説明したのだった。



 話しを終えた後には、何故か会う前から俺を気に入っている会長に、夕食に誘われたが、今日はマティがパリから帰国する日なのだ。

 2時間後には空港まで迎えに行かなければならないのでその日の誘いは丁寧に断った。





 俺は買い物を済ませてからマティと住むマンションに帰宅し、そのまま簡単な物だけどマティの好物を作り、そして風呂に湯を張り、寝具をキレイに整えてから、空港までマティを迎えに行く。






 マティはすでに結婚し夫夫である事を公表しているため、いつどこで二人でいる所を撮られても問題ないが、俺は一般人であるためその辺は一応考慮されている。
 
 これまでにも何度か俺達が二人でいる所の写真を撮られてSNSにアップされたり、週刊誌に掲載された事があったが、俺の顔はいつもモザイクだったり後ろ姿だったりして、身バレす事は一度もなかった。
 
 ……まぁ、同性婚というのが、未だデリケート問題だからかもしれない。
 
 
 

 
 人気ひとけの少ない時間帯の空港に、こっそりと現れたスーパーモデルのマッテオことマティは、遠目に俺と目が合うなりマネージャーの佐久間さんと別れ、駆け寄って抱きついてきた。
 

「……嵐!」
 
 ギュッ……

「おかえりマティ、お疲れ様」
 
 もちろん俺も慣れたもので、マティの背中に手を回し、ぽんぽん、と抱きしめ返す。
 

「はぁ~嵐が足りない……今夜は覚悟してね、帰ったらまずは一緒にお風呂かな」
 
「……う、うん……お湯は張ってきたからすぐに入れるよ」

「あ~嵐……チュウして……」

「っえ、ここで? 車まで我慢しない?」

「一週間我慢した俺に、まだお預けする気?」

「……(チュッ)」

「……それだけ?」


 ……全く……マティは美しいにしても、図体のデカい男が二人で夜の空港で何してるんだか……。










 翌朝……。


 休日の朝、先に目が覚めた俺は、美しい裸を惜しみなくさらしながら俺にしがみついているマティを眺めながら、そのままベッドから動けずにいた。

 至福……眼福……。

 その時、マティのスマホが震え画面にはマネージャーの佐久間さんの名前が表示されていた。


「ん? ……マティ、佐久間さんから電話きてるよ」

「……む……嵐でて……」


 これもいつもの事なので、俺が代わりに電話に出てスピーカーにして話す。

「おはようございます佐久間さん、マティは寝てますがスピーカーで聞いてます」

『あ! 嵐さん、いつもありがとうございます! っマッテオ、嵐さん、大変なんだ!』

「……? どうしました?」

 佐久間さんの話は、俺にとっては困惑する内容だった。


『昨日の空港でお前達二人のイチャコラシーンの動画を撮影した人がマッテオとは知らずにただのゲイのイチャコラシーンとしてSNSにあげたんだ、それが……』

 まぁ、撮られるかもしれないというリスクは常日頃あるから、それ自体はさほど気にはしない。

「……またですか、すみません……それで……?」

『嵐さんの顔も全て写ってる、おまけに、BL好きの間でバズってる!』

「……え……それはまた……新しいですね……」

 俺の顔が……そうか……仕事はまぁ……大丈夫だろう。


『呑気な声出してるけど、大変なんだよ? マッテオだと気付いたフォロワーがコメントした後は、もう大変! どっちが受けか攻めかで議論が始まって、それから……』

「……俺はバリタチ」

『マッテオ! 茶化すな! ……ゴホン……それでだな……』

 俺は自分のスマホで検索してみたが、どうやらその投稿は今はもう削除されているようだった。


『嵐さん、今回はマッテオのパートナーとして顔バレとなった貴方に注目が集まってます』

「まぁ……そうなりますよね、仕方ありません、いつかはこうなると覚悟はしてましたから、問題ありません」

『さすがは嵐さん、実に素晴らしい心構えです、ですが……今回は厄介でして……』

 マティは家の中だろうが外だろうが、どこでも俺から離れないし、好きあらばイチャついてくるので、いつかはこうなる事は予想出来ていた。

 俺達は正式な夫夫なのだから、問題はない。

『嵐さん……モデルなんて興味ありませんか?』

「……はい?」

「……佐久間さん、嵐はしないよ、俺がさせないし……バカな事言うなら切るぞ」

 バリタチ以外の言葉を発しなかったマティが突然喋りだした。

『待て待て待てっ! 違うんだ、コメントの中で嵐さんがメンズモデルじゃないかって話題になって、一般人のわけない、って盛り上がっていたんだよ』

 まぁ、盛り上がるのは勝手だよな。
 世界には、こんな俺でも好しとしてくれる人がいるのはありがたい……マティもその1人だ。

『嵐さんは自己評価がとんでもなく低いけど、実はずっと、その容姿を隠しておくのは勿体ないと思っていたのは事実なんだ、嵐さん、貴方は凄くカッコイイんだよ、マッテオとは違うジャンルだけどね』

「当たり前だろ、嵐はカッコイイんだよ……老若男女、嵐に惚れちまうよ、だから、嵐は表に出たら危険なの、ハイ、この話しは終わり!」

 俺が……カッコイイ?
 マティとは違うジャンルで?

 マティはよく俺に“カッコイイ”と言ってくれるけど、それは痘痕も靨あばたもえくぼだと思っていた。

「……でも俺、モテた事がないですけど」

「それはね、嵐……俺がずぅーっっと隣にいたし、女も男も牽制してたからだよ? まさか、気付かなかったの?」

 確かにマティは一緒いたが、記憶を無くしていた時やマティのいない学校や仕事でもモテない。

「実際に隣にいなくても、恋人の存在を周囲に匂わす事くらい簡単なんだよ? ……俺の可愛いピュアなネコちゃん」


 マティは俺をネコちゃんと呼びチュッとキスをした。

 タチネコで言えば確かに俺はネコだが、見た目で言えば虎か熊ではないだろうか。

 それにしても……なんだそれは……マリッジリング以外に、匂わせるなんて……そんな事が可能なのか?!


『もしもーし……? ならさ、マッテオと嵐さんの二人の撮影なら大丈夫? 顔出しが嫌なら顎の下からとか! 嵐さんなら、身体だけでも十分魅力的だからさ』

「もー佐久間さんしつこいよ、嵐には嵐の仕事があるの、忙しいの! はい、じゃあね、バイバイ!」


 マティは電話を切ってしまった。


「……それにしても……空港での動画か、恥ずかしいね、キスした所とか映ってたのかな?」

「俺の嵐が……とうとう世の中に見つかってしまった……」



 マティは枕に顔をつっぷしながらなにやらブツブツとモゴモゴとしている。
 
「マティ、そろそろ起きようよ、いい天気だから、マティが疲れてなければ今日は買い物に行こう」






「行く……嵐の服買わなきゃ」





「よし、決まりだ、どうせならブランチ食べに行こう」

「行く……嵐となら」


 マティは俺が一番、俺もマティが一番で唯一だ。



 
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