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序章

3:ダンジョン探索二日目

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 ダンジョンから帰ると婆ちゃんと爺ちゃんに物凄く褒められた。その上その日の夕飯は俺の好きなかつ丼になった。一匹倒しただけだって説明したんだが、初陣は初陣だ、と婆ちゃんに断言されてしまった。

 かつ丼はいつも通り、肉厚で味も濃い目。俺はもちろん、年を取っているはずの爺ちゃんもがつがつとかつ丼を平らげて、最後に白みその味噌汁で締めた。

「違うって、持ち方はこうだ」
「こう?」
「もっと力抜いて…で、振る時だけ握る」
「うーん、難しい」

 夜は若い頃刀を習っていたという爺ちゃんに刀の基礎を教えてもらった。部屋の光が照らす縁側、庭の中で、爺ちゃんがつきっきりで教えてくれた。そんなそばで、婆ちゃんが縁側に麦茶を出してくれる。

 しかし、刀の振るい方を覚えるだけで結構音が変わった気がする。ゴブリンを攻撃した時に、斬る場所が狂った理由も少し分かった。あの時は物凄い力で握りしめたまま刀を振るってしまったのだ。

 狙いを付ける時は手に力を入れず巧みに、そして振るう一瞬のみは力を入れて豪快に行く事。これを念頭に置けばちょっとはマシになりそうだ。

 他にも型を色々教えてもらった。これからももっといっぱい教えてもらおう。

 それから、婆ちゃんからは戦術について教わった。一対一の首の跳ね方、複数対一の首の跳ね方、とそんな事だ。

 助かるけど、なんでそんなこと知ってんだよばーちゃん…。

 明日はもっと奥深くまで挑戦してみよう。



3:ダンジョン探索二日目



 今日も今日とてダンジョンに突入だ。昨日ゴブリンを倒した部屋を通って、さらにもう一つ先の部屋へとたどり着く。そこには二体のゴブリンがいて何やら小石同士をぶつけ合って何かを作ろうとしていた。

(なんで二体に増えてるんだよ…)

 昨日は一体、しかも不意打ちで手傷を与えて何とか倒すことができた。

 今日はステータスの効果で昨日の俺よりも確実に強いとはいえ、二体同時に戦えるとは思えない。

 一度引き返そうかと思った俺だったが、後ずさった時に小石を踏んづけてジャリッと音を出してしまった。ゴブリン二体が反応して振り返ってくる。

(マジか…!)

 あまりの運の悪さに舌打ちして、俺は部屋の中に入った。逃げたら普通に外まで追いかけてくるからな、こいつら。

 刀を抜いて臨戦態勢に入ると、奴らはなんと持っていた小石を俺に投げてきた。計二つ、一般人に当たれば怪我は免れないスピードだ。

 それに対し俺はというと、ほぼ反射的に刀を振って小石を切り落としていた。それも二つ同時にだ。

(うおっ…これがステータスの強化か…!)

 普通の俺にこんな芸当が出来る訳がない。ステータスの強化は俺の思った以上に強力だったらしい。

(ステータスを得たばかりの初心者が、調子に乗って死亡事故起こすのも分かるな…が、それはそれとして)

 俺は刀を中段に構えてゴブリンを見据えた。

(これなら…いける)
『ギャア!』

 ゴブリンAが駆け出して鉤爪で攻撃してくる。俺はソレを、間合いに入った瞬間に切り捨てた。

『ギッ』

 悲鳴を上げて倒れる。すると、ゴブリンBがゴブリンAの死体を踏み越えて上から急襲を仕掛けてきた。俺の眼前まで迫ってきて、手に持った石斧らしきもので攻撃してきた。

 俺は半歩横に出ながら石斧に刀を合わせて攻撃を反らす。そして、すぐに刀を翻して、右下から上へと逆袈裟切り。

「軽く持って…振るう時だけ握り込む」

 すぱんっ、と何の抵抗も受けずに刀は振りぬかれた。背後でブシュッ、と音を鳴らして魔素をまき散らし、ゴブリンは絶命する。

「ふう…やったか」

 最初はどうなるかと肝を冷やしたが、何とかなって良かった。

 と、ここでデバイスに通知が入る。見てみるとどうやら俺はレベルが上がったらしい。

――――――――――――――――――
神野圭太
Lv.2
近接:15
遠距離:8
魔法:8
技巧:11
敏捷:8
《スキル》
【塞翁が馬】
――――――――――――――――――


 近接と技巧、敏捷が上がったか。まあそれくらいしか今のところ使ってないし、さもありなんと言ったところだが。

「にしても武器持ちのゴブリンって、もっと奥に行かないと出ないんじゃなかったっけ?」

 ゴブリンなどのよく出るタイプのモンスターは、冒険者の知識テストにも出るものだった為覚えている。武器を使う程の知能を持つゴブリンは平均して少し奥に行かないと出てこないとされていたはずだ。

 手斧ゴブリンはあの時、明確な意図をもって普通のゴブリンを先に特攻させた。明らかに悪知恵を働かせていた。

「…手斧ゴブリンの方が魔石がデカいな」

 魔石を拾って、俺は呟いた。最初に切った方のゴブリンの魔石と手斧ゴブリンの魔石を比べても、手斧ゴブの方が一回りも魔石が大きいのだ。

 やっぱり、今のは突然変異種だ。その階層に住んでいるモンスターの中で、たまに生まれてくる普通の個体よりも高い能力を持つモンスター。

 …まさか、これが困難ってやつなのか?

「…ん?おわっ、いつの間に!」

 魔石をバックパックに入れていると、部屋のど真ん中に小さめの宝箱が落ちているのに気づいて思わず声を上げてしまった。

「まさか、これが祝福…?」

 まさに塞翁が馬。俺のスキルはその名の通りの効果を見せたのだった。

 宝箱。それはダンジョンに稀に生成される物体で、中には宝が入っている事が多い。宝箱の多くは敵を倒した後に出現したり、行き止まりに隠れるように生成されたりと、主に冒険者が困難を切り抜けた後に出現することが多いようだ。

 高難易度ダンジョンだとトラップが仕掛けられていたりするが、ここは恐らく低難易度ダンジョンだ。まさかトラップがあるとは思えない。

 …本当に?

 俺は宝箱に手を伸ばし、そっと開けた。

 ひゅん、という音と共に、俺の身体が反射的に動いてそれを掴んでいた。顔の眼前まで凄まじい速度で迫ってきたソレは…矢だった。

「…これも、塞翁が馬、なのだろうか…」

 いやマジで、あらかじめ警戒しておいて本当に良かった。矢を地面に落として踏みつけつつ、俺は宝箱を改めて開いた。

 中に入っていたのは大きめの魔石。更に意匠が凝ったナイフが一本と、小瓶が一つ。

「えっと、確かデバイスで鑑定ができるんだよな」

 俺は支援デバイスを取り出して、鑑定アプリを起動させた。アイテムの写真を取るとAIが判断してそれが何のアイテムかを調べてくれるのだ。

 調べた結果、ナイフの方が《蛮族長のナイフ》で、小瓶の方が《迷宮蜜柑のマーマレード》だった。

《蛮族長のナイフ》
・レア度1
・微かな魔力がこもっている。このナイフでできた切り傷は荒くなる。

 《蛮族長のナイフ》はいわゆる魔法武器と呼ばれる類のアイテムだった。武器そのものに魔法が掛けられていて、消費無し、もしくは魔力を使用してその魔法を使うことができるアイテムの総称だ。

 これは…どうなのだろう。痛そうではあるが…魔素の流出が長引くと考えれば使いようもあるか?お守りとして持っておくのもいいかもしれない。

《迷宮蜜柑のマーマレード》
・レア度1
・微かな魔力がこもっている。摂取することで治癒力が向上。視力が向上。

「食材アイテムか。これは婆ちゃんにプレゼントだな」

 最近老眼鏡を使う機会が増えてきた婆ちゃんにはもってこいのアイテムだろう。婆ちゃん洋食も好きだし、きっと喜ぶ。

 俺は一応持ってきていたタオルで瓶を包んでリュックに入れ、ナイフは動きが阻害されない位置で腰のベルトに差しておく。

 それにしても、ナイフの方は5万円、マーマレードは4千円か。鑑定結果に出てきた販売価格の平均を見て、俺はやる気をみなぎらせた。

「良し、この調子でどんどん行こう」

 願わくば、美味しそうな食材アイテムをもっと手に入れたいものだ。

 三つ目の部屋は、ゴブリンが三体いた。一体だけ石斧を持っている。

 しかし、今度は音を出してバレてしまうようなミスは犯さない。刀を抜いて、足音を殺しながら近づいて石斧ゴブリンの首に刀を振るった。

『ギャー!?』

 リーダー格の石斧ゴブリンが死んでしまった事に驚いたゴブリンが悲鳴を上げている。パニックに陥ったそいつらにも刀を振るい、今度は危なげなく敵を殲滅することができた。

「…なんか、ここまで上手くいくと後々怖いな」

 なお、ここでも宝箱が出てきた。当然のように罠付き。中身を回収して、鑑定は後で纏めてやることにする。

 次の部屋では、なんとイノシシに乗ったゴブリンがいた。

 あれはゴブリンライダーとでも言うのだろうか。明らかに堅気ではない雰囲気の、目に傷の入ったイノシシ。そしてゴブリンは手に貧相な石の槍を持っていた。

 いつものように部屋に入らず隠れてみていると、イノシシが急に俺の方を向いて突進をかましてきた。

(しまった、匂いか!)

 そう気づくも時すでに遅く、俺は慌てて部屋の中に転がり込んでその場から離れた。

 イノシシは岩壁に思いっきりぶつかるも、その部分は陥没してパラパラと瓦礫が落ちていった。そしてこちらに顔を向けてくる。

『ギギギッ!』

 ゴブリンが笑いながら槍を突き刺してきたので、俺は穂の部分を切り落として距離を取った。

(来い!)

 イノシシがまた走り出して俺に突進をかましてきた。しかしよく見るとゴブリンは振り回されているようで攻撃どころではないみたいだ。

 俺はインパクトの寸前横にずれて刃をイノシシの身体に這わせた。横一線に切り傷を受けたイノシシはそのスピードのままもんどりうって転がって、壁にぶつかって沈黙した。

『グギギギギッ!』

 ゴブリンは咄嗟にジャンプしてその場から逃れており、俺を恨めしそうな目で睨みつけながら穂先の無い槍で攻撃を仕掛けてきた。

 突きを二回。頭と肩。俺は身体をずらすことでそれを避けて、ゴブリンの首を落した。

 最後にまだ辛うじて息のあるイノシシに止めを刺し、戦闘は終了した。

「…なんか毎回宝箱を見てると、ちょっと申し訳なくなってくるな」

 本来ならこんな高確率で出てくるものではないはずなのだが、スキルの恩恵は思った以上に大きい。

 三回目の宝箱も当然罠付きだった。今回はガス噴射だったが、噴射口の出現とガス噴射までの時間にタイムラグがあったのでその間に全力で距離を取る事に成功できた。

 っていうか、罠の殺意が高すぎる。普通に冷や汗かいたわ。

 宝箱の中身はリュックに詰めて、さらに先へと進む。

 すると道は二つに分かれていた。左だけが下へと続く道で、右はまっすぐ進んでいる。

「…右から行くか」

 定石どおりに考えるなら、下への道が先へ続く道なのだろう。なら先にそうでない方の道を進んで攻略してから次に進みたい。

 右側の通路を選んで進んでいくと、そこは今までとは比べ物にならない程の大部屋が広がっていた。

  
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