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序章

2:ダンジョン探索初日

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「あら、良いじゃない!とっても素敵よ、圭太」

 武器、防具、バックパックを装備し、ブーツを履いていると後ろから婆ちゃんが声をかけてきた。

「やっぱり日本男児には刀よね。昔のお爺さんを見ているみたいだわ」
「そうなんだ?」
「ええ、そっくりよ。やっぱり血って大事なのねえ」

 にこにこ、と昔を懐かしむ婆ちゃん。

「それじゃあ、行ってくるよ婆ちゃん」
「ええ、行ってらっしゃい。初陣とは言え男なのだから、みしるしの一つでもちゃんと上げてきなさいね」
「え、うん、分かった」

 みしるしってなんだ。疑問に思いながらも、俺は外に出て畑の方へ向かったのだった。

 畑について、俺は立ち止まった。

 いつも通りの畑の風景に、一つだけ混じった非日常の塊。

 それはあまりにも不自然に畑の土を盛り上げ、その口を大きく開ける洞窟だった。

「おお、来たか、圭太」
「爺ちゃん、何してんの?」

 あぜ道に座り込んでダンジョンを睨みつけていた爺ちゃんが俺に声をかけてきた。

「なに、昔の事を思い出してな」
「昔の事?」
「婆さんとの熱い日々の事」
「ダンジョン見ながら思い出すことかよ」

 ジト目を向けると、爺ちゃんは薄く笑った。

「大災害の事を思い出してたんだよ」
「ああ…」

 大災害。ダンジョンが出現し始めた時期の話だ。あの時は氾濫がそこら中で起きて世界中が阿鼻叫喚に包まれたらしい。

「あれがきっかけでお前の両親はよ…」
「うん」

 そう、大災害は人々の暮らしを変えた。それは俺も例外ではない。

 そう、大災害がきっかけで俺の両親は――――。

「研究者魂を刺激されて、ダンジョンを研究するために外国を飛び回ってやがる!」

 そうなのだ。うちの両親はダンジョン馬鹿になってしまったのだ。

「先月はハワイにいたのに、今月はイギリスだって。よくやるよな」
「一人息子をほったらかしにして!帰ってきたらとっちめてやる!」

 憤慨する爺ちゃんはため息をついて、俺のケツに思いっきり張り手をしてきた。

「痛い!何すんだジジイ!」
「気合い入れてやったんだよ。頑張っていってこい!」
「はいはい…行ってきます」

 俺はそう言って、畑に降り立った。



2:ダンジョン探索初日



 ダンジョンの中に入ると、夏とは思えないくらいの冷気が俺を迎える。

 洞窟は入口から奥まで一本道に続いていて、急こう配の坂になっていた。進むと緩やかならせん状のようになっていて、下へと進むこととなる。

 そして、すぐに開けた部屋へと当たった。中を覗き込んでみると、ゴブリンが一体、部屋の中の隅で何かを弄っている。

 よく見てみると、それは鼠のようだ。むしゃむしゃと食っていた。

(ルーム、ってやつだっけか)

 一夜漬けで覚えた知識を引っ張り出す。ダンジョンはいくつか形態が存在し、そのうちの一つがルーム型ダンジョンだ。

 ルーム型ダンジョンは複数の部屋が数珠のようにつながっており、行き止まりに繋がる分かれ道も存在する。その形状からアリの巣型ダンジョンとも呼ばれている。

 なお、ルーム型は先に進めば進むほど敵は徐々に強くなっていき、同時に手に入るアイテムや魔石も質が良くなっていく。

 ダンジョンの中で最も数が多く、初心者が潜りやすい型だとも言われている。

(運がいい。が、そもそもまずあいつを倒せるかどうかだよな…)

 人型のモンスター。倒すのに抵抗はあるだろうか?頭の中でシミュレーションしてみる。

 今からあのゴブリンにこっそり近づいて行って、その首に刀で切りつける。

 ゴブリンの体内には血の代わりに魔素が流れているので、恐らく切りつければゴブリンの首からは魔素が大量に流れ出るだろう。

 そうして、奴は魔素不足を起こしてショックで死ぬ。死んだ後は魔素に分解され、コアである魔石を残してダンジョンに吸収されるだろう。

 そこまで想像して、俺は目を開けた。

(…特に問題は無い。やってみよう)

 人型モンスターを殺すことへの抵抗感。初心者にありがちだと言われていた症状だが、俺には出なさそうだ。

 シミュレーションをなぞる。刀をそっと鞘から抜き、出来るだけ足音を立てずに近づいて、ゴブリンの背中に立つ。

 そして、未だに鼠を貪り食うゴブリンの首目掛けて、俺は刀を振り下ろした。

「ギャアアア!?」
「…ちっ!」

 が、刀は狙いを誤って、奴の肩に深く切り込んだ。俺はゴブリンの背中を踏みつけ、慌てて刀を抜いて距離を取った。

「ガアアアアア!」

 ゴブリンは魔素を噴出しながら俺を睨みつけ、痛みも感じていないかのように振舞い俺に向かって走り出してきた。

(冷静に、冷静に、冷静に、冷静に!こういう時は、まず間合いに入れない!)
「こっちに来るな!」
「ギィッ!」

 刀を振って、その動きをけん制する。当然奴は立ち止まって俺を警戒する。

(ありがとう研修で見た戦闘ビデオ!役に立つもんだな!)

 試験に合格した後半日かけて見た甲斐があった。

 俺は刀を握り直して、敵の出方を伺う。

 動きはあった。業を煮やしたゴブリンが、駆け出したのだ。

「ガラアアア!」
「よっと!」

 しかし、間合いを十分に取って警戒をしていた俺は、ゴブリンのその直線的な動きを余裕をもって回避することができた。奴は手加減ってものを知らないのか、全力疾走したから脇に避けた俺に対応できていない。

「死ね!」

 俺は奴の背中を切り裂いた。

 ゴブリンは悲鳴一つ上げずに地面に倒れ込み、そして煙となって消えていった。

「…ぷはぁっ!はあ、はあ、はあ…!」

 気づかぬ間に今まで息を止めていたのだろう。俺は思いっきり深呼吸して、肩で息をしていた。

 もう既に疲労困憊だ。

「あ…これでステータスを手に入れた…のかな?」

 ダンジョンでモンスターを倒すと、人はステータスを得ることができる。何故得ることができるのか、そもそもステータスが何なのかは一切不明だが、人にモンスターを倒す力を与えるので悪い風には見られておらず、逆に歓迎されている。

 受け入れられている理由としては、ダンジョンの外では魔素不足でステータスが機能しないというのもあるが。

「確か、支援デバイスに表示されるんだよな…?」

 俺は支援デバイスを取り出して、画面を操作。そして、ステータス画面を開いた。

 支援デバイスは持ち主を登録して、その人のステータスを解析、表示する機能がある。


――――――――――――――――――
神野圭太
Lv.1
近接:12
遠距離:8
魔法:8
技巧:9
敏捷:7
《スキル》
【塞翁が馬】
――――――――――――――――――


「こ、これが俺のステータス…!でも、スキル…なんだこれ」

 スキルは一番最初は誰でも手に入れる事が出来る。剣術とか火属性魔法とか、とにかくスキルの種類で才能が決まると言っても過言ではない。

 俺の初期スキルは【塞翁が馬】というらしい。確か、人生苦もありゃ楽もある、みたいな意味だったと思うが、一体どういうスキルなんだ?

 タップして詳細を開いて見る。

【塞翁が馬】
・困難と祝福を授ける。
・困難を退けた場合、次の祝福の効果と取得経験値に大きく補正

 こ、これは…デメリット付きのスキル、だと…!?

「効果はかなりよさそうに見えるが、困難ってのが具体的にどういうものなのか分からな過ぎて怖い…」

 どうやら俺は、一癖も二癖もあるスキルを手に入れてしまったらしい。

 とりあえず今日の所は様子見とステータスの獲得が目標だったので、無理せず帰ることにした。
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