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18.小さい体

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ある日の夕方。知らない女性が知らない子供を連れて訪ねてきた。自治会の集金で払い忘れがあったかと玄関を開けたんだが、

「く……くらうしゅう……」

知らない子はリムルによく似た泣き顔で握りしめたハンカチで顔を拭きながらいきなり俺の名前を呼んだ。

「すみません。クラウスさんですか?私、―――学園で教師をしています。マリアと申します」

「はぁ、おれ、あ、私がクラウスですけど」

「ボクをみて分かんないのかっ。バカ。どんかん。マヌケ。アホ」

「リムル、お前、リムルなのか?」

堂々と年上に向かって悪口をぶつけるのはリムルしかいない。だが同年代より背が低いリムルがもっと背が低くなっている。しかももっと子供になっている。
小さいリムルは俺に抱きついてワンワンと泣き、学校の先生だと名乗ったマリア先生は気が弱いのかすげー困った顔して俺を見ている。

「とりあえず中に入りましょう」

俺は二人を家に上げた。

******

「で、どういうことなんですか?」

この国では俺はリムルの護衛兼お目付け役ってことになっているので、できるだけ保護者っぽく振る舞うようにする。

「実は……学校の授業で魔法薬の実験をしていたんですが、真面目に授業を受けなかった生徒達がいまして……それをリムル君が注意したところ彼らが怒ってしまって。勉強に関係がないものを持ってきては行けない規則だったんですが、彼らはイタズラグッズの子供になる薬をリムル君にかけてしまいまして……」

「ボクは悪くないのに子供になってしまったんだ」

「それでリムル君には薬の効果が切れる翌日まで休んでもいいと言ったんですが、授業は受けると言って……」

「当然だろ。この程度で皆勤賞を逃すわけにはいかない。ちなみにアイツラは一週間の自宅謹慎処分だ」


縮こまってる先生の隣で堂々と喋るチビリムル。

「事情は分かりましたけどそのイタズラの薬の効果は明日までなんですよね。リムル、お前、明日は学校休むか?」

「バカを言うな。皆勤賞を落とすわけにはいかないと言っただろ。中身は僕のままなんだからな。記憶まで子供になっていないし、小さくなった程度で授業には支障はない」

「そっか。分かった。先生、そういうことなんでリムルは明日も学校に行かせますんでよろしくお願いします」

それからちょっと先生と話をして、リムルと一緒に玄関で何度も頭を下げるマリア先生を見送ってさよならした。

先生が帰った後もリビングに戻ってからもずっと椅子にも座らずにリムルが頬っぺたを膨らませて俺を見つめていた。

「なんだよ。その不満そうな目は」

チビリムルだからそんな顔したってますます可愛くなるだけだった。

「別に。先生を見てデレデレしてたことを怒ってないぞ」

「俺はデレデレしてなかっただろ。先生って職の人と久しぶりに会って緊張はしたけど」

女の先生と話しただけで嫉妬してるな。学校でのことを話してただけで怒るなよ。

「……いらいらしてきたからボクを抱け」

「イライラするのは腹が減ってるからだろ。あと一時間もすれば晩飯できるから待ってろ」

だがリムルは俺のプラプラをズボンの上から握ろうと手を伸ばしてきた。仕方なくリムルの腋に手を差し込み抱っこをした。

「ボクを抱け。ボクは主人だぞ」

ぷうっと頬を膨らませた顔をされるとその頬に吸い付きたくなってきた。愛おしいって意味の方で。

「でもさすがに今日はダメだ」

可愛くって仕方ないんだが、手を出すとなると別問題だ。ここまで低年齢になると俺の守備範囲外なんだ。我慢してくれ。


「抱かないなら、もとに戻ってもお前とは一緒に寝ない」

「……今日は我慢しろ。明日、元の姿に戻ったらリムルの言うことをなんでも聞くから、な?」

俺の腕の中で俺の胸に顔を擦り付けるリムル。そんな仕草がかなり可愛い。いつものリムルも生意気で可愛くってたまらないが、俺の知らない小さい頃のリムルに会えたのは嬉しい。

「じゃあキスしろ。命令だ」

「これで満足してくれよ」

「ああ」

俺はソファに座って膝の上にリムルを乗せてから優しく抱きしめて唇を重ねた。

***

一日だけ子供になってしまったリムルと夕食を食べた後、一緒に風呂に入ることになってしまった。体が小さくなったから椅子に乗るのも抱き上げが必要だし、大人サイズの道具が使いにくいと文句を言うのだ。
もちろん俺も最初は断ったのだが、リムルの奴、

「小さいボクとお風呂に入れるんだ。中身は子供じゃないしこんな機会二度と無いかもしれないぞ。それにこのぷにぷにになった僕の体を洗うのは気持ちいいだろう。喜べよ。僕と一緒にお風呂に入って手伝ってくれたら僕はクラウスに感謝してやる」

と言う。
俺は元に戻ったリムルと風呂に入りたい……じゃなかった。大事なのは最後のセリフだ。一年以上経つからリムルが言いたいとを読み取ると、素直に感謝してしまうほど、体が小さいから風呂にはいるのも大変だと言っている。手伝ってやらないと元に戻ってから何を言われるか分からない。ちゃんと助けてやらないとな。

「おい、早く脱げ」

先に服を脱いだリムルが俺のシャツを引っ張った。

「脱ぐから慌てるな」

俺が服を脱ぐとリムルは裸になった俺の手を引いて浴室に入った。
リムルの髪も体も俺が洗う。リムルが言う通り、腕や足がぷにぷにのムニムニで手に泡を付けて洗ってやると気持ちよかった。
だけどいつもと違うのはリムルの全身を洗い終わった後に風呂の椅子に俺が座り、リムルが俺の背中を洗ってくれていることだ。たまに一緒に風呂に入ると洗いっこもするが、リムルは俺が体を洗うのを見るのが楽しいと言って湯に使って眺めてくる。

「やっぱり背中を流してもらうのは良いな」

小さな手で俺の背中を一生懸命にタオルで擦ってくれる。感謝の気持ちなんだとか。

「当然だろう。僕が綺麗にしてやるんだ。感謝しろよ」

「おお」

「……クラウス、僕が元に戻ったらなんでも言うことを聞くって約束、忘れるなよ」

「お、おお」

そうだった。元に戻っても俺はリムルの言いなりになるんだった。どんな無理難題を言われるのか……よくかんがえたらいつも通りだな。リムルに振り回されることに変わりないし……。
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