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ヒロインよ、王太子ルートを選べ!~結婚編~
悪役令嬢は婚約者と対峙する①
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大丈夫よ。こういう時は思い切り相手の股間を蹴り上げろって、レオ様に習ったわ。やるわよ。
一歩ずつ私に近づいて来る黒い影。
あなたの股間はどこ? どこなの?
「……コレット、俺だよ」
えっ……? 股間が返事した……わけないでしょ。部屋に入ってきた影は、ディラン様の声ではありませんでした。部屋が暗い上に、酔って目もあまり見えなくて、声の主が誰なのか全く分かりません。
「……あ、逆光で見えないか。アランだよ。アラン=ゴールドウィン」
「アラン……? え? アランがこんなところに? ディラン様は?」
扉の方を見ると、廊下に倒れている誰かの足が見えます。
「もしかして、アランがやっつけてくれたの?」
「ははっ……やっつけたやっつけた! 一発殴っただけで伸びてる。弱すぎ」
少しずつ暗闇に目が慣れてきて、見慣れたアランの表情が目に入ります。その瞬間、体中の力が抜けて、私は床に大の字で寝転びました。
「助かった……」
「相変わらず、ご令嬢らしくない事件に巻き込まれるね。コレットは」
手を貸してくれたアランの力を借りて、何とか立ち上がります。それでも、酔いはピーク。アランに寄りかからないと歩けないほどフラフラです。それにしても、アランの股間に一発くらわす前に気付いて良かったわ。
「ものすごい酔わされているところ申し訳ないけど、今の内に出発した方がいい。メイが馬車を呼びに行ってくれたから、このまま馬車に乗って。コイツは後から何とかしておく」
「え……でも、ウェンディ様は?」
「あの子もエバンス家の親戚だから、念のため置いていこう。大切な未来の王太子妃様とは、一緒の馬車には乗せられないな」
未来の王太子妃、と言ったアランの言葉が胸にチクリと刺さります。違うわアラン。私は悪役令嬢なのよ。王太子妃にはなれない運命だったの。
「後から馬で追うから、先に出発してて。メイ、頼む」
馬車に荷物を急いで詰め込んだメイが戻って来て、私を支えて歩きます。きっと、寝ているところを叩き起こされたのよね。私のせいでごめんなさい。
「アンタ本当にバカね。いや、バカは私だわ。私が買い物行けば良かった。ごめん」
「いいの。全部私がフラフラしているから付け込まれるのね。悪役令嬢としての覚悟が、全然足りなかったわ」
私がレオ様への未練タラタラだから、ディラン様に付け込まれたんだと思います。これからは、何があっても鉄の女になる。私の理想のイメージで言うと、スマートスピーカーとか、コレットbotみたいな感じで行くわ。
悪役令嬢は、感情を見せたらダメなのよ。
メイと共に王都に向けて馬車で出発し、後から馬車に追いついてきたアランと一緒に途中の街で宿を取ります。アランがなぜエアトンにいたのか、直接アランからは聞いていないけれど、多分全てレオ様にバレていたのね。
私がディラン様と毎日編み物をしていたこともお茶会で側妃の噂を聞いたことも、レオ様は全てわかっていたのでしょう。
レオ様から離れて気分転換をしたくてここまで来たのに、結局全てお見通しだったこの現実。
……もう、私は感情を殺します。
「コレット」
「何かご用でしょうか」
「王都に戻ったら、その足で王宮行くから」
「……すみません、よく分かりません」
「ごめん、さすがにもう俺の手には負えないよ。直接喋った方がいいって、レオと」
「……」
お休み、と言ってパタンとアランの部屋の扉が閉まります。メイに促されて私もベッドに入ります。夜中……と言っても、もう既に明け方近くかしら。ということは、今日レオ様と会うことになるのね。実に五カ月ぶりに。
てっきり誕生日パーティーの場で婚約破棄される時に久しぶりの再会だと思っていたから、心の準備ができていないけれど、一体何を話せばいいの?
……いいえ、私はコレットbot。聞かれたことにしか答えないスマートスピーカー。
余計な感情は排除して、レオ様が気持ちよく私を断罪できるよう、美しい悪役令嬢を演じてみせます。
一歩ずつ私に近づいて来る黒い影。
あなたの股間はどこ? どこなの?
「……コレット、俺だよ」
えっ……? 股間が返事した……わけないでしょ。部屋に入ってきた影は、ディラン様の声ではありませんでした。部屋が暗い上に、酔って目もあまり見えなくて、声の主が誰なのか全く分かりません。
「……あ、逆光で見えないか。アランだよ。アラン=ゴールドウィン」
「アラン……? え? アランがこんなところに? ディラン様は?」
扉の方を見ると、廊下に倒れている誰かの足が見えます。
「もしかして、アランがやっつけてくれたの?」
「ははっ……やっつけたやっつけた! 一発殴っただけで伸びてる。弱すぎ」
少しずつ暗闇に目が慣れてきて、見慣れたアランの表情が目に入ります。その瞬間、体中の力が抜けて、私は床に大の字で寝転びました。
「助かった……」
「相変わらず、ご令嬢らしくない事件に巻き込まれるね。コレットは」
手を貸してくれたアランの力を借りて、何とか立ち上がります。それでも、酔いはピーク。アランに寄りかからないと歩けないほどフラフラです。それにしても、アランの股間に一発くらわす前に気付いて良かったわ。
「ものすごい酔わされているところ申し訳ないけど、今の内に出発した方がいい。メイが馬車を呼びに行ってくれたから、このまま馬車に乗って。コイツは後から何とかしておく」
「え……でも、ウェンディ様は?」
「あの子もエバンス家の親戚だから、念のため置いていこう。大切な未来の王太子妃様とは、一緒の馬車には乗せられないな」
未来の王太子妃、と言ったアランの言葉が胸にチクリと刺さります。違うわアラン。私は悪役令嬢なのよ。王太子妃にはなれない運命だったの。
「後から馬で追うから、先に出発してて。メイ、頼む」
馬車に荷物を急いで詰め込んだメイが戻って来て、私を支えて歩きます。きっと、寝ているところを叩き起こされたのよね。私のせいでごめんなさい。
「アンタ本当にバカね。いや、バカは私だわ。私が買い物行けば良かった。ごめん」
「いいの。全部私がフラフラしているから付け込まれるのね。悪役令嬢としての覚悟が、全然足りなかったわ」
私がレオ様への未練タラタラだから、ディラン様に付け込まれたんだと思います。これからは、何があっても鉄の女になる。私の理想のイメージで言うと、スマートスピーカーとか、コレットbotみたいな感じで行くわ。
悪役令嬢は、感情を見せたらダメなのよ。
メイと共に王都に向けて馬車で出発し、後から馬車に追いついてきたアランと一緒に途中の街で宿を取ります。アランがなぜエアトンにいたのか、直接アランからは聞いていないけれど、多分全てレオ様にバレていたのね。
私がディラン様と毎日編み物をしていたこともお茶会で側妃の噂を聞いたことも、レオ様は全てわかっていたのでしょう。
レオ様から離れて気分転換をしたくてここまで来たのに、結局全てお見通しだったこの現実。
……もう、私は感情を殺します。
「コレット」
「何かご用でしょうか」
「王都に戻ったら、その足で王宮行くから」
「……すみません、よく分かりません」
「ごめん、さすがにもう俺の手には負えないよ。直接喋った方がいいって、レオと」
「……」
お休み、と言ってパタンとアランの部屋の扉が閉まります。メイに促されて私もベッドに入ります。夜中……と言っても、もう既に明け方近くかしら。ということは、今日レオ様と会うことになるのね。実に五カ月ぶりに。
てっきり誕生日パーティーの場で婚約破棄される時に久しぶりの再会だと思っていたから、心の準備ができていないけれど、一体何を話せばいいの?
……いいえ、私はコレットbot。聞かれたことにしか答えないスマートスピーカー。
余計な感情は排除して、レオ様が気持ちよく私を断罪できるよう、美しい悪役令嬢を演じてみせます。
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