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番外編
81 ドゥノーの優しい風②
しおりを挟むルキルエル王太子殿下の計らいで王都の貴族学院に入学することが出来た。入学時に特別に編入試験を受けさせて貰い、学力に合わせて学年を決めると言われていた。
貴族学院は三年生まで。僕は三年生だけ受けたらいいと言われた。
春になり入学式に出ると、何でか鳴物入りで編入して来た転校生扱いを受けた。目立ちたくなかったのに何で!?
理由は直ぐに分かった。
殿下が特別に目を掛けている人材だということだった。
あーーー、黙っててって言っとけばよかった!失敗したなぁと思った。
入学早々僕は一人になってしまった。
ここでも友達出来ないのかとちょっとガッカリしたけど、ここには大きな図書館があった。その冊数の多さに一気にテンションが上がった。
もう直ぐしたらユンネの結婚式がある。
僕はお祝いにスキル封じの石を贈ることにした。スキル封じの石とは、名前の通りスキルを閉じ込めれる石だ。この中に自分の『風の便り』を封じることが出来る。流石に高い石なので三つしか買えなかったけど、これでもし懐妊とか出産とか直ぐに知らせて欲しいお知らせの時は送ってもらうつもりだ。
ほぼ自分に都合のいい内容だけど、ユンネはこういう変わった贈り物の方が喜んだりする。
「後一個くらいは買えないかなぁ。」
校庭のベンチでパンを食べながら呟く。学生の間掛かる費用は全てルキルエル王太子殿下が出してくれているので、自分のお金で石を買った。後少し何かバイトでもして……、でもこの学校意外と忙しい。レポート提出が多いし、予習復習もやっておかないと。
「何を買うんだ?」
「どぉわっ!!」
ビックリしてパンを落としてしまった。
「ああーーー!パンーーーー!!」
僕のお昼ご飯!
「何でパンだけ食べている?ここには学食があるだろう?」
ドゥノーだって学食であったかいご飯が食べたかった!でも、行ったらちょっと……。
後ろから突然話しかけてきた人物を見上げた。
ルビーのように赤くキラキラと光る瞳が見下ろしている。長い銀髪は無造作に一つに結び、どうやら今日は休日のようだ。
ドゥノーははぁと溜息を吐いた。
「人の顔見て溜息付くとは失礼だとは思わないのか?」
皮肉な笑顔のルキルエル王太子殿下が、揶揄い混じりで見下ろしている。人の苦労も知らないで!
「行ったらまともに食べれなかったから購買パンにしましたけどー?」
相手は王太子だけどドゥノーにとってはあまり関係ない。いずれ上司になる人。対応は上司になったら考えよう。
「…………何かあったのか?」
あったも何も。初日に喜んで行ったら目の前の王太子に好意を持っているのか知らないけど、目の敵にされたのだ。
行くたびにお盆ごとひっくり返されたり、まだ手をつける前にゴミやら虫やら入れられては食べられない。食べれたことが一度もない!
「殿下は婚約者作らないんですか?」
「お前まで言うか。」
「他にも言われてるんですか?」
「まあな。」
ドゥノーはまた溜息を吐いた。さっさと作ってくれれば自分が婚約者になれるかもー?と期待する人間が減るのだ。少なくとも王太子妃狙いの人間はいなくなる。側妃でもいいからって人はいるかもだけど。
ここの生徒でも王太子の目に止まり、婚約者になりたいと夢見る人間は一定数いるということだ。
ここでいい成績取って王宮勤めになって、王太子にお目通り願いたいという人間はいる。同じ学年に有力候補がいて、ドゥノーはそのシンパに目をつけられてしまった。王太子のお墨付き。いずれ王宮に上がり王太子の兄である宰相閣下の補佐官になる人物。それがドゥノーのこの学園での評価だった。
「うーん、僕の学年にスキル持ちの婚約者無しがいるんですよね。」
「ああ、レナーシュミ・アシュテか?」
やっぱり知ってたか。レナーシュミは青い髪と瞳の美人だ。平民生まれのスキル持ち。アシュテ伯爵家に引き取られた女性だ。詳しいところは明かされてないけど、水を操るスキルを持っているので、『絶海』持ちの王太子殿下と相性がいいとか言われている。
レナーシュミは閉鎖的な村で隠されていた。小さな村では水の確保は生死に関わる。だから村人は自分達の為に彼女を隠したのだ。
村では大切に育てられていたらしいけど、レナーシュミの存在は明らかとなり、村人達は処罰を受けた。この国はスキルを持つ子供が生まれると必ず国に報告義務があるので、それに違反すれば罪になる。
この貴族学校でレナーシュミは大人達の都合で秘匿された可哀想なレナーシュミと言われている。
実際レナーシュミは見た目も愛らしく可憐だ。
性格はよく分からない。いつも微笑んで黙っているから何を考えているのか分からない人だ。
問題はレナーシュミの周りの奴等になる。兎に角レナーシュミは王太子殿下の婚約者に相応しいと騒ぐのだ。
そんなこと僕に言われても困るんですけど!?
「どう?レナーシュミ。」
「興味ないな。」
バッサリと切られた。本人聞いたら泣くかもだよ?
「何で婚約者つくんないの?過去の婚約者達の事で何かあるの?」
「いや、ないな。あいつらは親が潰し合いして共倒れしていっただけだ。当時はまだ生きていた兄上達と共謀したりして、毒殺やら事故死やら滅茶苦茶だったな。」
ニヤっと笑って言わないでよ。
「え?それまさか殿下が裏で糸引いてないよね?」
「そんなわけあるか。最後の元婚約者が死んだ時、俺はまだ十歳だった。」
怪しい~~~~。だいたいその最後の元婚約者の家が没落した時点で、ルキルエル王太子殿下の兄と政敵が一掃されている。残ったのは今宰相をしているニジファレル様だけだ。この前話の種にニジファレル様から聞いたもんね。
「それより手に持っているのは何だ?」
「ん?ああ、これ?今度結婚のお祝いにスキル封じの石をあげようかなと思って。でも石のままじゃ不恰好かな?」
手に持ったままだった。パンは落としたけど石は落とさなくてよかった!小さいから失くしたら泣いちゃうかもしれない。
「磨いて装飾品にするのが一番だな。」
「えっ!そんなお金ない。」
「生活費は渡してるだろう?」
人から貰ったお金で贈り物をするのは僕の主義に反する!
「ちゃんと自分で稼いだお金であげたいの!」
「好きに使っていいと言ってるのに頑固だな。じゃあ貸しでブレスレットを作ってやろう。」
スキル封じの石三個を殿下に取られてしまった。
「あっ!」
「今度頼み事をする。」
頼み事かぁ~。仕方ない。お金も足らないし労働力でカバーするしかない。
「うう~、分かった。」
「ほら、俺の昼飯だが食べておけ。」
ポンと串に刺さった肉が渡される。何故王太子が串焼きを?
早く食べろと言われて慌てて食べて串を返した。
「平気で俺に食べカスを返すのはお前くらいだな。」
「だって串焼きの串なんて学園にあるはずないのにどこに捨てるのさ!?」
そもそも何でここで串焼きを渡すのか理解できない!
殿下は笑いながら『絶海』の中に消えていった。ちゃんと僕が渡した串も持っていった。
たまにああやって突然来るけど何なんだろう。
でもまぁ串焼きは美味しかった。
そして殿下の頼み事が何なのか分かった。
「知ってたら頼まなかったのに!」
「文句を言っても遅い。」
ここはファバーリア侯爵領の本邸で行われる侯爵夫妻の結婚式。
花が降り注ぐ中、僕達は隣り合って座っていた。
『絶海』で一緒に行くぞと言われたので、何も考えずに了承した。一緒に行こうと言われたから、友達のノリでいいよーと言ってしまっただけなのに!
だって友達欲しいし!学園では未だにボッチだし!例えその元凶であっても、一人よりはいいと思い快諾してしまった。
王太子殿下のパートナーとは思わないじゃないか!貴族の視線が痛い。
ファバーリア侯爵の結婚式なので、招待客も大勢いる。学園の生徒もチラホラ見える。何ならレナーシュミ・アシュテ伯爵令嬢もいる。
でも僕の隣はルキルエル王太子殿下がいる。
この位置ってヤバくないかなぁ~。また週明けの学園でいちゃもん付けられそう。
「いつの間にか仲良くなったんだね。」
「ミゼ、応援するね!」
同じテーブルにはアジュソー団長と婚約者のミゼミが座っていた。会場には丸テーブルが大量に並んでいるが、特に指定はない。好きなところに座ってもいいし、立ってお喋りをしている人もいる。
流石に王族であるルキルエル王太子殿下には特別席が設けられ、そこに僕達は座っていた。
ユンネが始まる前に挨拶に来て案内してくれたんだけど、殿下の隣に平常運転で僕を座らせた。
殿下が作ってくれたスキル封じの石をはめたブレスレットを贈ると、すごく喜んでくれた。僕の『風の便り』を入れ込んだので、何かあったらすぐに送ってねと言ってある。ユンネは「勿論!」とほにゃっとした笑顔で喜んでくれた。
「いずれ王宮に来てもらう予定だ。」
「わぁ~~~、ドゥノー君すごいですね!」
よく分からないけど、同じ席に座っているラビノアから喜ばれてしまった。
今日はノルゼの子守りから解放されたサノビィスも一緒にいる。
ファバーリア侯爵に抱っこされたノルゼが出した小花と、ユンネが『複製』で出した花がヒラヒラと舞って、こんな結婚式があるんだなぁと楽しかった。
身近な人間だけ王都に送ってやると言ってルキルエル王太子殿下の『絶海』でゾロゾロと皆んなで帰ることになり、僕も学院があるので帰ることにした。
アジュソー団長や婚約者のミゼミ、他は仕事関係の人達ばかりなのに、僕も何故か混ざっている。
去り際にレナーシュミ・アシュテ伯爵令嬢がやってきて、自分も明日学院に行きたいので一緒に送ってほしいと殿下に声を掛けていたけど、殿下はすげなく断っていた。
「僕も馬車帰宅がよかったんじゃないの?」
去り際のレナーシュミ嬢に睨みつけられて気不味い。
「なんでだ?」
「だって……、学生で殿下の『絶海』で行き来してるの僕だけだし。」
「ドゥノーは俺が支援している学生だ。あの令嬢はまったくの無関係だ。」
色々言う前に答えを返された気分だ。レナーシュミ令嬢のことを気にしているのだと気付いたようだ。
「殿下って質問の前に答え返すのよくないと思うね!」
「それで会話が成り立ってれば問題ない。」
「いつか答えれない問題出してギャフンと言わせてやる!」
「いいな。待ってるぞ。」
なんか軽くあしらわれてムカつくなぁっ!
ブツブツ言いながら歩いていると、目の前にキラキラと輝く物がぶら下げられた。
「何これ。」
「首輪。」
えぇ……?胡乱な顔でルキルエル王太子殿下を見上げる。人の顔の前に何故首輪をぶら下げる?
あ、でもこれ真ん中に大きなスキル封じの石がはめ込んである。ユンネにあげた石より大きくて質が良さそうなのがまた癪に触る。
マジマジと眺めていると、パチンと首にはめられてしまった。
「え!?」
外そうとしても外れない。いや、パチンって音がしたから留め具があるはずなのに、どこにも見当たらない!?
「外すなよ?その中央の石に俺の『絶海』を入れてある。その周りの小さい粒はこの前お前から頼まれたヤツの残りだ。」
首にはめられてしまった為見えないけど、手で触ると表面に粒が付いている。
「それで何で僕の首にコレつけたの?」
首にピッタリだ!
「一応お前には影をつけているが、万が一ということがある。何かあったらスキル封じの石を使って『絶海』の中に逃げるんだ。いいな?」
「ええ~~~~。」
「学院の中も必ず安全とは言えない。」
「僕は単なる田舎貴族の子供だよ?」
「それでもスキルを持った貴族だ。しかも俺の後ろ盾がある。攫われたくなければ言う通りにしろ。」
「分かったよ。でも何で首輪……。」
ぶーぶーと文句言いつつ首輪をつける羽目になった。
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