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「シェドのスコールを舐めていたかもしれませんね」
昼間だというのに空は薄暗く、雨は一向に止む気配がない。雨は嫌いではないが、ここまでの土砂降りだと馬が足を取られ歩みが遅くなる。キースは苛立つ気持ちを抑えながら、リリアンの屋敷に向かっていた。
10日前王宮に努める母親から、ミリュー王族の使者としてシェドに向かうとキースは聞かされた。
「母上が部下を連れて行けばいいことでしょう。どうして私も行かないといけないのです」
「実はお前に黙っていたけど、報告によるとリリアンが数日前から臥せているのよ。ウエンがリリアンの屋敷に王宮医師を向かわせたけど、医者もお手上げだそうよ。薬も効かないらしいわ」
「・・・リリアンが。それで私にどうしろと」
「キースはこのままでいいの?」
「リリアンは結婚して幸せに暮らしているはずだ。私が行ったところで迷惑なだけです」
「キース、貴方報告を聞いていないのね。リリアンは結婚していないわよ」
キースは部下にリリアンの情報は知らせなくていいと指示をしていた。リリアンはいずれ自分以外の男と結婚し、子供が産まれるだろう。そんな報告を聞きたくなかったのだ。
「そんな馬鹿な・・・。リリアンは公爵令嬢になった。だから一生独身では許されない。早々に誰かと結婚させられるだろうと言っていたはずだ」
「はあ、貴族社会の常識にどっぷりはまっているわね。それは、他国の常識でしょ。シェド王国は次期国王のウエン王子ですら、あの年まで独身を許した国よ。カミュール公爵もリリアンに強制的に結婚を押し付ける人柄ではないでしょう」
「そんな・・・だったら、すぐにシェドに向かいましょう!」
「す、すぐって。シェドは今の時期スコールで土砂降りなのよ。雨が止むまで待ってから」
「何を言っているのです。不治の病でリリアンが苦しんでいる。母上が言い出したのだ。すぐにシェドに向かいましょう」
「言うタイミングを間違ったかもしれないわ・・・」
「何をぶつぶつ言っているのです。馬を用意しろ!」
「え?せめて馬車で・・・」
「土砂降りだと馬車は足がとられる。乗馬は得意でしょう。さあ、母上も急いで準備してください。1刻後には出発する」
アミスティがその様子を静かに見守っていた。キースが準備のため部屋を出ると、うなだれるアンヌに『気の毒様』と薬を手渡した。その薬は一時的に意識を残したままに身体が動かせなくなる薬だ。どこでどう使うかは知らないが、母のことだ計画がすでにあるのだろう。
「貴方も一緒に行く?」
「嫌よ。雨は嫌いですもの」
「そうよね・・・。自分から言い出したことだし、しょうがないわね。ところでキースはいいとして、貴方はあの下僕達をどうする気なの?」
「私は責任を取って、あの4人と結婚するわよ」
アミスティの4人の下僕達は、元々ウェスト王国・エスト王国・ミリュー王国の国で要職についている。スパイにするために、アミスティが蹂躙したのではない。
アミスティがそれぞれの国に出向いたときに、妻と子供を亡くしたスウィートや、自分をかばって部下を亡くしたハニー、結婚詐欺に遭い人間不振になったシュガー、火事で両親を亡くしたドッグを偶然見つけたのだ。
心を読むのが得意なアミスティが、無意識に心に傷を負った彼らを探し出したのかもしれない。
「嬉しいです!私も一生アミスティ様に付いていきます」
今日はシュガーがミリュー王国で借りた屋敷に滞在している。最初は人間不信に陥ったシュガーだったが、今は信じられないぐらいに明るくなった。
「いい子ね。シュガーは。いっぱい子供を作りましょうね」
「は、はい。頑張ります!」
彼らは有益な情報をもたらしてくれるが、それぞれの立場もある。アミスティは話したくなければそれでもいいと言っているようだ。そんな寛大なところも彼らとの関係が上手く行っている理由だろう。
「お母様とキースが出かけたら、当分ふたりだけになるわね」
「/////////」
アミスティが色っぽくシュガーの頬を指でなぞると、首まで真っ赤にしているシュガーがいた。
「まだ結婚式も上げていないのよ。ほどほどにしなさいよ」
詳細を知らないドルトムント一族の男共は、アミスティの性技に興味がありつつも一度味わうと下僕になると恐れている。
「こっちは逆ハーレムね。レスティは男勝りで誰とも付き合う様子もないし」
「次期当主として沢山子供を産むわ。優秀な子供を次の頭首にすればドルトムント一族も安泰よ」
「まあ、そういうことになるわね。後のことはよろしく頼んだわよ」
「ええ、任せておいて」
昼間だというのに空は薄暗く、雨は一向に止む気配がない。雨は嫌いではないが、ここまでの土砂降りだと馬が足を取られ歩みが遅くなる。キースは苛立つ気持ちを抑えながら、リリアンの屋敷に向かっていた。
10日前王宮に努める母親から、ミリュー王族の使者としてシェドに向かうとキースは聞かされた。
「母上が部下を連れて行けばいいことでしょう。どうして私も行かないといけないのです」
「実はお前に黙っていたけど、報告によるとリリアンが数日前から臥せているのよ。ウエンがリリアンの屋敷に王宮医師を向かわせたけど、医者もお手上げだそうよ。薬も効かないらしいわ」
「・・・リリアンが。それで私にどうしろと」
「キースはこのままでいいの?」
「リリアンは結婚して幸せに暮らしているはずだ。私が行ったところで迷惑なだけです」
「キース、貴方報告を聞いていないのね。リリアンは結婚していないわよ」
キースは部下にリリアンの情報は知らせなくていいと指示をしていた。リリアンはいずれ自分以外の男と結婚し、子供が産まれるだろう。そんな報告を聞きたくなかったのだ。
「そんな馬鹿な・・・。リリアンは公爵令嬢になった。だから一生独身では許されない。早々に誰かと結婚させられるだろうと言っていたはずだ」
「はあ、貴族社会の常識にどっぷりはまっているわね。それは、他国の常識でしょ。シェド王国は次期国王のウエン王子ですら、あの年まで独身を許した国よ。カミュール公爵もリリアンに強制的に結婚を押し付ける人柄ではないでしょう」
「そんな・・・だったら、すぐにシェドに向かいましょう!」
「す、すぐって。シェドは今の時期スコールで土砂降りなのよ。雨が止むまで待ってから」
「何を言っているのです。不治の病でリリアンが苦しんでいる。母上が言い出したのだ。すぐにシェドに向かいましょう」
「言うタイミングを間違ったかもしれないわ・・・」
「何をぶつぶつ言っているのです。馬を用意しろ!」
「え?せめて馬車で・・・」
「土砂降りだと馬車は足がとられる。乗馬は得意でしょう。さあ、母上も急いで準備してください。1刻後には出発する」
アミスティがその様子を静かに見守っていた。キースが準備のため部屋を出ると、うなだれるアンヌに『気の毒様』と薬を手渡した。その薬は一時的に意識を残したままに身体が動かせなくなる薬だ。どこでどう使うかは知らないが、母のことだ計画がすでにあるのだろう。
「貴方も一緒に行く?」
「嫌よ。雨は嫌いですもの」
「そうよね・・・。自分から言い出したことだし、しょうがないわね。ところでキースはいいとして、貴方はあの下僕達をどうする気なの?」
「私は責任を取って、あの4人と結婚するわよ」
アミスティの4人の下僕達は、元々ウェスト王国・エスト王国・ミリュー王国の国で要職についている。スパイにするために、アミスティが蹂躙したのではない。
アミスティがそれぞれの国に出向いたときに、妻と子供を亡くしたスウィートや、自分をかばって部下を亡くしたハニー、結婚詐欺に遭い人間不振になったシュガー、火事で両親を亡くしたドッグを偶然見つけたのだ。
心を読むのが得意なアミスティが、無意識に心に傷を負った彼らを探し出したのかもしれない。
「嬉しいです!私も一生アミスティ様に付いていきます」
今日はシュガーがミリュー王国で借りた屋敷に滞在している。最初は人間不信に陥ったシュガーだったが、今は信じられないぐらいに明るくなった。
「いい子ね。シュガーは。いっぱい子供を作りましょうね」
「は、はい。頑張ります!」
彼らは有益な情報をもたらしてくれるが、それぞれの立場もある。アミスティは話したくなければそれでもいいと言っているようだ。そんな寛大なところも彼らとの関係が上手く行っている理由だろう。
「お母様とキースが出かけたら、当分ふたりだけになるわね」
「/////////」
アミスティが色っぽくシュガーの頬を指でなぞると、首まで真っ赤にしているシュガーがいた。
「まだ結婚式も上げていないのよ。ほどほどにしなさいよ」
詳細を知らないドルトムント一族の男共は、アミスティの性技に興味がありつつも一度味わうと下僕になると恐れている。
「こっちは逆ハーレムね。レスティは男勝りで誰とも付き合う様子もないし」
「次期当主として沢山子供を産むわ。優秀な子供を次の頭首にすればドルトムント一族も安泰よ」
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「ええ、任せておいて」
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