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お兄様

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 ずんずん近づいてくる兵士の人から逃げるわけにもいかず、私は直立不動で怒られる覚悟をして待った。

「アリア」
「はいッ」

 見た目通りの低い声が響く。

「こんなところで何をしているんだ?」
「あの、ええと、騎士団の方が訓練していらっしゃるので、ちょっと見学をと思いまして」

 なんとなく違和感を感じながら質問に答える。男性の眉間に皺が寄った。怖い。と思っていたら、男性の眉がさらに吊り上がった。

「駄目だ。すぐに立ち去れ。お前がここにいては皆に迷惑がかかる。今までだってそうだっただろう」
「へ?」

 この言い方、もしかしてこの方は私の身内か誰かなの……? というか、私が存在するだけで迷惑とはあんまりでは。

「兄がいつも見張っていられるわけではないのだから」

 お兄様だった──!!!

 ラケウス家の食卓ではいつも一席空いていたから誰だろうと思っていたら、お兄ちゃんがいたのね。それで、王宮騎士団に所属しているから、お屋敷で顔を合わせることはなかったと。なるほど理解。

 というか、あれかな。ぶっきらぼうだけど、つまるところ周りの目が心配だからあまりふらふらしないようにってことかな。ツンデレ属性か?

「お兄様、余計な心配をさせてしまってごめんなさい。お兄様の勇姿を拝見したかったのです。もう行きますね」

 もっともらしい言い訳をしてさっさと立ち去ろうとしたら、お兄ちゃんが右手で口元を押さえて悶え始めてしまった。

「お兄様、どこかお加減が」
「悪くない。とにかく、ここにいるな」
「承知しました」

 多分、妹のことは嫌いではないはず。それならきっと話しかけない。私は言う通り兄に会釈だけして立ち去った。

 本当は騎士団の人たちに挨拶したかったけど、お兄ちゃんが発狂してしまいそうだったので我慢した。よく分かんないけど美少女って大変だな。

 あとはどこを散歩しようかと思って持たされている懐中時計を見たらあと二十分しかなかった。今日のところは図書館へ行っておしまいにしよう。

 昨日借りた本はセリさんが返却してくれているので、私は新しい本を求めて図書館に向かった。
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