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幕間 閉じられた瞳
閉じられたエメラルドの瞳が、二度と自分を見返さない。
彼女の名を何度読んでも、声は返ってこない。
貴女を守ると、何度も誓った。貴女を守れなかったと、何度も懺悔した。
もう二度と、貴女を失いたくない。
「——ド、ルーンオード。起きているか?」
名を呼ばれ、彼はゆっくりと目を開ける。頭がはっきりとせず、彼は揺れる頭を片手で押さえた。
「……起きています、ヴィセリオ殿」
「珍しいな、君が人前で眠るなんて。疲れているのではないかい?」
「……疲れているのは事実です」
ルーンオードは立ち上がって、自分より少し高い位置にある空色の瞳を見た。ヴィセリオは妹と同じ色の髪をかき上げ、窓の外に目を向ける。
「疲れているのなら、今日の練習は休んだらどうだい? 休むことも強くなるためには必要だよ」
ヴィセリオがルーンオードを案ずることは珍しく、彼は深い蒼い瞳を瞬かせた。そんな彼の反応を見て、ヴィセリオは苦笑いする。
「君が倒れてしまうと、色々支障が出るからね」
「……そうですね。レティシア様のクラブ活動が終わり次第、帰ることにします」
ルーンオードの言葉に、ヴィセリオは満足そうに微笑んだ。
「私も今日は早く引き上げるよ。フィアを待たせたくない」
フィアという言葉に過剰に反応して目を鋭くさせたルーンオードは、体から力が漏れかけていることに気が付いて大きく息を吐いた。ヴィセリオは首を傾げ、ルーンオードの顔を覗き込む。
「いつもより力の制御が甘いな。嫌な夢でも見た?」
「……ええ、まあ」
曖昧に返事をして、ルーンオードは空色の瞳から目を逸らした。そして、彼は近くの机に置いてあった水を一気に仰ぎ飲んだ。夢の内容はほとんど覚えていないが、落ち着かない気分になっていることから、気分の良い夢ではなかったことは確かだろう。
いつにも増して眼光が鋭いルーンオードを見て、ヴィセリオは強い力で彼の肩を叩いた。ルーンオードは嫌そうな顔を浮かべ、ヴィセリオの手を払う。
「そんなに怖い顔していたら、フィアに怖がられるよ」
「余計なお世話です」
そう言いながらも、レティシアから何度も顔が怖いと言われていたことを思い出し、ルーンオードは目元に手を当てた。それほど自分は怖い顔をしてるのだろうか。ヴィセリオのように、人の警戒心を解くような笑みを浮かべることを意識しているのに、何故か上手くいかない。
しかし、そんなことをヴィセリオに言ったら彼が調子に乗ることが目に見えているので、口には出さない。
「そういえば、歓迎パーティーが近づいていますね」
「ああ、そうだね。いつもは面倒だから嫌だけど、今年はフィアがいるから楽しみだよ。フィアとダンスができるからね」
「秋のパーティーでは、抜け出した貴方を見つけ出すのが大変でしたよ。その心配がないことはありがたいことです」
ヴィセリオは軽く笑って、再びルーンオードの肩を叩く。今度は手を振り払うことはせず、彼は何やら考え込んで、ヴィセリオの空色の瞳を見た。
「……ヴィセリオ殿にお願いがあります」
「何だい?」
ヴィセリオは端麗な微笑みを浮かべ、ルーンオードを見た。彼は逡巡するように目をさ迷わせたが、最後はまっすぐとヴィセリオの空色の瞳を見返した。
「フィーリア嬢に、お贈りしたいものがあります」
彼女の名を何度読んでも、声は返ってこない。
貴女を守ると、何度も誓った。貴女を守れなかったと、何度も懺悔した。
もう二度と、貴女を失いたくない。
「——ド、ルーンオード。起きているか?」
名を呼ばれ、彼はゆっくりと目を開ける。頭がはっきりとせず、彼は揺れる頭を片手で押さえた。
「……起きています、ヴィセリオ殿」
「珍しいな、君が人前で眠るなんて。疲れているのではないかい?」
「……疲れているのは事実です」
ルーンオードは立ち上がって、自分より少し高い位置にある空色の瞳を見た。ヴィセリオは妹と同じ色の髪をかき上げ、窓の外に目を向ける。
「疲れているのなら、今日の練習は休んだらどうだい? 休むことも強くなるためには必要だよ」
ヴィセリオがルーンオードを案ずることは珍しく、彼は深い蒼い瞳を瞬かせた。そんな彼の反応を見て、ヴィセリオは苦笑いする。
「君が倒れてしまうと、色々支障が出るからね」
「……そうですね。レティシア様のクラブ活動が終わり次第、帰ることにします」
ルーンオードの言葉に、ヴィセリオは満足そうに微笑んだ。
「私も今日は早く引き上げるよ。フィアを待たせたくない」
フィアという言葉に過剰に反応して目を鋭くさせたルーンオードは、体から力が漏れかけていることに気が付いて大きく息を吐いた。ヴィセリオは首を傾げ、ルーンオードの顔を覗き込む。
「いつもより力の制御が甘いな。嫌な夢でも見た?」
「……ええ、まあ」
曖昧に返事をして、ルーンオードは空色の瞳から目を逸らした。そして、彼は近くの机に置いてあった水を一気に仰ぎ飲んだ。夢の内容はほとんど覚えていないが、落ち着かない気分になっていることから、気分の良い夢ではなかったことは確かだろう。
いつにも増して眼光が鋭いルーンオードを見て、ヴィセリオは強い力で彼の肩を叩いた。ルーンオードは嫌そうな顔を浮かべ、ヴィセリオの手を払う。
「そんなに怖い顔していたら、フィアに怖がられるよ」
「余計なお世話です」
そう言いながらも、レティシアから何度も顔が怖いと言われていたことを思い出し、ルーンオードは目元に手を当てた。それほど自分は怖い顔をしてるのだろうか。ヴィセリオのように、人の警戒心を解くような笑みを浮かべることを意識しているのに、何故か上手くいかない。
しかし、そんなことをヴィセリオに言ったら彼が調子に乗ることが目に見えているので、口には出さない。
「そういえば、歓迎パーティーが近づいていますね」
「ああ、そうだね。いつもは面倒だから嫌だけど、今年はフィアがいるから楽しみだよ。フィアとダンスができるからね」
「秋のパーティーでは、抜け出した貴方を見つけ出すのが大変でしたよ。その心配がないことはありがたいことです」
ヴィセリオは軽く笑って、再びルーンオードの肩を叩く。今度は手を振り払うことはせず、彼は何やら考え込んで、ヴィセリオの空色の瞳を見た。
「……ヴィセリオ殿にお願いがあります」
「何だい?」
ヴィセリオは端麗な微笑みを浮かべ、ルーンオードを見た。彼は逡巡するように目をさ迷わせたが、最後はまっすぐとヴィセリオの空色の瞳を見返した。
「フィーリア嬢に、お贈りしたいものがあります」
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