お人好しアンデッドと フローラの旅は道連れ世は情け。 骨まで愛してる。

あべ鈴峰

文字の大きさ
3 / 39

赤い痣はキスマーク?

しおりを挟む
親父のところから娘を連れたそうとすると 呼び止められる。
「 嘘をつけ! だったらその娘が胸にある痣は何だ?」
「えっ?」
 その言葉にジャックの頸椎が  固まる。
「 これですか?」
 娘がドレスの縁にある赤い痣を指差す。

 その場所を見てドキリとする。 気の迷いの証拠。全身の力が抜けて 骨がバラバラになりそうだ。

 長い人生真面目に生きてきた。
 魔が差したな一回だけなのに・・。
 でも、どうして俺がつけたと思うんだ? あの場所には俺たち2人きりだった。 他の人の気配は無かった。
だから、知りようも無い。
 きっと、親父が カマをかけているに違いない。ここは知らぬ存ぜずで押し通す。

「痣? 虫にでも刺されたんだろう」
「 見た事があるからだよ」
( なっ、何だって!)
 ジャックは、親父の告白に 側頭骨を殴られたショックを受ける。
 まさか、親父に人間の恋人がいたのか? 初耳だ。 
でも、お袋が死んで随分経つ。 あっても、おかしくない。

 すると、違うと親父が  第七頸椎の隆椎と頭蓋骨を左右に  大きく動かす。
「 ジェームズの奥さんに同じ物があった。 聞いたら、腕に指骨が刺さった跡らしい。 だから、その痣は お前がその娘の胸に指骨を刺した証だ」
 親父に観念しろと言うように 俺を指差す。
 しかし、自分のしたことをどうしても、知られたくない。
 調べたら俺の信用はガタ落ちだ。

「 だっ、だからって俺がつけたとは限らないだろう」
「 昨日までは、ありませんでした」
( そこは認めないで!)
娘の 告白2 親父が俺に 胡乱な目を向ける。
「 やっぱり・・」
「 違う。違う。断じて、違う」
 ちょっとした悪戯心が人生最大のピンチ。
 ここで認めたら俺は自分のことを 最低な男だと認めたことになる。

「 往生際の悪い。 そもそも、どうして人間が 訪ねてきたのに驚かない?それは知り合いだからだ」
「そっ、 それは・・」
そう言われたら 弁明の余地は無い。 口が重くなる。
 親父が娘が来ている 外套を顎でしゃくる。
「それに、どうしてお前の 外套を その娘は着ている?」
「 これは、私が寒くないように 掛けてくれたようです」
 そんな善意でした事では無い。
 ただ単に、 取り返すには起こさないと イケなかったからだ。

「 寒くないようにって・・ 一夜を共にしたのか?」
叔父が困惑したように言う。
 その言い方は語弊がある。 朝、気づいてたら 隣に寝てたんだ。 いわば、俺が夜這いされたようなものだ。 
しかし、 叔父の言葉にジャックの頭の中は 大混乱を引き起こす。
「ちっ、ちっ、ちっ」
 このままでは俺が 娘を手篭めにした事になる。否・・恋人が出来たことになるのか?
 (ああ、どうにかしないと)
落ち着け俺。 冷静になれば 良い考えが思いつく。

 娘とは知り合いでは無い。 
なぜ、驚かない? 着ている外套は ?

娘とは知り合いだ。 
では、胸の痣は誰がつけた ?一夜を共にしたのか?

 娘とは知り合いで無いし、 一夜を共にしていない。 
なぜ、驚かない? 着ている外套は? 胸の痣は誰がつけた?

 娘とは知り合いだが、 一夜を共にしていない 。外套は、いつ渡した? 胸の痣は誰がつけた?

 ダメだ。 いくら考えても 逃げ場がない。
どうしたら良いんだ!
隣で 話を聞いていた娘が ポンと手を打つ。
「ああ! 後から私が寝たから 気づかなかったんですね」
( 止めて! これ以上 口を開かないで)
 ジャックは 指骨で娘の口を塞ぐ。
娘が何か言うたび 追い詰められる。
「 じゃあ、その痣をつけたのはジャックだ」
「 素直に付き合ってると認めれば良いのに。 私は反対しないぞ 」

ああ、もう。逃げられないなら、最小限の被害に食い止める。
「もし・・もし、その・・ 俺だとしても。 それは、たまたま刺さっただけだ」
「 胸にか? そんな偶然があるか! 手を出したことを認めて、おとなしく責任を取れ」
「 手を出すって、オーバーな。しかも、 それだけで結婚なんて」
 時代錯誤だと  頸椎を 横に動かす。
 この世界にアンデットと結婚したがる人間が 何処にいる。

 ジェームスの奥さんだって 元を正せば売り物だ。
「 たとえそうでも責任はある。 お前は、その娘を傷物にしたんだから」
「傷って・・」
 責任、責任と親父がしつこく言ってくる。 娘を手篭めにしたような事を言うけれど、手は出していない、 出したのは指一本だけだ。
それなのにまるで 、人のことを放蕩息子のように言わなくても。
頭ごなしに決め付けられて 気分が悪い。上顎骨と下顎骨を擦り合わせる。

「 偶然です。 だから、ジャックのせいじゃありません」
「 偶然 ?」
娘が俺の指骨を掴んで口から外すと庇う。
その姿に罪悪感が増す。 一緒に罵ってくれた方がましだ 。
「はい。隣同士で寝たので 、何かの拍子に出来たんだと思います」
 事態は収拾したかに見えたが、さらに疑惑が。 叔父が横を向くとポツリと呟く。
「 どんな拍子だか・・」

「 もう、いい加減にしてくれ! これは俺と彼女の問題だ。 親父たちは口を挟むな」
 叔父の言葉にカチンときたジャックは 吐き捨てるように言う。 年中、女の尻を追いかけ回している叔父にだけは 言われたくない。
「 そうは、いかないから言ってるんだろう。 ぐずぐずと男のくせに。 この期に及んで言い訳など 今すぐ切り捨ててやる」

 痺れを切らした親父が 飾ってある剣に手を伸ばすと 娘が俺を庇うように前に出て 親父に向かって命乞いする。
 思わぬ行動に唖然とする。
「待ってください。 私が悪いんです。 でさから、彼の命を奪わないでください」
我々アンデッドは、すでに死んでいる。
必死な姿に その場にいた全員が沈黙する。
「「「・・・」」」

 このやり取りもお約束。
 その中で彼女達が真剣な顔で 親父を見つめる。
 皆の気が逸れてしまった。 

 たった一夜・・ いや、ほとんど初対面と言っていいのに 何故そこまでする?
そこまで考えてハッとする そうか俺のことを 人間と同じように考えているんだ。 だから、守ろうとしているんだ。
改めて自分のした事への次の人には今まで 罪の意識に苛まれる。
 こんなに優しい子なのに・・ 俺は・・。

 黙って娘を見ていた親父だったが 席に戻ると俺達に向かって手で追い払う。
「 分かったから、気が変わらないうちに 娘はさっさと連れて行って」
 ジャックは、一応の解放に娘を立たせる。

***

 フローラは手を引かれて歩きながら 繋いでいるジャックの手を見る。 骨の手なのに掴まれている感覚がある。 痛いのかと思ったが、そうではない。
 不思議な感じ。

 しかし、陽を浴びて光っているジャックの後頭部を見ると 改めて美しいと思う。
自分の物に ならなかったことが 残念で他ならない。 
(こら!何を考えている)
見惚れていたフローラは 自分を叱りつける。
 私を他のアンデットから守ろうとしてくれた 優しい人なんだ。
 それなのに私は・・。

 昨夜の夜 実行していたら私は人殺しになるところだった。
 フローラの己の欲のために 切断しようとした自分を恥じる。本当にやらなくて正解だ。 思いとどまったのは神のご加護なろう。
 せめてこの輝きだけでも 目に焼き付けておこう。 

 そんなことを思いながらも 協力して欲しいと、どう切り出そうかと 考える。
 会ったばかりのジャックに助けを求めようとしているなんて 虫が良いと思う。 でも、たった一人姉を救うためなら 何でもする。

***

 外に出て改めてジャックは娘に向き合う。
 娘が、ほっとしたように息を吐くと 俺に笑顔を向ける。
「 一時は、どうなるかと思いましたけど 許してもらって良かったですね」
「うん。まぁ・・ところで・・なんで追いかけてきたんだ?」
「 もちろんこれです」
 娘が巾着を大事そうに 両手で差し出す。
 ジャックはポリポリと側頭骨をかく。
 人間と違って金をほとんど使わない。 いらぬ、お節介だが・・。

「 そんなのよかったのに」
「そうは、いきません 」
わざわざ届けるなど 根は善良な人間なんだろう。
 だが、そのせいで 親父達の誤解を招いた。  
しかし、今更本当のことは言えない。 流れに身を任せるしかない。

だから、といって 娘の話を頭から信じるほど、 世間知らずでは無い。
 アンデッドの村の中に入ってまで 返しに来たんだから 何か理由があるんだろう。 
 どんな理由か知らないが 俺にできることなら何でも 協力しよう。
 それが、せめてもの罪滅ぼしだ。

「殺そうとした事は
                                         知られては ならない !」」
「不埒な真似をした事は

じろじろと無遠慮な村人の視線に、ジャックは娘の手を取ると 一直線に自分の家に向かう。
「 話は後だ」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

処理中です...