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【完結】物実の鏡【冒険の書続編/甘め】
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しおりを挟む今日は外が騒がしかった。
朝食の後、抱き潰されるまでのほんの少しの隙間時間。
「何かあるのか?」
ベッドサイドで本を読む魔王に問いかけると、魔王は「あぁ」と声を出して俺の居る窓際まで来た。窓の外、庭に集まった魔族たちの様子を見下ろして言う。
「子が産まれる」
今まさに問題になっている出来事に身体が強ばった。
「私たちの子はいつだろうな」
悪戯っぽい笑みを向けられて、柔らかく腰を抱かれる。じっとりと睨みつけるとクスクスと笑われた。
「見に行くか?」
意外な申し出に息を呑んだ。
今まで1歩も部屋から出さなかったのに、どういう風の吹き回しだ。絶対に裏がある。
しかし、ずっと部屋に軟禁されて精神が蝕まれ始めていた俺は小さく頷いた。
夏の花が誇らしげに咲き乱れる城の庭園。久々の外の空気に、体内に滞っていた毒が浄化される思いがした。
その一角に設けられた東屋。周りに魔族が集っている。
魔王と俺が来たと気付いた魔族から左右に退いて、1本の道ができた。
家令のような男が歩み出て来てその横に侍って一緒に歩き出す。
「珍しいですね。立ち会いなど」
ちら、とこちらを見やった目線は感情を感じさせない冷たいものだった。負けじとこちらも睨み返す。
やがて、東屋にたどり着いた。
そこには信じられない光景が広がっていた。
緑の触手に拘束された、人族の女性。腹だけ出すようなローブに身を包んでいる。
彼女の腹は間違いなく妊婦のそれで、淡く緑色に光っていた。
「ちょうど始まる頃か」
魔王がそういうのとほとんど同じタイミングで、女性の腹の光が強まる。
「う、ぐ…!!」
女性は触手にしがみつき、苦悶の表情を浮かべた。額から玉の汗が吹き出して頬を伝う。明らかに苦痛を感じている。
「最初の子だ。辛いだろうな」
魔王がなんて事もないような口調で言った。
「…っ!!」
思わず、言葉を失う。
和平は成ったのではなかったのか。
何故ここに人族が居る。こんな、魔族の領地のど真ん中に。
周りを取り囲む魔族達はめいめい何かを話し合いながら笑みを浮かべている。
隣に佇む魔王も微笑んでその様子を見ていた。
「こんな…、許されない…っ」
飛び出そうとした所を、魔王に腰を抱かれて阻まれる。
「今止める方が危険だぞ?」
そう言われて、魔王の手を振りほどくのをグッと堪えた。
やがて、強く光る女性の腹から緑の長いものが這い出してきて、辺りを探るように腹の上を這い回り始める。
「あ゙、ぁあア!」
一層苦しそうな悲鳴。
次の瞬間、ずるり、と音をたてて腹から触手が産み出された。
女性を拘束している触手がそれを取り上げて高く掲げると、魔族たちからわっと歓声が上がった。
女性は触手に拘束されたまま満身創痍といった様子でぐったりと目を閉じている。
魔王がそれに歩み寄って額を優しい手つきで撫でると、女性はほろりと涙を流した。それから差し出された小さな触手に手をかざすと、歓声が一層高まる。
俺は、縫い付けられたようにその場から動けなかった。
なんて、おぞましい。
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