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【完結】開発事業は突然に【鬼畜/視姦】
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想像していたような食事ではなかった。
鮭のムニエル、付け合わせにきのこのソテー。それからサラダとスープ
映画とかマンガみたいな肉肉しくて死ぬほど量の多いフルコースをひぃひぃ言いながら食べるのを覚悟してたけど、食卓には平凡な料理が並んで、高峰はそれをお行儀よく食べた。
何より驚いたのが、高峰がそれをとっとと自分で作ってしまった事だ。しかも美味い。
高い車にデカい家だから食事もアホみたいなケータリングかと思ってたけど、この男、意外にも自活力はあるらしい。じゃあ俺いらなくない?
食後に白ワインまで出てきて、これじゃどっちがどっちだか。
「自分で作ればいいじゃないですか。俺凝ったのは作れませんよ?」
ありがたく一口飲んでそう声を掛けると、高峰もグラスを傾けてこくりと小さく喉を鳴らした。
「それをするとお前の仕事がなくなるわけだが?」
確かに。
いや、それならそれで構いませんけどね。社長室でマッパになって立ちオナすることを含む仕事なんて。どんな求人だよ。
「別にいいですよ。あんなことさせられるくらいなら」
自分が優位と信じて疑わない笑みに向かって言い放つと、高峰はまた可笑しそうにクスクス笑った。
冷たい印象の顔が、笑うと途端に人好きのする柔らかい雰囲気になる。
これに騙されるんだよ。詐欺師め。
「契約書に明記してあるだろう。私はお前との契約を破棄するつもりはないと」
言われた言葉に、絶望感が胸を覆って頭がくらくらした。
どの方向からも逃げれないらしい。八方ふさがりだ。
そんな俺の内心を知ってか知らずか、高峰はテーブルに緩く肘をついてまたワインを一口飲んだ。
「お前がどうしてもと言うなら作るのもやぶさかではないが、食事を作る時間が浮く分他の仕事を頼まないとな」
はいはい。仰せのままに。もうどうにでもしてくれ。どうせ俺は逆らえないんだ。
やけっぱちでワインを煽ると、甘い酒精が喉を通って抜けて胃がぽかぽかと暖かくなった。
「もう好きにしてください。1日5時間。週25時間はきっっちり働きますから」
一応これは二人で相談して決めた時間だ。朝2時間。仕事に行って、夜3時間。その時間内、俺はこのクソでかい家の中を独楽鼠のようにくるくると動き回るわけだ。家の広さを想定していなかったからできた契約だ。早めに慣れてルーティーンを作らないと潰れてしまう。
ほんのり酔ってきた。今日はもうこのまま何も考えずに寝てしまいたい。
「…人から迂闊だと言われないか?」
そうやって思考の海に沈みかけていた所を高峰の声に引き上げられた。
「はい?」
見ると、高峰はワイングラスを片手に呆れたような顔をして俺を見ている。
なんだその顔は。馬鹿にしてるのか。いやまぁ、馬鹿みたいな契約結ばされてるんだから馬鹿にされて当然か。
言葉の意味が分からないのと情けないのとで眉尻を下げて首を傾げて見せると、高峰は「はぁ」とため息を吐いた。
「お前、あれだけ私がやり込めたのに契約書を見返すことはしなかったのか」
言われて、一拍遅れて言葉の意味を理解して、全身の毛穴が全部開いたみたいに冷や汗が噴き出した。血の気が引いてくらっと眩暈がする。
ほわほわ酔い始めていた頭が一気に覚醒した。
「1条だぞ。1条も読んでいなかったのか。迂闊を通り越して無神経だな」
呆れたように半開きになっていた口がゆっくりと弧を描いて意地悪気なものに変わる。
「…“甲と乙は、口頭での合意が書面に記録されない場合であっても、その合意が本契約の一部となり、それに従うことが予期されることに同意します。” お前は今「好きにしてください」と言った。意味がわかるか?」
ごめん、ちょっとよくわからないからかいつまんで。いや、わかりたくないからやっぱりいい。
両方の意味を込めて首を振ると、高峰は少しだけ残ったワインを飲み干して、ことん、と音をたててグラスをテーブルに置いた。
「口約束も契約の内だということだ」
それから、意地悪気な笑みを獰猛なものに変えて立ち上がる。
「好きにさせてもらおうか」
迂闊だった。認めよう。
鮭のムニエル、付け合わせにきのこのソテー。それからサラダとスープ
映画とかマンガみたいな肉肉しくて死ぬほど量の多いフルコースをひぃひぃ言いながら食べるのを覚悟してたけど、食卓には平凡な料理が並んで、高峰はそれをお行儀よく食べた。
何より驚いたのが、高峰がそれをとっとと自分で作ってしまった事だ。しかも美味い。
高い車にデカい家だから食事もアホみたいなケータリングかと思ってたけど、この男、意外にも自活力はあるらしい。じゃあ俺いらなくない?
食後に白ワインまで出てきて、これじゃどっちがどっちだか。
「自分で作ればいいじゃないですか。俺凝ったのは作れませんよ?」
ありがたく一口飲んでそう声を掛けると、高峰もグラスを傾けてこくりと小さく喉を鳴らした。
「それをするとお前の仕事がなくなるわけだが?」
確かに。
いや、それならそれで構いませんけどね。社長室でマッパになって立ちオナすることを含む仕事なんて。どんな求人だよ。
「別にいいですよ。あんなことさせられるくらいなら」
自分が優位と信じて疑わない笑みに向かって言い放つと、高峰はまた可笑しそうにクスクス笑った。
冷たい印象の顔が、笑うと途端に人好きのする柔らかい雰囲気になる。
これに騙されるんだよ。詐欺師め。
「契約書に明記してあるだろう。私はお前との契約を破棄するつもりはないと」
言われた言葉に、絶望感が胸を覆って頭がくらくらした。
どの方向からも逃げれないらしい。八方ふさがりだ。
そんな俺の内心を知ってか知らずか、高峰はテーブルに緩く肘をついてまたワインを一口飲んだ。
「お前がどうしてもと言うなら作るのもやぶさかではないが、食事を作る時間が浮く分他の仕事を頼まないとな」
はいはい。仰せのままに。もうどうにでもしてくれ。どうせ俺は逆らえないんだ。
やけっぱちでワインを煽ると、甘い酒精が喉を通って抜けて胃がぽかぽかと暖かくなった。
「もう好きにしてください。1日5時間。週25時間はきっっちり働きますから」
一応これは二人で相談して決めた時間だ。朝2時間。仕事に行って、夜3時間。その時間内、俺はこのクソでかい家の中を独楽鼠のようにくるくると動き回るわけだ。家の広さを想定していなかったからできた契約だ。早めに慣れてルーティーンを作らないと潰れてしまう。
ほんのり酔ってきた。今日はもうこのまま何も考えずに寝てしまいたい。
「…人から迂闊だと言われないか?」
そうやって思考の海に沈みかけていた所を高峰の声に引き上げられた。
「はい?」
見ると、高峰はワイングラスを片手に呆れたような顔をして俺を見ている。
なんだその顔は。馬鹿にしてるのか。いやまぁ、馬鹿みたいな契約結ばされてるんだから馬鹿にされて当然か。
言葉の意味が分からないのと情けないのとで眉尻を下げて首を傾げて見せると、高峰は「はぁ」とため息を吐いた。
「お前、あれだけ私がやり込めたのに契約書を見返すことはしなかったのか」
言われて、一拍遅れて言葉の意味を理解して、全身の毛穴が全部開いたみたいに冷や汗が噴き出した。血の気が引いてくらっと眩暈がする。
ほわほわ酔い始めていた頭が一気に覚醒した。
「1条だぞ。1条も読んでいなかったのか。迂闊を通り越して無神経だな」
呆れたように半開きになっていた口がゆっくりと弧を描いて意地悪気なものに変わる。
「…“甲と乙は、口頭での合意が書面に記録されない場合であっても、その合意が本契約の一部となり、それに従うことが予期されることに同意します。” お前は今「好きにしてください」と言った。意味がわかるか?」
ごめん、ちょっとよくわからないからかいつまんで。いや、わかりたくないからやっぱりいい。
両方の意味を込めて首を振ると、高峰は少しだけ残ったワインを飲み干して、ことん、と音をたててグラスをテーブルに置いた。
「口約束も契約の内だということだ」
それから、意地悪気な笑みを獰猛なものに変えて立ち上がる。
「好きにさせてもらおうか」
迂闊だった。認めよう。
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