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ローダンセの花

40.告げられない恋

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 随分酔ってしまった。あんなことを聞いてしまうなんて。
 あの時の薫くんの顔を思い出して恥ずかしくなった。困っただろうなぁ。
『映画友達、ゲーム友達って感じかなぁ』
 それは、嬉しかったけど、悲しかった。
 彼は今の関係を続けたいんだろう。やっぱり、僕のこの欲に塗れた感情は相応しくない。
「今日は送らなくてもいいからな」と言う彼を無理矢理やり込めて、エントランスまで降りてきた。
「ここまでだからな?送られたら主税の帰りの方が心配だからな?」
 ちょっと焦ったみたいに言う彼が可愛い。
 本当に、ずっと可愛い。
 彼を見るだけで僕は幸せだ。それでいいじゃないか。今の関係で十分。満足するべきだ。
 自分の中でどんどん膨れ上がる欲望を無理矢理押し込めて、僕は笑った。ちゃんと笑えてるかな。
 ちょっと心配になって顔を逸らすと、花屋さんの明かりが見えた。奥さんが外で水やりをしている。
「そうだ、花」
 彼が花を買って帰ろうとしてたことを思い出して、花屋さんに向かう。
 後ろから「いいって!」という薫くんの声を無視して奥さんに挨拶した。
「こんばんは。いいですか?」
 奥さんは顔を上げて「あら!」と嬉しそうに笑った。ホースの水を止めて僕をお店の中に案内してくれる。
 それからお店の外でおろおろしている薫くんを見てクスクス笑った。
「どうです?うまくいってます?」
 うまくいくように頑張ります。50本以上あるシリーズの映画を一緒に見たいので。
 僕は曖昧に笑いながら店内を見渡した。名前と花言葉は随分覚えたけど、それと花自体が一致しない。
「カーネーションとか、どうです?」
 奥さんが悪戯っぽく笑う。無垢な愛。そんな花贈れない。僕のこの気持ちは欲に塗れてるから。
「オキナグサ、って、あるんですかね」
 花言葉は、告げられない恋。
 僕がそういうと、奥さんは驚いたように目を見張った。「ありますけど…」と遠慮がちに言って、心配そうに僕を見る。
「いいんですよ。そういうことです」
 奥さんとは花言葉で会話する。はっきり言葉に出すよりずっと楽だ。
 これ以上は、彼を待たせすぎだ。「お願いします」と奥さんを急かして花束を作ってもらった。

 奥さんにお礼を言って店から出ると、待っていた薫くんが足早に僕のところへ来てくれた。
「はい。これ。オキナグサっていう花」
 濃い紫の、背の低い花。花束はころんとしていて薫くんの両手に収まってしまうくらい。あの大きなマグカップには、ちょっと小さすぎるかもしれないなぁ。
 花束を受け取った彼は困ったように僕の顔を見た。
「そんな、よかったのに」
 僕が渡したかったんだ。僕の気持ちをはっきりさせるために。
 そう言えば、花束を持って電車で6駅も。恥ずかしいよね。
「電車乗るの恥ずかしいよね。タクシー呼ぶから、ちょっと待ってね」
 恥ずかしいよね。そんなの口実だ。ホントは少しでも長く君と居たい。
 固辞する彼を無視して僕はスマホを手に取った。
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