迷門校、私立・黒羽男子学園

いぬぬっこ

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第二話 一年A組の楽しい自己紹介タイム

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入学式から数時間後。



午後の黒羽男子学園――
一年A組の教室。

黒い羽、黒い羽、黒い羽。
見渡す限り、カラス。
とにかく、カラス。

「……カラス、多すぎ……」

クロカズは、げんなりと感想を漏らした。

「だからさぁ、クロカズ。
それ、さっきから何回目だと思ってんの」

クロスケが、机にだらっと突っ伏したまま言う。

「ていうかさ、
よく全員教室まで来たよね。
さっきまで、普通にボコられてたのに」

「……某、正直、
このままフェードアウトするという選択肢も考えた」

「だよなぁ」

「だが――」

クロカズは、ゆっくり顔を上げる。

「母上に、『初日からサボったら羽根むしる』と
優しい笑顔で言われたので……」

「それ、優しくねえからな!?」

「完全に脅しだからな!?」

一方。

「……」

クロキチは、背筋を伸ばして席に座っていた。

包帯。
湿布。
所々よれた羽。

どう見ても、満身創痍である。

「……なあ」

クロスケが、ちらりと三羽を見てから言った。

「俺たち全員このザマだけどさ。
無理して出席する必要、あったか?」

「何言ってんだ」

クロキチは、前を見たまま答えた。

「入学初日だぞ。
きちんと出席するのは当然だ」

「……」

「……」

「……え、ちょっと待って。
もしかして、マジで真面目系主人公ムーブ?」

「うるさい」

クロキチは、短く言い捨てた。

「それに――」

一瞬だけ、目が鋭くなる。

「さっきの件は、まだ終わってない」

「こわっ」

「こわっ」

「……某、震えてきた」



「――はい、静かに」

教室の前方で、教師が手を叩いた。

「一年A組の担任を務めます。
鴉塚からすづかです」

スラリとした体格。
鋭い目つき。
無駄のない羽並み。

どう見ても、デキるカラスだった。

「まず最初に言っておきますが――」

鴉塚教師は、ゆっくり教室を見渡す。

「私は、問題児が嫌いです」

ざわり。

「無意味に目立つ者。
集団行動を乱す者。
規律を守らない者」

一拍置く。

「……つまり」

にこり、と笑う。

「今朝の入学式で騒ぎを起こした四羽」

教室中の視線が、
一斉に――

クロキチたちに突き刺さった。

「はい、君たちです」

「えっ、もう!?」

「早くない!?
まだ午後始まったばっかだよ!?」

「……某、胃が……」

「想定より、だいぶ迅速ですね」

クロベエだけは、なぜか感心していた。

「君たち」

鴉塚教師は、淡々と続ける。

「後で職員室に来てもらいます」

「「「「はい……」」」」

即答。

逆らう気力は、すでにない。



「さて」

教師は、気を取り直したように言った。

「次は、自己紹介です」

「一羽ずつ前に出て、
名前と簡単な一言を」

その瞬間。

教室の空気が、
地獄に変わった。

「やだ……」

「無理……」

「聞いてない……」

「なんで初日から……」

ざわざわ、ざわざわ。

「静かに」

ピタッ、と音が止まる。

「順番は――」

鴉塚教師が、出席番号を確認する。

「……一番。
鮎川あゆかわクロキチ君から」

「……は?」

クロキチの思考が、一瞬停止した。

(一番……?)
(よりによって……?)

「行ってこい、主人公」

「がんばれ、レイブンダッツ」

「……某、仏の顔で見送る」

「お前ら、言いたい放題かよ!」

クロキチは、半ばキレ気味に立ち上がり、
教壇へ向かった。

「えー……」

軽く咳払い。

「一年A組、鮎川クロキチです」

一瞬、間が空く。

「……真面目に、学園生活を送りたいと思っています」

教室が、静まり返った。

「……」

「……」

「……」

(や、やばい。
空気、重っ……!?)

「よろしくお願いします」

クロキチが頭を下げると、

――パチ、パチ。

控えめな拍手が起きた。

「……おお」

「意外と普通」

「入学式で騒ぎを起こした奴とは思えないな」

クロキチは、そそくさと席に戻った。

「セーフ……?」

「ギリ、な」

「むしろ奇跡」



「次。
河野かわのクロスケ君」

「はーい」

クロスケは、軽いノリで前に出る。

「河野クロスケでーす」

ウインク。

「趣味はナンパで、
将来の夢は可愛い彼女を作ることです!」

教室が、ざわつく。

「よろしくお願いしまーす!」

「……」

鴉塚教師の目が、冷えた。

「……君は、特によく覚えておく」

「ええっ!?」



「次。
沢田さわだクロカズ君」

「……」

クロカズは、ふらふらと立ち上がる。

「……沢田、クロカズ……です」

小さい声。

「……鳥混みが苦手なので……」

一拍。

「……できれば、そっとしておいてください……」

「……」

なぜか、同情の空気が流れた。

「……うん」

教師が、静かに頷く。

「無理はしないように」

「……ありがたき幸せ……」



「次。
田原たはらクロベエ君」

「はい!!」

やたら元気よく飛び出す。

「田原クロベエです!」

眼鏡をキラリ。

「好きなものは知識!
嫌いなものは無知!!
我々カラスの知的好奇心は――」

「はい、そこまで」

「え?」

「長い」

「……承知しました」



こうして。

四羽の自己紹介タイムは、
なんとか終了した。

教室には、どっと疲れた空気が流れる。

「……終わった……」

「いや、まだ一日終わってないけどな……」

「それ言うな……」

クロキチたちは、それぞれの席でぐったりしていた。



昼休み。

黒羽男子学園・食堂。

広い空間に、無数の黒い影が集まっている。
トレーを手にしたカラス、席を探して飛び交うカラス、
とにかく、カラス。

「……ここも、カラス多すぎ……」

クロカズが、遠い目で呟いた。

「学園全体がそうだから、諦めろ」

クロキチが即座に突っ込む。

四羽は、空いている席を見つけて腰を下ろした。

「いやー、しかしさぁ」

クロスケが、箸を持ったまま言う。

「初日から担任に目ぇつけられるって、
ある意味レアじゃない?」

「主にお前のせいな」

「えっ、俺!?」

「八割お前」

「……某は二割に含まれていないと信じたい……」



少し離れた席。

食堂の奥、窓際。

数羽のカラスが、学食をつついている。

「……ふむ」

「さっきの一年、見たか?」

「ああ。
一年A組の連中だろ」

視線が、自然と食堂中央へ向く。

「特に、あの四羽」

「初日から教師に呼び出し宣言だもんな」

「一年のくせに、持ってるよな」

くつくつと、低い笑い。

「まあ、
放っておいてもそのうち関わるだろ」



同じ頃。

食堂中央の席。

「……なあ」

クロスケが、声を潜めて言った。

「俺たちさ……
やっぱり、ちょっと目立ってない?」

「うん……」

「普通に、落ち着かない……」

クロキチは、箸を持ったまま肩をすくめた。

「初日からあれだけあればな。
そりゃ、多少は見るだろ」

「……首の羽、逆立つくらいには見られてるな」

「「「それはそう……」」」

こうして。

アホなカラス四羽の、
波乱だらけの学園生活は――

だいたいこんな調子で、始まった。
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