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第九話「第六階層」
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「やっぱり、さっきの場所でなにかあったんだね」
「気付いてたのか?」
「だって、追い剥ぎゴブリンが出てくる直前、変な音してたでしょ」
「まぁ……そうだな……」
シズクの方へ視線を向けると、シズクは小さく頷いた。
その意味は、なにがあったのかをある程度把握しているということなのだろう。
「あのさ、ギルド員としてなにがあったのかって、現場は把握しておきたいんだけど……」
立ち止まるアイシャ。
俺もその場に立ち、横目でアイシャの顔を見つめる。
「やめとけ……、可愛い娘さんが見るようなもんじゃない」
「バカにしないでよね! これでも元冒険者で今はギルドのメンバーなんだよ!」
「あのなぁ……はぁ……」
面倒くせぇ……。
冒険者だろうとギルドの奴だろうと、一般人だろうと、死体なんて好きこのんでみるもんじゃない。
ただの傷だらけの死体ならまだしも、あんな身元も分からないぐちゃぐちゃな死体、見せられるわけがないだろうが……。
「ねぇ……死んでたの?」
「……さぁな」
「ちゃんと教えてよ!」
「ア、アイシャちゃん、もうやめよ?」
「シズクちゃん、私たちはダンジョンでの出来事も報告しなきゃいけないし、身元の確認だってしなきゃいけない。これはギルド員として大切なことなんだよ」
「そ、それはそうだけど……」
アイシャの考えに、シズクは言葉を詰まらせた。
確かに、アイシャの考えは正しい。仕事をして、報酬を貰うために、きっちりとその内容を遂行する。
それはなにも間違っちゃいない。間違っていない分、型にハマり過ぎて柔軟性がない。
「はぁ……」
正義感や忠誠心……仕事熱心なのは良いことだが、そんなものはダンジョンでは要らない。
自分の身を危険にさらす行為でしかない。
「なぁアイシャ、そこまで言うならなにがあったか教えてやろうか?」
アイシャには少し、ダンジョンでの動きを教えてやらないといけないのかもしれない。
「えっ……いいの?」
立ち止まるアイシャに合わせるように、シズクもその場に止まった。
俺は振り返り、アイシャの目をまっすぐと見つめる。
「ああ、知りたいなら教えてやる。だがな、言う代わりに現場には連れて行かないし、帰りもあの場所に寄ることはない。それが条件だ」
「そんなのっ! 自分で直接見た方が早――――」
「冒険者の潰れた死体を見てどうするんだよ……」
「っ……!」
俺の言葉に、アイシャだけでなくシズクも目を見開いていた。
「それにだな、身ぐるみ剥がされた上に顔も潰れて身元なんて分かったもんじゃない。調べるにしても、俺たちの仕事じゃない。俺たちの今の任務は人質の救出だ。切り替えろ」
「そ……そんな言い方しなくても……いいじゃんか……」
「アイシャちゃん……」
落ち込むアイシャをシズクがそっと寄り添う。
気分を下げてしまって悪いが、二人にはもう少し注意しておかなければならない。
「二人ともいいか? これから向かうのは、冒険者を捕まえて危険なダンジョンに身動きできない状態で放りだすような連中の住処だ。他人の心配よりも自分のことを優先しろ。仲間がやられたからって庇ってちゃ、そのまま全員が手負いになる。死ぬ為の行動は絶対にするな。生きる為の努力をしろ。傷は治るが死んだら終わりなんだ」
「「……」」
「分かったなら行くぞ」
…………。
俺は再び案内された通りにダンジョンを進む。
後ろからも足音は聞こえてくるが、先程までの会話はまったく聞こえない。
どんよりした空気が後ろから流れ込んでくる。
「……」
ちょっと言い過ぎたか……?
いや、本当のことを伝えた方がいいに決まってる。
下手に遠慮して「大丈夫」なんて言えば、その気の緩みで誰かが死ぬかもしれない。
俺の言葉で誰かが、見知った奴が死ぬのは御免だ。
それに、こいつらには生きて帰ってもらわなきゃ、クレスに合わす顔がなくなっちまう。
『――――――ゥ……』
「ん……」
隣の木の裏から微かに声がした。モンスター、ゴブリンのものと思われる吐息のような音。
多分、隠れている……。
二人は落ち込んだままだし、俺がやるしかねぇか。
剣を肩に乗せ、左手を前に差し出して詠唱を――――――
「撃ち…………」
俺は口を閉じた。ため息を一つこぼした後、再び剣を構える。
魔法はやめておこう……。あんまり人に見せれたもんじゃないからな……。
「――――シュヴァルツさん、モンスターですか⁉」
「あ、ああ。援護を頼む」
『ウガァッ!』
二人が身構えるよりも早く――――木の裏……左右から一体ずつ飛び出してきたゴブリンたち。
片方は任せたいところだが、今の二人じゃ間に合わないか。
「さてと……」
太ももに装着していたナイフを左手に。右手には剣を。
まずは右側のゴブリンから……。
左のゴブリンから離れるように、右側へ。
そのまま右のゴブリンへと詰め寄り、黒い剣が天へと向けられる。
『ウギャァッ……!』
モンスターの叫び声。
それと共に、黒い剣には分断されたゴブリンの血肉が滑っていく。
『……ッ』
「ん、なにか茂みから声が聞こえたような気が――――」
「シュヴァルツさん、後ろです!」
「あ、ああ……」
左側から来ていたゴブリンが鋭い爪を立てて襲い来る。
「おっと……」
体を前転させ、間一髪のところでゴブリンの攻撃を回避。
ゴブリンの爪はそのまま空を掻いていた。
前転した体はしっかりと、ゴブリンの動きを捉えるように向い合わせに身構える。
「あぁ、体も軽いし若いと動きやすいわ……」
これが年の差ってやつか……。
「気付いてたのか?」
「だって、追い剥ぎゴブリンが出てくる直前、変な音してたでしょ」
「まぁ……そうだな……」
シズクの方へ視線を向けると、シズクは小さく頷いた。
その意味は、なにがあったのかをある程度把握しているということなのだろう。
「あのさ、ギルド員としてなにがあったのかって、現場は把握しておきたいんだけど……」
立ち止まるアイシャ。
俺もその場に立ち、横目でアイシャの顔を見つめる。
「やめとけ……、可愛い娘さんが見るようなもんじゃない」
「バカにしないでよね! これでも元冒険者で今はギルドのメンバーなんだよ!」
「あのなぁ……はぁ……」
面倒くせぇ……。
冒険者だろうとギルドの奴だろうと、一般人だろうと、死体なんて好きこのんでみるもんじゃない。
ただの傷だらけの死体ならまだしも、あんな身元も分からないぐちゃぐちゃな死体、見せられるわけがないだろうが……。
「ねぇ……死んでたの?」
「……さぁな」
「ちゃんと教えてよ!」
「ア、アイシャちゃん、もうやめよ?」
「シズクちゃん、私たちはダンジョンでの出来事も報告しなきゃいけないし、身元の確認だってしなきゃいけない。これはギルド員として大切なことなんだよ」
「そ、それはそうだけど……」
アイシャの考えに、シズクは言葉を詰まらせた。
確かに、アイシャの考えは正しい。仕事をして、報酬を貰うために、きっちりとその内容を遂行する。
それはなにも間違っちゃいない。間違っていない分、型にハマり過ぎて柔軟性がない。
「はぁ……」
正義感や忠誠心……仕事熱心なのは良いことだが、そんなものはダンジョンでは要らない。
自分の身を危険にさらす行為でしかない。
「なぁアイシャ、そこまで言うならなにがあったか教えてやろうか?」
アイシャには少し、ダンジョンでの動きを教えてやらないといけないのかもしれない。
「えっ……いいの?」
立ち止まるアイシャに合わせるように、シズクもその場に止まった。
俺は振り返り、アイシャの目をまっすぐと見つめる。
「ああ、知りたいなら教えてやる。だがな、言う代わりに現場には連れて行かないし、帰りもあの場所に寄ることはない。それが条件だ」
「そんなのっ! 自分で直接見た方が早――――」
「冒険者の潰れた死体を見てどうするんだよ……」
「っ……!」
俺の言葉に、アイシャだけでなくシズクも目を見開いていた。
「それにだな、身ぐるみ剥がされた上に顔も潰れて身元なんて分かったもんじゃない。調べるにしても、俺たちの仕事じゃない。俺たちの今の任務は人質の救出だ。切り替えろ」
「そ……そんな言い方しなくても……いいじゃんか……」
「アイシャちゃん……」
落ち込むアイシャをシズクがそっと寄り添う。
気分を下げてしまって悪いが、二人にはもう少し注意しておかなければならない。
「二人ともいいか? これから向かうのは、冒険者を捕まえて危険なダンジョンに身動きできない状態で放りだすような連中の住処だ。他人の心配よりも自分のことを優先しろ。仲間がやられたからって庇ってちゃ、そのまま全員が手負いになる。死ぬ為の行動は絶対にするな。生きる為の努力をしろ。傷は治るが死んだら終わりなんだ」
「「……」」
「分かったなら行くぞ」
…………。
俺は再び案内された通りにダンジョンを進む。
後ろからも足音は聞こえてくるが、先程までの会話はまったく聞こえない。
どんよりした空気が後ろから流れ込んでくる。
「……」
ちょっと言い過ぎたか……?
いや、本当のことを伝えた方がいいに決まってる。
下手に遠慮して「大丈夫」なんて言えば、その気の緩みで誰かが死ぬかもしれない。
俺の言葉で誰かが、見知った奴が死ぬのは御免だ。
それに、こいつらには生きて帰ってもらわなきゃ、クレスに合わす顔がなくなっちまう。
『――――――ゥ……』
「ん……」
隣の木の裏から微かに声がした。モンスター、ゴブリンのものと思われる吐息のような音。
多分、隠れている……。
二人は落ち込んだままだし、俺がやるしかねぇか。
剣を肩に乗せ、左手を前に差し出して詠唱を――――――
「撃ち…………」
俺は口を閉じた。ため息を一つこぼした後、再び剣を構える。
魔法はやめておこう……。あんまり人に見せれたもんじゃないからな……。
「――――シュヴァルツさん、モンスターですか⁉」
「あ、ああ。援護を頼む」
『ウガァッ!』
二人が身構えるよりも早く――――木の裏……左右から一体ずつ飛び出してきたゴブリンたち。
片方は任せたいところだが、今の二人じゃ間に合わないか。
「さてと……」
太ももに装着していたナイフを左手に。右手には剣を。
まずは右側のゴブリンから……。
左のゴブリンから離れるように、右側へ。
そのまま右のゴブリンへと詰め寄り、黒い剣が天へと向けられる。
『ウギャァッ……!』
モンスターの叫び声。
それと共に、黒い剣には分断されたゴブリンの血肉が滑っていく。
『……ッ』
「ん、なにか茂みから声が聞こえたような気が――――」
「シュヴァルツさん、後ろです!」
「あ、ああ……」
左側から来ていたゴブリンが鋭い爪を立てて襲い来る。
「おっと……」
体を前転させ、間一髪のところでゴブリンの攻撃を回避。
ゴブリンの爪はそのまま空を掻いていた。
前転した体はしっかりと、ゴブリンの動きを捉えるように向い合わせに身構える。
「あぁ、体も軽いし若いと動きやすいわ……」
これが年の差ってやつか……。
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