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第九話「第六階層」

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「ほらよ、お返しだ」

 俺は片膝をついたまま、左手のナイフをゴブリンに投げつける。

『ウギャッ!』

 ナイフはゴブリンの腕に突き刺さり、ゴブリンは痛みと驚きに声を上げた。

 あまり深くは刺さらなかったみたいだが、少しでも動きを止めるには十分だ。

 俺はそのまま後ろに下がり、後衛の援護射撃を待つ。

「――――シルフィード!」

 迅速の風が前を、頬をかすめていく。

 アイシャの魔法がゴブリンに命中し、そのまま胴体を切断。

 アイシャは感情の上下は激しいものの、ダンジョンでの戦闘はいい感じだ。
 あとは、冷静さがあればいいんだが……。

「――――貫け、アイシクル! シュヴァルツさん避けてください!」
「なっ……⁉」

 まっすぐに俺の方へと飛んでくる氷の刺。

「ッ! あっぶね……!」

 すんでのところで俺の胸の前を通りすぎていく氷槍。

「シズク! 何をして――――――」
『グギャァッ……!』
「っ……!」

 茂みの中から響くのは、シズクの魔法に貫かれたであろうゴブリンの嘆声。

 さっきの声は……やっぱり一匹だけ隠れてたのか……。

「シュ、シュヴァルツさん、ごめんなさいっ……!」

 駆け寄ってきたシズクが胸元に手を当てながら頭を下げる。

「あ、ああ……気にするな。俺の下がる位置が悪かった」
「いえ、私こそ……ほんとに、すみません…………。なにか茂みから光が見えて危ないと思って魔法を……」
「ああ、なんとなく気が付いていたんだがな……、途中で忘れてた。助かったよ」

 ぽんぽんと、シズクの頭に手をやる。

「は、はわわ……! そ、そんな、とんでもないですっ……!」

 急にシズクの顔が火照りだす。

「ん、顔が赤いぞ?」
「あ、いえ、これはその……その……!」

 シズクの顔を覗き込むと、また一段と赤く染まっていく。

「大丈夫か?」
「あ、あの……その……!」
「――――――シズクに触るなぁぁああ!」

 いつの間にか近くに寄っていたアイシャが、俺の手をどけてシズクを引き離す。

 ペンタグラムの町、噴水の前で似た光景を見たような……。

「シズクに触るなって言ったでしょっ!」

 シズクを大事そうに抱きつくアイシャ。

「いや、助かったってお礼を言っただけなんだが……」
「でも、触ってたじゃんか! っていうか、私だって助けたもん!」

 アイシャは怒りながらムスッと頬を膨らませる。

 え、なんだこれは……。お礼を言えということか?

「その……、アイシャもありがとな」

 シズクと同じように頭にぽんぽんと触れてみる。

 これでいいんだろうか。

「ひゃぅ! き、気軽に触るなっ! ばかっ!」
「……」

 パシッと振り払われた俺の手。

 いやいや、いったい俺にどうしろと……。

「ふんっ……! (私だってちゃんと任務に専念できるもん……)」

 そっぽを向くアイシャ。

 まぁ……気にしないでおこう……。

 そんなことよりも、シズクが見たっていう茂みからの光が気になるな……。

 警戒をしつつ、シズクが倒したであろうゴブリンが居る茂みへと近寄る。

「……こいつは」

 茂みの中に居たモンスターは確かにゴブリンだった。

 だが、これは――――――

「……マジックゴブリンとは、また珍しいモンスターだな」

 マジックゴブリンはあまり見かけないレアモンスターの一体。

 ゴブリンや追い剥ぎゴブリンのように武器や爪で攻撃するタイプではなく、完全に魔法特化のゴブリンだ。

「こいつが居るっていうことは……」

 近くに水晶が落ちているはず。

「シュヴァルツさん、なに探してるんですか?」
「先を急ぐんじゃないの?」
「あー、ちょっとだけ――――おお、あったあった。シズク、ほら」

 マジックゴブリンが持っていたであろう拳ほどの大きさの水晶玉を、シズクへと向かって放り投げる。

「あ、あわわっ……!」

 慌てたシズクが、なんとか両手で掴み取る。

「わぁ……綺麗です……!」
「マジックゴブリンの持っていた水晶だ。高く売れるぞ」

 茂みから抜け出しながらシズクへと伝え、再び目的地への道のりを歩きだす。

「あ、ちょっと待ってよ!」

 アイシャとシズクが近くへと駆け寄ってくる。

「あ、あの……これって、私がもらってもいいんですか……?」
「倒したのはシズクだろ、ならシズクが拾うべきだろ?」
「あ、ありがとうございます……!」

 冒険者たる者、仲間や他の冒険者たちのアイテムの横取りは厳禁。

 そんな盗人みたいなマネをしちゃ、名前が汚れてしまう。

「きれー……、いいなぁシズクちゃん。マジックゴブリンの水晶って高いんだよ?」
「そ、そんな良いものなんですか?」
「あんまり手に入らないのに女の子たちには人気だからねー。ほら、アクセサリーとかおしゃれとかね」
「あ、確かにお部屋に置いておくと綺麗かも……」

 やっぱり女子だなぁ。光ものの話ならよく話が弾む。

 にしても……。モンスターとの遭遇が多い……。

 いちいち相手にしている時間がもったいない……。

「二人とも、すまないが先を急ぐぞ」
「あっ、うん!」
「は、はい!」

 二人の返事を聞いてから、俺たちは足早に指定の洞窟へと向かう。

 道中、数体のゴブリンを倒しながら――――――
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