後宮妃は木犀の下で眠りたい

佐倉海斗

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第三話 賢妃の才能は底知れない

07-3.

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 朱家は万姫を甘やかしてご機嫌をとっている。そうしなければ、万姫の悪意は朱家に向けられることになりかねないからだ。万姫の性格を知っているからこその方針だった。

 とはいえ、香月と敵対することを望んでいるわけではない。

 朱家と玄家の争いとなれば、四大世家の協力関係が崩れることになる。

「梓晴」

 香月は空を見上げながら、梓晴の名を呼んだ。

 その顔は険しいものだった。

「すぐに皆に武装して中庭に出るように伝えよ」

 香月は槍を梓晴に持たせる。

「氷叡剣」

 香月は宝貝を呼び出した。

「なにが――。ひぃっ!?」

 梓晴は香月の言葉が気になったのか、香月が見つめている方向を見ると悲鳴を上げて飛び上がった。

 塀の上に黒く変色をした人が立っていた。
 顔には札が張られており、両腕は前に突き出している。なにを考えているのか、塀の上から降りては来ず、様子を伺っているようだった。

「明明! 皆に武装して中庭に出るように伝えて!」

 梓晴は槍を持ち直し、香月の隣に並ぶ。

 前に出れば香月の邪魔になりかねないとわかっているからだ。

 騒ぎを聞きつけた明明は指示をされた通りに、すぐに玄武宮の中に入っていく。梓晴の悲鳴を聞いた下女たちは面白半分で顔を出したが、すぐに悲鳴をあげて腰を抜かしていた。

 ……守らなければ。

 その様子を香月は理解していた。

 本来、守られるべきなのは玄武宮の主である香月だ。香月が率先して前に出るべきではない。

 それはわかっていた。

 しかし、何者かの手によってキョンシーと化した怨霊を相手にできるのは、香月だけだった。

「賢妃様!」

 真っ先に武装をして駆け寄ってきたのは雲婷だった。

「雲婷。陛下に陳勇がキョンシーとして姿を見せたことを伝えに行ってほしい」

 香月は文を書く余裕もない。

 それならば、侍女頭の雲婷を伝令として使うべきと判断した。
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