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第十三話
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エクリプスの背に乗って軽快に中央都市リーガイアへと向かうヤマト。
街道を進んでいるとはいえ、道中何度かモンスターと遭遇することになる。装備が整ってきているヤマトであれば問題なく討伐することができるレベル18前後のモンスターだった。
しかし、ヤマトは自らが戦闘することを選ばずにあえてエクリプスに戦わせることにする。
エンピリアルオンラインでは、決められた時間ではあるのものの一定時間、マウントとともに戦うことができるという仕様があった。
もちろん最初のうちはマウントも弱いが、ヤマトは補助しながらともに戦い、エクリプスに経験を積ませながら旅路を行く。
この世界ではマウントはただの移動手段に過ぎないようだった。だがエクリプスはヤマトに選ばれ、ともに冒険し始めたことでゲームの時と同じように戦闘に参加できるようになった。
訓練も交えたため、数日がかりだったが、二人がリーガイアに到着する頃にはエクリプスのレベルは6にあがっていた。
リーガイアに到着したヤマトは宿をとるとユイナへと連絡をとることにする。
一方でユイナは、回復士に就くために回復士ギルドに来ていた。
ギルドの中に入ると、清潔感のある空間はまるで小さな病院のような雰囲気を醸し出している。
「雰囲気もそうだけど、なんか薬品の匂いがするところが余計に病院っぽいねぇ」
くんくんと鼻を鳴らしているユイナ。嗅覚からの情報は余計に説得力を持たせていた。
「いらっしゃいませ、本日はどういった御用でしょうか?」
ユイナがキョロキョロとギルド内を見回していると、一人の女性職員が声をかけてきた。
白ベースのローブを着用しており、一つに縛った髪は元気よく見えるが、彼女の表情が落ち着いた笑顔だったため、ほんわかとした雰囲気を持っている職員だった。
「えっと、回復士になりたいんです!」
女性の持つ雰囲気に癒やされながらもユイナは単刀直入に女性職員へと用件を伝える。
「まあまあ、それはとても良いことです。戦闘において派手さのかける回復士は、なろうと思う方が近年減ってきていますので、とてもありがたいことです」
嬉しそうに口元に手を当てて微笑む女性職員。ユイナの申し出はとても歓迎されていた。
「それではこちらへどうぞ。回復士について少々説明させて頂きますね」
柔らかな雰囲気のまま女性は受付カウンターの中へ入り、ユイナはその対面に移動する。
「回復士とは名前のとおり、回復を主に行う職業です。ただ、強くなることができれば、その上位職に就くこともできますし、もちろん攻撃魔法もいくつか覚えることができます」
女性職員が語ることはゲーム時代の知識と変わったところはなく、ユイナは既に知っていることだったが、念のため黙って説明を聞いていく。
「あなたは弓を使われているようですが、回復士として生きていくことを誓いますか?」
一通りの説明を終えた女性職員はユイナの背にある弓を見たあと、覚悟を試すように質問してくる。
「もっちろんです!」
決意を持った眼差しで力強く頷くユイナの返事に迷いはなかった。
この間のヤマトとの通話で、複数の職業を同時に選択できることはわかっており、一つでも多くの職業についておくことが今後有利に進んでいくと考えていた。
「わかりました。それではこちらへいらして下さい」
ユイナの覚悟が本物だと感じた女性職員は、一度にっこりとほほ笑むとそのまま奥の部屋へと案内して回復士になる儀式を行う。
この時のユイナの光の反応もヤマトの時と同様に、通常よりも強い光を放っていた。女性職員はとても強い魔力の波動を感じ取って驚きながらも、彼女が優秀な回復士となることを願った。
同時にこの時に、女性職員からユイナは回復士が使う杖【初級の癒しの杖】をもらうこととなる。
これは回復士として最初に装備できる武器で、特に効果はついていないが、十センチほどの短い枝が先の方でくるんと丸まっている杖だった。
「……あの、料金の支払いは?」
儀式を終えたユイナは通常の流れであれば、職業に就く前にギルドにお金を支払うことを思い出して遠慮がちに質問する。しかし、女性職員は優しい表情で首を横に振る。
「少しでも回復士になる方が増えるように料金は頂かないようにしております――というと聞こえはよろしいですが、国からの支援がありますのでお気になさらなくて大丈夫ですよ」
女性職員は笑顔でそう言った。彼女自身も回復士が増えたことを心から喜んでいるようだった。
「ありがとうございます! それじゃ、いきますね。……あっ、杖もありがとうございました!」
優秀な回復士を目指そうと笑顔になったユイナは二度礼を言うと、弾む心のまま急ぎ足でギルドをあとにする。
「杖かあ、やっぱりこれもしっくりくるよね」
ゲーム時代に回復職もやっていたユイナは、杖を握るとゲームの頃の回復職としてのプレイを思い出していた。はじめの頃はどう動いたらいいかもわからなかったが、一度最高レベルまで経験した職業のため、レベル1になろうとあの頃よりもずっと動ける自信がある。
「でもでも、これで私も二つの職業に就けたからリーガイア向かってもいいかなー」
ユイナは既に馬は購入済であり、弓士のレベルも数日前にヤマトに申告した時よりも二つ高い17レベルだった。そこそこ力がついており、途中での合流であれば今のレベルでも十分だといえる。
「その前にヤマトには連絡しておかないとだね……宿に戻るには……ちょっと離れてるから街を出て静かな場所に移動しようかな!」
すでにユイナは街の入り口まで来ており、笛で馬を呼び出すと騎乗して街から離れた静かな場所へと移動する。
しばらく移動したところで、平原の大きな岩の陰で彼女は馬を降りた。ユイナからの帰還の合図がないため、馬は静かに待機している。
「ふぅ、ここならいいかな? ――ヤマト、ヤマト?」
念のため周囲にモンスターや人がいないことを確認し、指輪にそっと手を当ててユイナが通話をかけると、すぐにヤマトから返事が返ってくる。
『――ユイナ? 今、俺も通話をかけようと思っていたところだよ』
「そうなの? うふふー、なんか運命だね!」
丁度同じタイミングであったため、嬉しく思ったユイナは自然と頬が緩んでいた。
『ははっ、ユイナ、機嫌がいいね。――そうだ! 俺は中央都市リーガイアに到着したよ。宿に部屋をとって今入ったところなんだ』
「わっ、もう着いたんだ! さっすがヤマト、早いなぁ……私もそろそろ街を出て向かおうと思ってたところなんだけど……リーガイアまで来てるならあの橋のところで会うのがいいかな?」
ユイナが口にした橋、それを聞いてヤマトはすぐにどこなのか思い浮かんでいた。
ルフィナの街とリーガイアを繋ぐ穏やかな流れの川をまたいだ自然あふれる場所にある橋。
ちょうどそこは両者のどちらから来ても中間地点になる場所だった。
『了解、それじゃ明日の朝出発で合流するってことでいいかな?』
「うん!」
これにより、二人はついに再会に向けて進んでいくこととなる。
ヤマト:剣士LV25、魔術士LV18
ユイナ:弓士LV17、回復士LV1
エクリプス:馬LV6
初級の癒やしの杖
回復士として最初に装備できる武器。白みがかった短い枝でできた杖。
街道を進んでいるとはいえ、道中何度かモンスターと遭遇することになる。装備が整ってきているヤマトであれば問題なく討伐することができるレベル18前後のモンスターだった。
しかし、ヤマトは自らが戦闘することを選ばずにあえてエクリプスに戦わせることにする。
エンピリアルオンラインでは、決められた時間ではあるのものの一定時間、マウントとともに戦うことができるという仕様があった。
もちろん最初のうちはマウントも弱いが、ヤマトは補助しながらともに戦い、エクリプスに経験を積ませながら旅路を行く。
この世界ではマウントはただの移動手段に過ぎないようだった。だがエクリプスはヤマトに選ばれ、ともに冒険し始めたことでゲームの時と同じように戦闘に参加できるようになった。
訓練も交えたため、数日がかりだったが、二人がリーガイアに到着する頃にはエクリプスのレベルは6にあがっていた。
リーガイアに到着したヤマトは宿をとるとユイナへと連絡をとることにする。
一方でユイナは、回復士に就くために回復士ギルドに来ていた。
ギルドの中に入ると、清潔感のある空間はまるで小さな病院のような雰囲気を醸し出している。
「雰囲気もそうだけど、なんか薬品の匂いがするところが余計に病院っぽいねぇ」
くんくんと鼻を鳴らしているユイナ。嗅覚からの情報は余計に説得力を持たせていた。
「いらっしゃいませ、本日はどういった御用でしょうか?」
ユイナがキョロキョロとギルド内を見回していると、一人の女性職員が声をかけてきた。
白ベースのローブを着用しており、一つに縛った髪は元気よく見えるが、彼女の表情が落ち着いた笑顔だったため、ほんわかとした雰囲気を持っている職員だった。
「えっと、回復士になりたいんです!」
女性の持つ雰囲気に癒やされながらもユイナは単刀直入に女性職員へと用件を伝える。
「まあまあ、それはとても良いことです。戦闘において派手さのかける回復士は、なろうと思う方が近年減ってきていますので、とてもありがたいことです」
嬉しそうに口元に手を当てて微笑む女性職員。ユイナの申し出はとても歓迎されていた。
「それではこちらへどうぞ。回復士について少々説明させて頂きますね」
柔らかな雰囲気のまま女性は受付カウンターの中へ入り、ユイナはその対面に移動する。
「回復士とは名前のとおり、回復を主に行う職業です。ただ、強くなることができれば、その上位職に就くこともできますし、もちろん攻撃魔法もいくつか覚えることができます」
女性職員が語ることはゲーム時代の知識と変わったところはなく、ユイナは既に知っていることだったが、念のため黙って説明を聞いていく。
「あなたは弓を使われているようですが、回復士として生きていくことを誓いますか?」
一通りの説明を終えた女性職員はユイナの背にある弓を見たあと、覚悟を試すように質問してくる。
「もっちろんです!」
決意を持った眼差しで力強く頷くユイナの返事に迷いはなかった。
この間のヤマトとの通話で、複数の職業を同時に選択できることはわかっており、一つでも多くの職業についておくことが今後有利に進んでいくと考えていた。
「わかりました。それではこちらへいらして下さい」
ユイナの覚悟が本物だと感じた女性職員は、一度にっこりとほほ笑むとそのまま奥の部屋へと案内して回復士になる儀式を行う。
この時のユイナの光の反応もヤマトの時と同様に、通常よりも強い光を放っていた。女性職員はとても強い魔力の波動を感じ取って驚きながらも、彼女が優秀な回復士となることを願った。
同時にこの時に、女性職員からユイナは回復士が使う杖【初級の癒しの杖】をもらうこととなる。
これは回復士として最初に装備できる武器で、特に効果はついていないが、十センチほどの短い枝が先の方でくるんと丸まっている杖だった。
「……あの、料金の支払いは?」
儀式を終えたユイナは通常の流れであれば、職業に就く前にギルドにお金を支払うことを思い出して遠慮がちに質問する。しかし、女性職員は優しい表情で首を横に振る。
「少しでも回復士になる方が増えるように料金は頂かないようにしております――というと聞こえはよろしいですが、国からの支援がありますのでお気になさらなくて大丈夫ですよ」
女性職員は笑顔でそう言った。彼女自身も回復士が増えたことを心から喜んでいるようだった。
「ありがとうございます! それじゃ、いきますね。……あっ、杖もありがとうございました!」
優秀な回復士を目指そうと笑顔になったユイナは二度礼を言うと、弾む心のまま急ぎ足でギルドをあとにする。
「杖かあ、やっぱりこれもしっくりくるよね」
ゲーム時代に回復職もやっていたユイナは、杖を握るとゲームの頃の回復職としてのプレイを思い出していた。はじめの頃はどう動いたらいいかもわからなかったが、一度最高レベルまで経験した職業のため、レベル1になろうとあの頃よりもずっと動ける自信がある。
「でもでも、これで私も二つの職業に就けたからリーガイア向かってもいいかなー」
ユイナは既に馬は購入済であり、弓士のレベルも数日前にヤマトに申告した時よりも二つ高い17レベルだった。そこそこ力がついており、途中での合流であれば今のレベルでも十分だといえる。
「その前にヤマトには連絡しておかないとだね……宿に戻るには……ちょっと離れてるから街を出て静かな場所に移動しようかな!」
すでにユイナは街の入り口まで来ており、笛で馬を呼び出すと騎乗して街から離れた静かな場所へと移動する。
しばらく移動したところで、平原の大きな岩の陰で彼女は馬を降りた。ユイナからの帰還の合図がないため、馬は静かに待機している。
「ふぅ、ここならいいかな? ――ヤマト、ヤマト?」
念のため周囲にモンスターや人がいないことを確認し、指輪にそっと手を当ててユイナが通話をかけると、すぐにヤマトから返事が返ってくる。
『――ユイナ? 今、俺も通話をかけようと思っていたところだよ』
「そうなの? うふふー、なんか運命だね!」
丁度同じタイミングであったため、嬉しく思ったユイナは自然と頬が緩んでいた。
『ははっ、ユイナ、機嫌がいいね。――そうだ! 俺は中央都市リーガイアに到着したよ。宿に部屋をとって今入ったところなんだ』
「わっ、もう着いたんだ! さっすがヤマト、早いなぁ……私もそろそろ街を出て向かおうと思ってたところなんだけど……リーガイアまで来てるならあの橋のところで会うのがいいかな?」
ユイナが口にした橋、それを聞いてヤマトはすぐにどこなのか思い浮かんでいた。
ルフィナの街とリーガイアを繋ぐ穏やかな流れの川をまたいだ自然あふれる場所にある橋。
ちょうどそこは両者のどちらから来ても中間地点になる場所だった。
『了解、それじゃ明日の朝出発で合流するってことでいいかな?』
「うん!」
これにより、二人はついに再会に向けて進んでいくこととなる。
ヤマト:剣士LV25、魔術士LV18
ユイナ:弓士LV17、回復士LV1
エクリプス:馬LV6
初級の癒やしの杖
回復士として最初に装備できる武器。白みがかった短い枝でできた杖。
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