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第五十五話

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「まずはあいつからやろう」
 飛びかかって来る魔族から視線をそらさず、ヤマトは意識のない、嵐製造機と化しているように見えるトリトンのことは後回しにすることを選択する。

「だね、やっちゃおー!」
 ユイナもその判断に賛同すると、弓聖の弓を構えた。
「行くぞ!」
 先に動き出したのは魔族、しかし先手をとるのはヤマトだった。

「“ファイアボール”!」
 手始めに使うのはクラス1の魔法。大きな炎の玉が魔族へと向かっていく。
「ふん、こんなもの!」
 しょぼい攻撃だなと嘲った魔族の手により、あっさりと弾き飛ばされてしまう。

「“アイスボール”! “ファイアボール”! “エアボール”! “サンダーボール”!」
 しかし、ヤマトはそれでも同クラスの魔法を次々に放っていく。どれもこれもクラス1としての一般的な効果よりも大きいものばかりだ。
「だから効かないと言ってるだろ!」
 だが魔族はそれら全てを片手で、しかも最小の力でかき消していく。ヤマトの単調な攻撃ぶりに、せっかくここまで来た面白そうなやつらという評価が間違っていたのかと魔族はガッカリし始めていた。

「――本当の魔法というものを見せてやる」
 短気な魔族は非常に苛立っており、走りながらもヤマトに向かって闇の魔法を放とうとしていた。
 どす黒くねっとりとした魔力が徐々に魔族のもとに貯まっていくところで声が響く。

「“デッドアローレイン”!」
 それはユイナの声だった。
 ヤマトは自分に意識を集中させるために放つ間隔が短くて済む初歩の魔法を連発していた。そして、その意識の隙をついてユイナが攻撃をする。


 別段作戦を話し合ったりはしていなかったが、パートナーとして歴戦を勝ち抜いてきた二人は自然とそれぞれの役目をとっていた。


「……ぐっ!」
 ユイナの放ったはスキルは面での攻撃であり、そのいくつかが魔族の身体に命中する。
「くそ、こんな矢が当たったところで!」
 かすり傷でも傷は傷。苛立ちながら魔族はそれを無理やり引き抜こうとする。

 この瞬間魔族の意識は矢に向いていた。

「“スーパーノヴァブレイブ”!」
 そして、その一瞬でヤマトは距離を詰める。風魔法を使って自分の速度をあげて、あっという間に魔族の目の前にいる。
 放ったのはファイブヘッドリザードドラゴンにも使った強力なスキル。超新星の爆発を思わせるような威力の爆発を剣から打ち出した。

「ぐあああああああああああああ!」
 その直撃を受けた魔族は吹き飛ばされ、最初にいたトリトンの隣、そこを通り過ぎて更に後方へと飛ばされていた。

「まだまだー! “サイドワインダー”! 今度は五連発ぅっ!」
 ふふんと息巻いたユイナが発射した矢は吹き飛んだ魔族を執拗に追いかけていく。
「“エンシェントフレイム”!」
 更に、ヤマトも立て続けに古代魔法を放ち、巨大な炎が飲み込むように放出され、魔族に止めをさそうとする。

 魔法が届くよりも先にユイナの矢は五発とも魔族に命中する。魔族は矢があちこちから突き刺されるがままになっていた。

 しかし、ヤマトの炎はあと少しで届く――というところで最初から何もなかったように全て消え去ってしまう。
「――うるさいぞ」
 それをしたのは先ほどまでぼーっとしていたトリトンだった。古代魔法の炎は炎のクラス1魔法のファイアーボールのようにそんなにあっさりかき消せるものではなかったため、ヤマトたちは驚愕しながらそちらに目を向ける。

「……なっ!」
 右手を前に出して炎を止めたトリトンの表情はぼーっとしたままだった。だが、動きは速く、あっという間にヤマトとの距離を詰める。

「“トリトンランス”」
 流れる水をそのまま槍にしたそれがヤマトに腹部に向かって放たれる。
 静かに使われたその魔法は、彼の固有魔法の一つであり、強力な魔力が込められた槍だった。

「やばっ!」
 この瞬間、目の前に迫る槍を見つめながらヤマトはどうすれば防げるかを一瞬のうちにシミュレートする。

 トリトンの属性は恐らくポセイドンと同じ水属性。
 そして、いま使われようとしている固有魔法トリトンランスは水を固め、槍の形状を作った魔法。
 ただ盾を作ったのでは防ぐことができない。

「“トリプルウォール”!」
 ならばとヤマトが選んだ防御魔法は壁。
 それも土、雷、風の三種類の力を込めたものだった。

 ゲームでは一属性の壁を作ることしかできない。しかし、ヤマトはオリジナルの魔法を作り出した。
 とっさの判断が功を奏し、障壁を重ねたことでいくつかヒビが入ったがトリトンランスを止めることに成功する。

「……?」
 トリトンランスが壁に弾かれて落ちたことでトリトンは不思議そうに首を傾げる。

「“スーパーノヴァブレイブ”!」
 ヤマトは剣聖の剣を前に突き出して再びスキルを発動した。すさまじい光量のビームがトリトン目がけて放たれる。
「これは……」
 無表情のぼんやりとした反応でそれをただ見つめていたトリトンはダメージは受けていなかったが、スキルの爆風で後方に飛ばされていた。

「ユイナ、だめだ。トリトンにダメージが入らない!」
 ヤマトは自分が確認したトリトンの情報を大声でユイナに伝える。
「なら、物理攻撃で。“デッドアローストライク”!」
 魔法攻撃で攻め続けていたヤマトを見ていたユイナは好戦的な表情で弓を構えてすぐさま攻撃を放つ。

 デッドアローレインの威力を一発に集中させた攻撃。威力はそれだけに強力なスキルである。

 動きの鈍いトリトンに着弾したそれは、トリトンの身体に突き刺さろうとギリギリと押し込まれていくが、彼の防御力は圧倒的な力であり、ついには矢が威力を失ってポトリと落ちてしまう。魔力で作られた矢は光の玉となって霧散した。

「これはまずい……魔族は、倒れているか。――ユイナ! トリトンの相手は俺がする。君は君のやるべきことをやってくれ!」
 防御力が高く、近接でも遠距離でも強力な攻撃を放つことができるヤマト。彼は自分がトリトンの相手をするのが一番であると考えていた。

「私がやるべきこと……わかった! 任せて!」
 ヤマトの言葉からそれが何を示しているのか理解したユイナは、周囲を見回し、変わった場所がないかを確認している。もちろん自身に攻撃が向けば即座に反応できるようにしながら。

「……なんだ?」
 そして、トリトンもユイナの挙動に視線が向くが、そうはさせまい自分を見ろと、ヤマトが斬りかかっていた。

「てやあああああ!」
「お前の攻撃は俺には効かないぞ、さっきのでわからなかったのか?」
 なんでそうまでして戦うのかわからないという表情のトリトンが冷静に問いかける。

 そう、トリトンとヤマト――二人の間には大きな実力差がある。それはヤマトにもわかっていた。

 先ほどの攻撃に手ごたえが全くなかったこと、そして調べるでトリトンの能力を確認しようとしても全く確認ができないこと。これは大きなレベル差があることをしめしている。

 ファイブヘッドリザードドラゴンの時には相手のレベルを確認することができた。
 つまり、レベル差百程度ではそのステータスを見ることはできる。

 そのことから判断するに、トリトンとヤマトのレベル差はそれを更に超えているということだ。
 それでも、くじけることなくヤマトはトリトンと対峙する。

 今のこの場でヤマトたちの勝利条件は必ずしもトリトンを倒すことではなかったからだった。





ヤマト:剣聖LV198、大魔導士LV192
ユイナ:弓聖LV195、聖女LV181、聖強化士LV30
エクリプス:聖馬LV55
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