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第1章 古代の魔法使い

初戦終結

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「何だ貴様、どういうつもりだ?ここがどこだか分からんわけじゃあるまいな!」


 貴族らしい男が声を荒げている。クラウドは喋った男を一瞥すると辺りを見回した。


 その場にいたのは貴族と思われる男が2人と屈強そうな男達が10人程。
 一階の部屋から出てきて貴族を守るように立っていた。屋敷に詰めている兵士達のようである。
 こんな田舎で、しかも領主の館に襲撃を受けるとは思わなかったのであろう。騒ぎを聞きつけて出てきたはいいが全員が軽装である。青を基調に統一された清楚さを思わせる服装であるが防御力は皆無のようだ。 一人を除く全員が腰にショートソードを帯びており、何人かはすでに柄に手をかけていた。残りの1人はローブを着ており手には杖を持っている魔術師であった。


「何の用かと聞いておるのだ!礼儀も知らぬ平民風情が目障りな!」


 喋ろうともしない侵入者を見て、はき捨てるように言い放ちながら語気を強める。


「まあまあルーカス殿、そう怒らずに。これまでもこの屋敷に来た者達は居ましたでしょう。コレも用件はそう変わりますまい。」


 激昂する男とは対照的にクラウドを見て笑みを浮かべる小太りの貴族。


「あぁ、なるほど。しかし必死なのは分かるが礼儀知らずな。」

 ルーカスと呼ばれた男は迷惑そうに顔をしかめている。

「まぁ、こいつは外れのようですな。とても我々を満足させる程持っているとは思えん。」


 もう一人の貴族がヤレヤレといった風に言う。


「・・・確かに。ならばお前の家族に娘がおるのか?本人を連れてこなくば話は進めんぞ?」


 どうやら2人の貴族はクラウドが賄賂を持ってきたか、もしくは女を世話しに来たと思ったようだ。


「それとももう一つの用件のほうか?名前を言ってみろ。金額次第で家に帰らせてやるぞ。まぁ帰ってもいいのは私たちが飽きた女だけだがな。はーはっはっ。」


 あまりの言葉に目眩がしそうになりながら、少しでも冷静さを取り戻そうとクラウドは呼吸を整えた。

「ふ~・・・」

 ようやく何かを話そうとする侵入者に視線が集まる。


「・・・予想以上のゲス揃いだな。俺の用件はどちらでもない。油虫ほどの価値もない分際で、汚い口で無駄に喋るな。貴様らの声を聞くだけで気が滅入る。」


・・・取り戻せなかったようだ。


 気おくれする様子も無く話すクラウドを見て、ルーカス達の前に立つ兵士の一人が剣を抜いた。


「ならば貴様は何をしに来た。領主の屋敷に許しも請わず入り込むなど。返答次第ではこの場で斬って捨てるぞ!」


「何が領主だ。人を苦しめるしか能がない無能領主なんぞこっちから願い下げだ。貴様らは好き放題やったんだ。俺もやらせてもらうだけだ。」


「貴様!これは明確な反乱だぞ!これ以上の「【氷結の棺フリージングコフィン】」」


 話しを遮りクラウドは魔法を唱えた。
 氷結の棺は氷属性の範囲魔法の一つ。効果範囲内をみるみる凍りつかせていく。


「なっ!無詠唱!?しかも複合属性だとっ!!」


 現在の魔術師は4属性の精霊と契約し魔法を使うが、複数の属性を持つ強力な魔術師は持っている属性を組み合わせて使うことが出来る。
[*4属性は火・水・風・土の4種類で各属性はそれぞれ火>風>土>水>火の優位性を持つとします。複合魔法の相関関係も含めていつか後述いたしますが、この時点では火>氷とさせて頂きます。]

 水と風の属性を持つ魔術師が操ることが出来る氷属性。それを無詠唱で操る男を見て、兵士側の魔術師が目を見開き驚愕している。
 しかし、仮にもし氷属性を使う魔術師がこの場にいたなら、その魔術師は困惑しながら言っただろう。「こんな魔法など見たことが無い」と。



「馬鹿やろう!驚いている場合かっ!テメェも魔術師なら何とかしやがれエイベル!」


 既に屋敷の床は凍てつき兵士達は膝下までも凍りついている。一歩も動けなくなった兵士達は剣の柄や鞘を使って氷を砕こうとしているが凍りつくスピードの方が早いようだ。
 このままではまずいと仲間の魔術師に現状の打破を頼む。仲間の声で正気に戻ったエイベルと呼ばれた魔術師が詠唱を始める。

「くっ!炎よ燃えろ。飛来する火球【ファイアーボール】!」


 しかし何も起こらない。


「な、何っ?一体・・・?」


 混乱しているエイブルに向かって次々に声がかかる。


「ば、ばっか野郎!こんな時にミスってんじゃねぇ!!」
「急げ!もう俺は胸まで氷が来てるんだぞ!」


 術者を中心に凍りついていくため、クラウドに近い者達は進行が早い。既に身体の半分以上が氷に覆われている者もいる。


「【ファイアーボール】!【ファイアーボール】!そんな馬鹿な・・・一体なぜ・・・?」


 必死になって唱えるが何度唱えても魔法は発動しなかった。

 精霊魔法は魔法を使う時、契約した精霊の力を借りる。それは精霊を無力化させれば魔術師は魔法が使えないことを意味する。



 屋敷に入ったクラウドは入口すぐのエントランスの広さを見て、屋敷の奴らが出てくれば此処で戦闘になると思った。出て来た奴らの動きを氷で封じようと考えたクラウドは、氷に優位性を持つ火属性を支配領域に入れようと考えた。

 クラウドはバカ貴族達がわめき散らしている時間を使い周囲から火の精霊を100体以上集めていた。自分の魔力を分け与えて強化した火の精霊達を更に一体に結合させ、サラマンダーと呼ばれる上位精霊にクラスアップさせる。
 サラマンダーを支配下にしたことで既に屋敷内の火属性魔力はほぼ完璧にクラウドの支配下に置かれていた。


 魔術師は自身の魔力を契約した精霊に通して各属性魔力へと変換し魔法を使う。しかしエイブルの火の精霊は自身より上位存在であるサラマンダーの支配領域から逃れられずに力を封じ込まれていた。

 古代の魔法使い達にとって精霊とは世界のどこにでもいるありふれた隣人である。必要なときに魔力を媒介にしてコンタクトを取ることが出来る。そんな彼らにとって戦闘とは『いかに自分が使う属性魔力の支配領域を確保するか』、この一言に尽きると言える。
 それに比べて召還の儀では複数属性を持てることはあっても、精霊は1属性に1体のみである。これでエイブルが対抗出来るはずがない。最も彼は何が起きているかすら分かってないようだが。
 ちなみにエイブルが火属性の魔術師である結果、魔法そのものが封じられていることなどクラウドは知る由もない。クラウドからすれば一つの属性しか使えない魔法使いなどあり得ないのだから。


 そのため戦況を圧倒的優位に進めているハズのクラウドもまた途惑っていた。


「(一体どういうことだ?)」


 魔法を1度使っただけでほぼ壊滅状態にある相手を見ながら、自分がいた時代との差に驚いていた。


「(これは一度今の世の魔法レベルを調査しないとな。変に目立って面倒な奴らきぞくの目になんて留まりたくねぇわ)」

 
 そんなことを思いながら

 クラウドは戦闘を終わらすために目の前に手を突き出した。


「そこそこ参考にもなった。【二重詠唱オーバーマジック
氷転換アイスリプレイス】【嵐の道テンペストロード】」


 外の世界に出た魔法使いの初戦闘は、こうしてものの数分で終わることとなった。

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