11 / 128
第1章 古代の魔法使い
準備完了
しおりを挟む
その後、村長の家で進められた話は非常にスムーズであった。
マーサに紹介されたあと、トント村で薬師として働きたいと伝えると「この村には治療師はおろか薬師もいないからありがたい」と二つ返事で了承された。
また、薬草の採取がしたいと伝えたところ、奥まで行かないことを条件に村の東にある森に入る許可も貰うことが出来た。
また診療所をトント村全体で協力して作ると言ってきたので、そこまでは甘えられないと断ったが結局ロデリックに押し切られた。村の皆が世話になるのだからと。大体一か月程度で簡単な診療所をマーサ婆さんの家の隣に建てることが決まった。
「(ありがたい。これで何の心配もないぞ。)」
クラウドがロデリックの家に来たのは、一つ目はマーサ達への対応を確認すること。自分が居ない時にルーク達に何かあってはいけないからだ。
二つ目が森へ入る許可を得ることであった。それに加えて、約一か月の準備期間が出来た。
これでクラウドはトント村の生活改善計画を大きく進めることが出来る。
そこまで話が進んだところでロデリックの息子エドが帰ってきて「水場が完全に開放されていた」と報告してくれた。
ロデリックはすぐさまエドに村の皆に知らせるよう指示を出す。また、それと同時にマーサ達への態度を改めることと、マーサが世話をしているクラウドという若者が村で貴重な薬師であることを合わせて説明するように言う。
満面の笑みを浮かべてエドが外へと駆け出していった。
~それから数日後~
「ねぇ、今日もクラウドは森にいくの?」
「・・・ダメだぞ。ついて来てもいいが、昨日と同じ森の入口までだ。森の中には連れて行けない。」
「えぇー、ちょっとくらいいいじゃん!」
ルークが森へ連れていけとクラウドに頼んでいる。と、そこにマーサ婆さんからの横やりが入った。
「これルーク!クラウドの邪魔をするでないぞ。こやつはこれでも村の仕事でやっておるんじゃ。」
「これでもはひどいぜ、マーサさん。」
そう言いながら準備を終わらせる。
森用に皮のズボンを履き採取用のカゴを背負っていた。
「それじゃあガストンさんのところに行ってくるよ。」
クラウドはそう言うと隣の家へと向かう。
「クラウドって森に行く前に必ずガストンさんの家に行くよね、何でだろう?」
不思議そうにルークが声を出すと
「そりゃ当たり前さね。森に入るのに、森の中に詳しい猟師のガストンに会いに行かんでどうする。何処でどんな獣がいたかなどが分かれば、近寄らんですむじゃろ。」
「ん?・・・ふーん、そうか~。」
ルークはそう言いながらもまだ納得した様子がない。
クラウドは皆の前で魔法を使った事がない。しかしルークは薄々ながらもクラウドがかなりの腕前の魔術師ではないかと思っていた。何せ出会った時に聞いたこともない魔法の話をしていたのだから。
しかし今、村人達が出入りする程度の森にそこまで警戒する様子を見て、自分の勘違いかとも思い始めていた。
「クラウド、一人で森になんか入って大丈夫かな・・・」
と心配そうな声を漏らす。
尚、クラウドは自分のことを魔術師と呼ぶことはない。必ず「魔法使い」と名乗る。
それは遥か昔、物語でしか聞いた事もないような頃
人間が魔法を使う事が出来なかった時代の人々は、偶に目撃する精霊などが火や水を操る奇跡を魔法と呼んだとされる。そこから魔力の存在を知り、研究の結果魔法使いが生まれた。
不可能を可能にする奇跡の使い手、それが魔法使いと呼ばれる存在である。
魔法使いに不可能は無く、得手不得手が無いことを誇りとした彼らは、真理の探究者としてあらゆる術をその身に収めた。
そんな彼らにとって『魔術師』とは文字通り『魔法を使う術を知る者』でしかない。
だが古代の魔法使い達は魔術(魔法を使う術(すべ))は勿論のこと、格闘術、武術、戦術、生活術等々、膨大な学問を学び自身を鍛え上げたという圧倒的な矜持を持つ。
「魔法使い」とは古代における奇跡の体現者の尊称なのである。
つまり、クラウドにとって魔術師とは蔑称であった。
ルークに心配されているなどつゆ知らず、クラウドはガストンの家に来ていた。
「度々すいません、ガストンさん。」
そう挨拶するクラウドにガストンが返す。
「何を言ってる。お前が薬師をしてくれる事になって皆大助かりだ。特に俺たち猟師なんか毎日傷を負うんだからな。全く、お前は本当にタイミングがいい。村の問題が片付いた時に、薬師のお前がマーサさんのところで世話になるとはな。今までマーサさん達に冷たくしていた連中も、お前に世話になる以上は態度を改めにゃならん。」
世の中にはこんな事もあるんだなと豪快に笑う。
クラウドは領主の館から帰った後、ガストンの家に行き井戸が解放された事を話していた。また、自分も権力者に睨まれるのを避けるために、話を聞いても力になれなかったとこも詫びていた。
お互いがタニアを助けられなかったことで若干気まずい雰囲気であったが、それはさておき、村はもう助かったのだと胸を撫で下ろしていた。そして今後は協力して村を良くしていこうなどと話していた。
尚、クラウドは自身の経験から自分が魔法使いであることを可能な限り周囲に言うつもりはない。
自分を利用するような権力者などに目をつけられては堪らないからだ。そして、そうなればまず確実に脅す材料としてルーク達3人は狙われるだろう。
それから数日の間、クラウドは事あるごとにガストンの家に行っては世間話をしていた。話は殆どが森の中についてで、ガストンはクラウドが危険を避ける為に危ない獣の目撃情報などの情報を集めに来ていると思い可能な限りの注意事項を添えて話しをしていた。
クラウドがガストンから仕入れた情報は簡単に言うと次のようなものであった。
①森は3つの区域に分けられている。
一、中心に強い魔物の生息域(中心部)がある
二、それを囲うような形で中心より弱い魔物が住む生息域(中層部)がある
三、最後に一番外側に猟師達の獲物となるような獣が住んでいる生息域(外縁部)がある。
②外縁部でも少し奥へ行くと熊なども出て危険である。
③最近は森の外縁部へ行くと北部の方がよく獲物が取れる。
「ありがとう、ガストンさん。それじゃあ今から東の森まで行って採取してくるよ。」
「おう、気をつけてな。くれぐれも北側へは行くなよ。南側の方が今は森が大人しいからな。」
ガストンの言葉を受け、クラウドは「はい、行ってきます!」と返事を返しながら森へと向かう。
「さてと、昨日までで薬草の準備はほとんど終わった。今日からが本番だ。せっかく森に入る許可をもらったんだ、頑張るぜっ!」
気合の入った声が漏れるのだった。
マーサに紹介されたあと、トント村で薬師として働きたいと伝えると「この村には治療師はおろか薬師もいないからありがたい」と二つ返事で了承された。
また、薬草の採取がしたいと伝えたところ、奥まで行かないことを条件に村の東にある森に入る許可も貰うことが出来た。
また診療所をトント村全体で協力して作ると言ってきたので、そこまでは甘えられないと断ったが結局ロデリックに押し切られた。村の皆が世話になるのだからと。大体一か月程度で簡単な診療所をマーサ婆さんの家の隣に建てることが決まった。
「(ありがたい。これで何の心配もないぞ。)」
クラウドがロデリックの家に来たのは、一つ目はマーサ達への対応を確認すること。自分が居ない時にルーク達に何かあってはいけないからだ。
二つ目が森へ入る許可を得ることであった。それに加えて、約一か月の準備期間が出来た。
これでクラウドはトント村の生活改善計画を大きく進めることが出来る。
そこまで話が進んだところでロデリックの息子エドが帰ってきて「水場が完全に開放されていた」と報告してくれた。
ロデリックはすぐさまエドに村の皆に知らせるよう指示を出す。また、それと同時にマーサ達への態度を改めることと、マーサが世話をしているクラウドという若者が村で貴重な薬師であることを合わせて説明するように言う。
満面の笑みを浮かべてエドが外へと駆け出していった。
~それから数日後~
「ねぇ、今日もクラウドは森にいくの?」
「・・・ダメだぞ。ついて来てもいいが、昨日と同じ森の入口までだ。森の中には連れて行けない。」
「えぇー、ちょっとくらいいいじゃん!」
ルークが森へ連れていけとクラウドに頼んでいる。と、そこにマーサ婆さんからの横やりが入った。
「これルーク!クラウドの邪魔をするでないぞ。こやつはこれでも村の仕事でやっておるんじゃ。」
「これでもはひどいぜ、マーサさん。」
そう言いながら準備を終わらせる。
森用に皮のズボンを履き採取用のカゴを背負っていた。
「それじゃあガストンさんのところに行ってくるよ。」
クラウドはそう言うと隣の家へと向かう。
「クラウドって森に行く前に必ずガストンさんの家に行くよね、何でだろう?」
不思議そうにルークが声を出すと
「そりゃ当たり前さね。森に入るのに、森の中に詳しい猟師のガストンに会いに行かんでどうする。何処でどんな獣がいたかなどが分かれば、近寄らんですむじゃろ。」
「ん?・・・ふーん、そうか~。」
ルークはそう言いながらもまだ納得した様子がない。
クラウドは皆の前で魔法を使った事がない。しかしルークは薄々ながらもクラウドがかなりの腕前の魔術師ではないかと思っていた。何せ出会った時に聞いたこともない魔法の話をしていたのだから。
しかし今、村人達が出入りする程度の森にそこまで警戒する様子を見て、自分の勘違いかとも思い始めていた。
「クラウド、一人で森になんか入って大丈夫かな・・・」
と心配そうな声を漏らす。
尚、クラウドは自分のことを魔術師と呼ぶことはない。必ず「魔法使い」と名乗る。
それは遥か昔、物語でしか聞いた事もないような頃
人間が魔法を使う事が出来なかった時代の人々は、偶に目撃する精霊などが火や水を操る奇跡を魔法と呼んだとされる。そこから魔力の存在を知り、研究の結果魔法使いが生まれた。
不可能を可能にする奇跡の使い手、それが魔法使いと呼ばれる存在である。
魔法使いに不可能は無く、得手不得手が無いことを誇りとした彼らは、真理の探究者としてあらゆる術をその身に収めた。
そんな彼らにとって『魔術師』とは文字通り『魔法を使う術を知る者』でしかない。
だが古代の魔法使い達は魔術(魔法を使う術(すべ))は勿論のこと、格闘術、武術、戦術、生活術等々、膨大な学問を学び自身を鍛え上げたという圧倒的な矜持を持つ。
「魔法使い」とは古代における奇跡の体現者の尊称なのである。
つまり、クラウドにとって魔術師とは蔑称であった。
ルークに心配されているなどつゆ知らず、クラウドはガストンの家に来ていた。
「度々すいません、ガストンさん。」
そう挨拶するクラウドにガストンが返す。
「何を言ってる。お前が薬師をしてくれる事になって皆大助かりだ。特に俺たち猟師なんか毎日傷を負うんだからな。全く、お前は本当にタイミングがいい。村の問題が片付いた時に、薬師のお前がマーサさんのところで世話になるとはな。今までマーサさん達に冷たくしていた連中も、お前に世話になる以上は態度を改めにゃならん。」
世の中にはこんな事もあるんだなと豪快に笑う。
クラウドは領主の館から帰った後、ガストンの家に行き井戸が解放された事を話していた。また、自分も権力者に睨まれるのを避けるために、話を聞いても力になれなかったとこも詫びていた。
お互いがタニアを助けられなかったことで若干気まずい雰囲気であったが、それはさておき、村はもう助かったのだと胸を撫で下ろしていた。そして今後は協力して村を良くしていこうなどと話していた。
尚、クラウドは自身の経験から自分が魔法使いであることを可能な限り周囲に言うつもりはない。
自分を利用するような権力者などに目をつけられては堪らないからだ。そして、そうなればまず確実に脅す材料としてルーク達3人は狙われるだろう。
それから数日の間、クラウドは事あるごとにガストンの家に行っては世間話をしていた。話は殆どが森の中についてで、ガストンはクラウドが危険を避ける為に危ない獣の目撃情報などの情報を集めに来ていると思い可能な限りの注意事項を添えて話しをしていた。
クラウドがガストンから仕入れた情報は簡単に言うと次のようなものであった。
①森は3つの区域に分けられている。
一、中心に強い魔物の生息域(中心部)がある
二、それを囲うような形で中心より弱い魔物が住む生息域(中層部)がある
三、最後に一番外側に猟師達の獲物となるような獣が住んでいる生息域(外縁部)がある。
②外縁部でも少し奥へ行くと熊なども出て危険である。
③最近は森の外縁部へ行くと北部の方がよく獲物が取れる。
「ありがとう、ガストンさん。それじゃあ今から東の森まで行って採取してくるよ。」
「おう、気をつけてな。くれぐれも北側へは行くなよ。南側の方が今は森が大人しいからな。」
ガストンの言葉を受け、クラウドは「はい、行ってきます!」と返事を返しながら森へと向かう。
「さてと、昨日までで薬草の準備はほとんど終わった。今日からが本番だ。せっかく森に入る許可をもらったんだ、頑張るぜっ!」
気合の入った声が漏れるのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
100
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる