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第2章 異世界勇者
解放された3人
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ドラン連邦国の王都サン・ミゲルにある王城の横には異世界人たちが寝起きする屋敷がある。その一室で現在レムス国王と軍務総長であるロンガが勇者たちに詰め寄っていた。
「一体何を考えているのだっ、人質を無断で返すなど越権行為にも程があるぞ!」
「そうは言うけどロンガさんよ・・・、あれは無理だわ。」
「無理?何が無理だというんだっ?こういう時のためにお前たちには便宜を図ってきただろう!?どうしてこうも非協力的なんだ!」
息巻くロンガであるが、穏健派リーダーのミユキから事情説明を受け言葉を無くす。
しかし、それはロンガには直ぐには信じることが出来ないほどの話しであった。ドラン連邦国の軍事を一手に担うロンガは異世界人たちの非常識な実力については熟知していた。その彼らが敵わない相手がいるなど信じられるはずがない。しかし、思考とは裏腹に突きつけられた現実は認めるしかないものであった。
見せられたのは3人の死体。
のどから首のうしろにかけて開けられた穴は彼らが即死だったことの証明である。
「ば、馬鹿な・・・」
「信じられないのは分かるけど、これは紛れもない現実よ。私たち全員で一斉にかかればどうなるかは分からない。けど間違いなく甚大な被害が出るわ。ナオキ達からの手紙にも絶対に敵対するなと書いてあった。私たちはあの男とは戦えないわ。」
騎士や戦士では無い彼らは自分の命より国のメンツを優先することはないし、命を懸けて王命に殉じることも無い。あくまでも自分たちに命の危険が無い場合に限り協力するのである。
しかし異世界人の戦力が脅しにならないならドランが大国ユーテリアに勝る点は無い。この交渉はもう終わったも同然である。皮肉なことにそれに気づいていたのはクラウドの実力を知る2人、現在別室にて待たされているユーテリア王国の宰相エリックと騎士団長のファンクのみであった。
「な、なんてことだ・・・」
ようやくそれを知ったレムス達は今後の交渉で自分達がどれほどの負担を負わされるのかを考えて頭を抱えている。なにせ示威を目的として相手の王族まで攫ったのだ。その賠償を考えると体が震える。
結局、局面を逆転する一手など考え付くはずも無く、レムスはユーテリア王国へ正式な詫び状を出すはめになる。相手に非を認めさせ、人質にされたエドワード達も取り返す。今回の一件についての金銭的な賠償の約束も取り付けた今、エリック達からすればこの交渉はまさに「完勝」の二文字である。
「それでは詳しい金額などは追って連絡をいたします。」
冷静な表情でそう告げるエリックの前でドラン連邦国の面々は苦虫を噛み潰したような表情である。だが今更出来る返事など一つしか無かった。
「・・・分かった。連絡を待つ。金額によっては支払方法については別途案を送る。」
「仕方あるまい。そう簡単に払える金額では無いだろうからな。それでは我らはこれで失礼しよう。」
エリックの言葉に肝を冷やしたレムスが目を瞑ってうな垂れている。その光景をもって今回の外交は終わりを告げるのであった。
エリック達一行はまた来た道を帰る為、出発の準備をしている。そんな中、攫われていたアンドリュー国王の長男エドワード、次男ヘンリー、次女オリヴィアがクラウドに会いにやって来た。
「失礼する、クラウド殿少し良いだろうか?」
「うん?」
荷造りを手伝っていたクラウドが振り返ると、そこに居たのは一目で疲労が見て取れる3人であった。
「ああ、3人揃ってどうしたんだい?疲れているんだろ、準備は皆に任せて馬車で休んでいたらどうだ?」
相手が王族だろうとクラウドの態度に変わりはない。
そして本来なら不敬だと咎めるだろう彼らがそれを言うはずもない。
「はは、もちろん休ませてはもらいます。が、それよりも我らは貴方にまだきちんと感謝を伝えられていない。今回の一件、ありがとうございました。レインフォードに戻ったならば、必ずやこの恩に報います。」
兄弟を代表し長男エドワードが頭を下げた。その後ろでヘンリーとオリヴィアも頭を下げている。
「気にすることもないさ。まぁそうだな・・・、今回のことを少しでも恩に感じて貰えるなら頼みがあるんだがいいかい?」
「我らに出来ることならば何なりと!」
「そう気を張らなくてもいいって。頼みってのはリリーちゃんのことだ。」
それほど仲が良いわけではない末の妹の名前が出てきて3人はきょとんとしている。
「リ、リリーがどうかしましたか?」
「あぁ、以前に会う機会があってな。今回ドランに俺が来たのもその関係だ。その時聞いたんだが、あまり兄弟で話しはしないらしいな?良ければこれからは気に掛けてやってくれよ。」
「は、はぁ。わ、分かりました。クラウド殿がそう仰るならば!」
エドワードがどもりながらも返事をする後ろで、意味が分からないヘンリーとオリヴィアは互いの視線を合わせていた。
結局その後にヘンリーとオリヴィアも直接礼を告げた後、エリックが用意していた王族用の馬車に3人で乗り込むため移動する。
「さあこちらでございます。」
ファンクが3人を案内しているとオリヴィアが尋ねた。
「ねぇ、ファンク。クラウドさんってどんな人なの?」
「クラウド殿がどうかしましたか?」
「ついさっき3人でお礼を言いに行ってきたの。そうしたら何て言ったと思う?」
「クラウド殿がですか?想像もつきませんが、少なくとも恩賞なんかは興味が無さそうですね。早く帰って家族に会いたいとかでしょうか?」
その言葉を聞いたヘンリーが口を挟む。
「恩賞に興味が無いとはどういうことだ?クラウド殿が異世界人を倒したからこそ我らは解放されたのだろう?」
「そのとおりでございます。ただエリック様がクラウド殿に同行してくれる理由を聞いた時、リリー殿下の家族が攫われたと知ったら悲しむ人が居るからだと答えたと聞いています。」
「な、何・・・?そんな理由でドランまで来てくれたのか?」
「なんという方だ・・・」
「リリーったらいつの間にクラウドさんみたいな方と知り合っていたのかしら。帰ったら聞かなくっちゃ!」
思い思いに話しが弾む。自由に出来る話しにどうやらようやく虜囚では無くなった実感が沸いてきたようだ。
そして一路ユーテリア王国へ向け馬車は出発したのであった。
「一体何を考えているのだっ、人質を無断で返すなど越権行為にも程があるぞ!」
「そうは言うけどロンガさんよ・・・、あれは無理だわ。」
「無理?何が無理だというんだっ?こういう時のためにお前たちには便宜を図ってきただろう!?どうしてこうも非協力的なんだ!」
息巻くロンガであるが、穏健派リーダーのミユキから事情説明を受け言葉を無くす。
しかし、それはロンガには直ぐには信じることが出来ないほどの話しであった。ドラン連邦国の軍事を一手に担うロンガは異世界人たちの非常識な実力については熟知していた。その彼らが敵わない相手がいるなど信じられるはずがない。しかし、思考とは裏腹に突きつけられた現実は認めるしかないものであった。
見せられたのは3人の死体。
のどから首のうしろにかけて開けられた穴は彼らが即死だったことの証明である。
「ば、馬鹿な・・・」
「信じられないのは分かるけど、これは紛れもない現実よ。私たち全員で一斉にかかればどうなるかは分からない。けど間違いなく甚大な被害が出るわ。ナオキ達からの手紙にも絶対に敵対するなと書いてあった。私たちはあの男とは戦えないわ。」
騎士や戦士では無い彼らは自分の命より国のメンツを優先することはないし、命を懸けて王命に殉じることも無い。あくまでも自分たちに命の危険が無い場合に限り協力するのである。
しかし異世界人の戦力が脅しにならないならドランが大国ユーテリアに勝る点は無い。この交渉はもう終わったも同然である。皮肉なことにそれに気づいていたのはクラウドの実力を知る2人、現在別室にて待たされているユーテリア王国の宰相エリックと騎士団長のファンクのみであった。
「な、なんてことだ・・・」
ようやくそれを知ったレムス達は今後の交渉で自分達がどれほどの負担を負わされるのかを考えて頭を抱えている。なにせ示威を目的として相手の王族まで攫ったのだ。その賠償を考えると体が震える。
結局、局面を逆転する一手など考え付くはずも無く、レムスはユーテリア王国へ正式な詫び状を出すはめになる。相手に非を認めさせ、人質にされたエドワード達も取り返す。今回の一件についての金銭的な賠償の約束も取り付けた今、エリック達からすればこの交渉はまさに「完勝」の二文字である。
「それでは詳しい金額などは追って連絡をいたします。」
冷静な表情でそう告げるエリックの前でドラン連邦国の面々は苦虫を噛み潰したような表情である。だが今更出来る返事など一つしか無かった。
「・・・分かった。連絡を待つ。金額によっては支払方法については別途案を送る。」
「仕方あるまい。そう簡単に払える金額では無いだろうからな。それでは我らはこれで失礼しよう。」
エリックの言葉に肝を冷やしたレムスが目を瞑ってうな垂れている。その光景をもって今回の外交は終わりを告げるのであった。
エリック達一行はまた来た道を帰る為、出発の準備をしている。そんな中、攫われていたアンドリュー国王の長男エドワード、次男ヘンリー、次女オリヴィアがクラウドに会いにやって来た。
「失礼する、クラウド殿少し良いだろうか?」
「うん?」
荷造りを手伝っていたクラウドが振り返ると、そこに居たのは一目で疲労が見て取れる3人であった。
「ああ、3人揃ってどうしたんだい?疲れているんだろ、準備は皆に任せて馬車で休んでいたらどうだ?」
相手が王族だろうとクラウドの態度に変わりはない。
そして本来なら不敬だと咎めるだろう彼らがそれを言うはずもない。
「はは、もちろん休ませてはもらいます。が、それよりも我らは貴方にまだきちんと感謝を伝えられていない。今回の一件、ありがとうございました。レインフォードに戻ったならば、必ずやこの恩に報います。」
兄弟を代表し長男エドワードが頭を下げた。その後ろでヘンリーとオリヴィアも頭を下げている。
「気にすることもないさ。まぁそうだな・・・、今回のことを少しでも恩に感じて貰えるなら頼みがあるんだがいいかい?」
「我らに出来ることならば何なりと!」
「そう気を張らなくてもいいって。頼みってのはリリーちゃんのことだ。」
それほど仲が良いわけではない末の妹の名前が出てきて3人はきょとんとしている。
「リ、リリーがどうかしましたか?」
「あぁ、以前に会う機会があってな。今回ドランに俺が来たのもその関係だ。その時聞いたんだが、あまり兄弟で話しはしないらしいな?良ければこれからは気に掛けてやってくれよ。」
「は、はぁ。わ、分かりました。クラウド殿がそう仰るならば!」
エドワードがどもりながらも返事をする後ろで、意味が分からないヘンリーとオリヴィアは互いの視線を合わせていた。
結局その後にヘンリーとオリヴィアも直接礼を告げた後、エリックが用意していた王族用の馬車に3人で乗り込むため移動する。
「さあこちらでございます。」
ファンクが3人を案内しているとオリヴィアが尋ねた。
「ねぇ、ファンク。クラウドさんってどんな人なの?」
「クラウド殿がどうかしましたか?」
「ついさっき3人でお礼を言いに行ってきたの。そうしたら何て言ったと思う?」
「クラウド殿がですか?想像もつきませんが、少なくとも恩賞なんかは興味が無さそうですね。早く帰って家族に会いたいとかでしょうか?」
その言葉を聞いたヘンリーが口を挟む。
「恩賞に興味が無いとはどういうことだ?クラウド殿が異世界人を倒したからこそ我らは解放されたのだろう?」
「そのとおりでございます。ただエリック様がクラウド殿に同行してくれる理由を聞いた時、リリー殿下の家族が攫われたと知ったら悲しむ人が居るからだと答えたと聞いています。」
「な、何・・・?そんな理由でドランまで来てくれたのか?」
「なんという方だ・・・」
「リリーったらいつの間にクラウドさんみたいな方と知り合っていたのかしら。帰ったら聞かなくっちゃ!」
思い思いに話しが弾む。自由に出来る話しにどうやらようやく虜囚では無くなった実感が沸いてきたようだ。
そして一路ユーテリア王国へ向け馬車は出発したのであった。
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