わたし、九尾になりました!! ~魔法と獣医学の知識で無双する~

惟名 水月

文字の大きさ
3 / 51
妖狐の里編

3話 妖狐の里

しおりを挟む
 森の中、開けた場所に妖狐の里はあった。

 ――ここが妖狐の里じゃ

「やっとついた……」

 しかし、ほっとするのもつかの間、俺の腕の中には怪我をした小さな狐が今もまだ辛そうにしている。早く治療をしてあげなくては。

 里に入ろうとすると、耳としっぽの生えた人の姿をした妖狐が多数集まってきた。そして、狐たちは俺の腕に抱かれた小さな狐を見て状況を何となく察したようだが、みなおびえて近寄ってはこない。

「なんか、歓迎されてないみたいな雰囲気だぞ」

 サクヤは答える

 ――後ろにいるオーガのせいじゃろう、まて、わらわが取り持つわい

 そうか、オーガさんもついてきてたの忘れてたわ。流石にオーガはこの里には招かざる客だろう、俺はオーガに森に戻るよう言った。サクヤは神通力で里の皆に事の顛末を伝えてくれたらしい。先ほどまでおびえていた狐たちが走り寄ってきた。

「イーナ様ありがとうございます!」
「ようこそ妖狐の里へ!」
「サクヤ様だけでなくルカ様までお助け頂き感謝しかございません!」

 何という歓迎ムードだ。獣医師の仕事と言えば、注射を打つなど、基本的に痛いことを動物にするため、近寄れば逃げるのが常であった。動物たちにこんなに歓迎してもらえた経験は今までにない。聞けば、ルカという名の先ほど助けた小さな狐は、この里の長の娘らしい。

「つまり、お前の娘って事か?」

 俺はサクヤに訪ねた。

 ――ちがうの、わらわは妖狐一族の長であって、妖狐の里は各地にあるのじゃ。

 なるほどね、理解した。そして、歓迎ムードの中ではあったが、俺には早急に、なさねばならぬ事があった。ルカの治療である。

「誰か、包帯と布は持っていませんか!」

 里の者達に訪ねると、包帯も布もこの世界にも存在しているようだった。そこそこ文明は発展している世界なのかな。

 さっき森で拾ったちょうどよさげな木の枝とルカの腕を包帯で固定する。とりあえずは、痛むかも知れないがこれで自然に治癒するだろう。

「痛かったな、よく頑張ったな」

 俺はそう言ってルカの頭を優しく撫でた。妖狐達は賢いだろうし、犬みたいにじゃれて固定をずらす心配もないだろう。

「氷とかあるのか?」

 ――なに氷くらい妖狐の力ですぐに作れるわ

 そう言うと俺の右腕が勝手に動く。その先にはこぶし大くらいの氷の塊が作られていた。九尾すごい。

「これで冷やしておけば、大丈夫だよ」

 ――ぬ、そんな処置だけで大丈夫なのか

 サクヤは問いかけてきた。

「おそらく、左橈骨の閉鎖骨折だから固定だけで外科治療はしなくて大丈夫だと思う。きっと、この子達なら賢いから固定も動かないだろうしね。本当はレントゲンを撮った方が良いんだけど」

 ――れんとげんとは何じゃ?

「X線っていう目に見えない光を使って身体の中を見るのさ、厳密に言えば光じゃないんだけどね」

 ――えっくすせん?よくわからんが、身体の中を見れればいいのじゃろ?それなら透視を使えば一発じゃろ?

 サクヤは自慢げに言う。透視なんて、そんなチートみたいな技使えるのかい。

――イーナにも見せてやろう。ルカの腕の中が見たいのじゃろ?

 そう言うとルカの腕の中の様子が脳裏に浮かんでくる。まさにレントゲンそのものであった。

「サクヤ!すごいよ!これならレントゲンがなくても体内の様子が見れる!」

 透視で見たルカの橈骨は骨折面が綺麗な横骨折であった。予想通り、手術は必要ないだろう。むしろ、こんな菌が一杯いるような環境で手術なんてしたら感染によって酷いことになってしまう。

「じゃあ、サクヤの身体の中も透視で見れば原因は分かるかもね」

 ――ふむ、そうしたいのはやまやまじゃが、憑依をとくと、イーナはわらわの能力を使えなくなってしまうからのう、なかなか難しいと思うぞ。わらわ自身の身体の中は見えないしな

 自分自身には使えないのか。まだまだ道のりは長そうだな……

 ひとまずはルカの処置も終わり、今日はルカの家つまり、里長の家にお世話になることになった。里長であるルカの父親はルクスというらしい。ルクスは盛大な歓迎会を俺のために開いてくれた。ルカは、疲れてしまったのか、すっかり眠ってしまったようだ。

「いや、こんなおおげさな……」

「何を言いますかイーナ様!イーナ様はルカの命の恩人、ましてや今やサクヤ様と共にあられる!我々にとっては神様も同然なのですぞ!」

 ――イーナよ!こんなごちそうまで出して貰って!わらわに感謝するが良いぞ

 歓迎されるのは大変ありがたい。しかし、その食卓に並んでいたのは、野ねずみの丸焼きやトカゲのスープといった野性味溢れるごちそうであった。火を通してあるだけマシではあるが。

 ――む、人間にとってはネズミやトカゲはごちそうではないのかの、もったいないことじゃ。

 サクヤは残念そうに呟く。そしてルクスは早く食べて欲しそうな目でこちらの方をキラキラと見ている。俺はなんとか満面の笑みを崩さないように、そのごちそう達を平らげた。


「ネズミなんて食べたの初めてだよ……」

 俺はなんとか気持ち悪さと戦いながら寝室へとたどり着いた。
 用意された寝室は、ベッドと机と部屋を照らすたいまつだけがある、シンプルな部屋だった。
 そして、木で作られたベッドの上にはわらで編まれた布団といっていいのか、ござといった方が適切であろうものが敷かれていた。ベッドに腰掛けるとサクヤが話しかけてきた。

 ――イーナよ、とりあえずご苦労じゃった。しばらくはこの里にいるがよい。まずは情報収集が大切じゃ。わらわも里の外のことはよくわからないしのう。それに病に苦しむ里の者も多数おるようじゃ。明日以降はそやつらの面倒をみてくれ

「情報収集か……流行病って言うのはいつ頃から流行りだしたんだ?」

 ――そうじゃの、ほんの数年前じゃな

 そんな最近なのか、一気に広がったんだな……

 ベッドに横たわると、今日の疲れがどっと出たのか、睡魔が一気に襲ってきた。そしてすぐに俺の意識は遠のいていった。



……

「……だ…です」
「……にあれ……かう……………」

 ぼやぼやと浮かんでくる映像は、なにやら城らしき場所で2人の人が会話をしているシーンであった。

 そこにもう1人誰かが来るのが分かった

「……なら……くし……」

……

「……よ…」

「……よう」

「おはよう!!」

 目を覚ますと目の前には可愛らしい女の子がいた。

「誰!?」

「ルカだよ!!イーナ様!昨日はありがとう!!おかげで治ったみたい!!!」

 天真爛漫な少女は腕をぐるんぐるんと回す。

「待って!!待って!!!安静にしなきゃ!!!」

 ――大丈夫じゃ、妖狐の力なめるでないぞ

 サクヤの力を借りて、透視をすると、確かに昨日は完全に折れていた骨が、すっかり綺麗に結合していた。一晩ぐっすり寝ただけで治るなんて……

「……妖狐って怖い……」

 ――なにを今更

 サクヤは笑っていた。そして、ルカは人間で言う中学生くらいだろうか、だからこそ近くに顔があったとき少しどきっとしてしまったのだ。

「ルカって意外と大きかったんだな……狐の時は小っちゃかったから、まだ小っちゃい子だと思ってたよ!それに可愛いし」

「そーだよ!イーナ様と同じくらいなんだ!でもイーナ様の方が私よりずっと可愛らしいよ!」

 鏡の前で自分の姿を確認する。

 そこには、160cmにも満たないであろう、白い髪と黒い髪が混じった美少女が映っていた。

 こんな可愛かったの?!俺!

--そうじゃぞ。わらわの見た目に感謝するがよい

 この時ばかりは妖狐に感謝した。


………………………………………………………………………

 --同時刻

「あそこが妖狐の里かニャ?」

 妖狐の里にまた新たな来訪者が近づいていた。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。  だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。  趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?  ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。 ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...