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九尾転生編
26話 獣医師の役割
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「ほう、誰かが来るとは、久しぶりじゃな…… リラ以来かのう」
霧の中、進んだ俺達に何者かの声が聞こえた。敵意はなさそうである。
「私は九尾のイーナと言います。精霊の力を授かりたく、ここに参りました」
霧に向かって、俺が言うと、何者かは問いかけてきた。
「おぬしはなんのために力を欲す?」
「妖狐を守るためです。人間の脅威から」
「人間の脅威か…… またしても、人は誤った方向へ進もうとしているのか……」
なにやら落胆した様子で、何者かは呟いた。‘またしても’おれはその言葉に引っかかったのだ。
「あなたは、何か知っているのですか……?」
「先へ進め、この世界の真実を見せてやろう」
そういうと、何者かの気配は消え去った。
「世界の真実……」
俺だけじゃない。みな、困惑しているようだ。
「とりあえず、先に進んでみましょう!来いと言ってましたし!」
ナーシェの提案で、俺達は先に進むことにした。今更引き返すなんて選択肢はなかった。
しばらく進むと、なにやら大きな石がみえた。その前には輝く光る、小さな石版とそれをおさめる土台のようなものが一つだけぽつんと置いてあるようだ。
「その石版に触れるのだ。さすれば、世界の真実が見えるだろう」
再び何者かの言葉が聞こえる。その言葉に従って、俺は静かにその石版へと触れた。
触れるやいなや、眩しくも優しい光が俺達を包み込み、俺達はなにやら実験室のような場所にいた。
「ワープ……?」
しかし違うようだ。実験をしている人達はこちらの存在には気付いていないようだ。
それにしても……
「やけに文明が発展してないか?私達のいた世界とは全然違うじゃないか」
シータの言葉に同意する。
研究員達は何か話しているようだ。
『被検番号0052はどうだった?』
『魔鉱石の影響をもろに受けたようだ。すぐに死んでしまったよ……』
『今のところ、成功したのは狐と犬だけか……』
『動物愛護から訴えられそうだな…… 爬虫類とかはどうだ……?』
明らかに動物実験をしている様子だ。
その時施設に急にアラームが鳴り出した。
『ちっ…… またか…… おい、避難させるぞ!外に出したら面倒なことになる!』
……
そこでその光景は途切れ、俺達は再び霧の中へと戻っていた。
「なんだったんでしょうか?今の様子は…… この世界の話じゃなさそうですし……」
ナーシェは困惑したまま、口を開いた。
「それに、狐とか言ってたね!ルカ達に何か関係があるのかな!」
ルカもなにやら考えているようだ。
すると再び、何者かが語り出した。
「これは、映像と呼ばれるものでな、遙か昔の記憶だ。人間の残した記憶だ」
「記憶……? それに遙か昔って…… どういうこと?」
俺の言葉に何者かは、語りを続けた。
「この世界の歴史…… 遙か昔、人間の文明は高いテクノロジーを持っており、世界の中心であった。そして、人間は新たな物質を見つけ出した。魔鉱石というものだ」
「魔鉱石……」
しかし、仮に人間が技術を発展させていたとして、その文明はどこへ消えたというのか。
「そして、人間は欲深くも、魔鉱石を軍事目的にも用いたのだ。魔鉱石の力を使って兵器を大量に開発した」
「もしかして…… さっきの生物実験も魔鉱石を用いたものなの……?」
俺の言葉に何者かは同意をしてさらに続ける。
「その結果、不思議な力を使える動物たちが生まれた。人間はそいつらを戦争に用いようと考えたのだ。しかし、そう上手くは行かなかった。魔鉱石の暴走、オーバーテクノロジーの末、一度、人類は滅亡した」
「滅亡……」
「わしは、当時、動物実験の担当者でもあった。わしの産みだした、動物たち、例え兵器であったとしても、生き物である。愛着もある。だからこそ、わしは自分の動物たちと共をシェルターへと逃がした。人間が滅亡しても、この子達は生き残れるようにと」
「その中でも、特に上手く実験が成功したのが狐だ。彼らは元々知性も高く、すんなりと実験も成功した。わしの一番の自慢の子だった」
「それが、妖狐だって言うの……?」
「そう、しかし、彼らの中には、人間のDNAも組み込まれていた。その結果、再び、人間がこの世界に生まれてしまったというわけだ」
その言葉に、皆ショックを受け、顔を上げることが出来ないようだ。ルカは静かに口を開いた。
「じゃあ、ルカ達は……!人間によって作られたって事?」
「そうなるな」
「なんで……!」
ルカの言葉に臆する事なく何者かは語りを続ける。
「わしの願いは、わしの子供達…… 動物たちがのびのびと暮らせる世界を作ることだ。決して人間と動物が争うような社会を作りたいわけではない。だからこそ、人間が動物たちに害をなそうとしているなら止めて欲しい……」
「……」
何も言葉が出てこない。
「イーナよ、おぬしはこれを知ってどう思う?」
何者かの問いかけに、少し考えた後に、ゆっくりと口を開いた。
「……ルカ、ナーシェ、獣医師の役割ってなんだか知ってる?」
「……イーナ様? 動物を助けることじゃないの?」
「私もそうだと思います。違うのですか?」
2人は不思議そうな顔でこちらを見る。
「獣医師は動物の為に働く。動物の病気を治す。それは間違いじゃない。でもそれだけが正解でもない」
――どういうことじゃ?
サクヤも疑問を呈してくる。
「獣医師の本来の目的は、動物を通じて、人間の社会に貢献することだ。ある意味では人のための仕事なんだ」
「動物と人、両方に利益を与えなければ、それは獣医師とは言えない」
だからこそ……
「人と動物が争うなんて事……決してあってはいけないよ! 私は……」
静かに息を吸い、心を落ち着かせる。そして、俺は想いを吐き出した。
「獣医師として、それに九尾として、後は人間だったものとして…… 人間と動物たちの橋渡しをしたい。妖狐達が人間と笑って共生していける世界を作りたい…… それが私の… 役割だから……」
俺がそう言うと、ルカもナーシェもテオもシータも笑顔でこちらを見る。
「ルカはね!人間の世界で一杯楽しいものを見たよ!ナーシェみたいにいい人だっている!だから、ルカも人間とも仲良くしたい!誰かが傷つくような世界は嫌だ!」
ルカは力強く叫んだ。何か感慨深いものがある。あの森でケガをしていた小さな狐がここまで成長したのだから。
「ニャニャ! 流石イーナ様なのニャ!僕の見込んだ人なのニャ!一生ついて行くのニャ!」
このお調子者め…… そう思いながらも、俺はにやける表情を隠しきれなかった。
「私は一度、イーナに救われた身。だからこそ、イーナのために力を尽くそうではないか!」
「シータ……ありがとう」
「人間として!そんな状況放っておく訳にはいきません! それにイーナちゃんもルカちゃんも!テオくんも!可愛いですし!」
ナーシェは…… なんか、目的がずれてない……?
「ルート……ルートはどう思う?」
ルート自身迷っているようだ。無理もない。彼の場合、そんな単純な事情ではないだろう
「人間の事情など知らん!俺は俺の目的が達成出来ればそれでいい!今やるべき事は変わらない」
そう言いながらも、きちんと関係ない人間に手出しをしないという約束は守ってくれている。ルートのことも信じている。
「リラも同じように言っていた。人間と妖狐の、さしてはモンスター達との共生出来る社会を作りたいとな。そして、彼女は人間の世界でギルドと呼ばれる組織を作ったらしい。人間とモンスターの橋渡しをするために」
ナーシェはその言葉に1人呟いた。
「なるほど、ギルドはそういう役割があったのですね……」
「して、イーナ達よ。おぬしらは力が欲しいと言っていたな。わしもおぬしを信じよう。奥にある石、これは魔鉱石の中でも特に力を秘めている。その石に触れるが良い。おぬしらの魔力、より引き出せるようになるだろう」
その言葉に従って、俺はゆっくりと石へと触れた。触れるやいなや、何かが俺の中に入り込んでくるのを感じた。
「リラさんが……成し遂げられなかったこと、私が代わりに成し遂げるよ……!」
俺がそう言うと、何者かは少し笑いながら、再び霧の中へと姿を消していった。
霧の中、進んだ俺達に何者かの声が聞こえた。敵意はなさそうである。
「私は九尾のイーナと言います。精霊の力を授かりたく、ここに参りました」
霧に向かって、俺が言うと、何者かは問いかけてきた。
「おぬしはなんのために力を欲す?」
「妖狐を守るためです。人間の脅威から」
「人間の脅威か…… またしても、人は誤った方向へ進もうとしているのか……」
なにやら落胆した様子で、何者かは呟いた。‘またしても’おれはその言葉に引っかかったのだ。
「あなたは、何か知っているのですか……?」
「先へ進め、この世界の真実を見せてやろう」
そういうと、何者かの気配は消え去った。
「世界の真実……」
俺だけじゃない。みな、困惑しているようだ。
「とりあえず、先に進んでみましょう!来いと言ってましたし!」
ナーシェの提案で、俺達は先に進むことにした。今更引き返すなんて選択肢はなかった。
しばらく進むと、なにやら大きな石がみえた。その前には輝く光る、小さな石版とそれをおさめる土台のようなものが一つだけぽつんと置いてあるようだ。
「その石版に触れるのだ。さすれば、世界の真実が見えるだろう」
再び何者かの言葉が聞こえる。その言葉に従って、俺は静かにその石版へと触れた。
触れるやいなや、眩しくも優しい光が俺達を包み込み、俺達はなにやら実験室のような場所にいた。
「ワープ……?」
しかし違うようだ。実験をしている人達はこちらの存在には気付いていないようだ。
それにしても……
「やけに文明が発展してないか?私達のいた世界とは全然違うじゃないか」
シータの言葉に同意する。
研究員達は何か話しているようだ。
『被検番号0052はどうだった?』
『魔鉱石の影響をもろに受けたようだ。すぐに死んでしまったよ……』
『今のところ、成功したのは狐と犬だけか……』
『動物愛護から訴えられそうだな…… 爬虫類とかはどうだ……?』
明らかに動物実験をしている様子だ。
その時施設に急にアラームが鳴り出した。
『ちっ…… またか…… おい、避難させるぞ!外に出したら面倒なことになる!』
……
そこでその光景は途切れ、俺達は再び霧の中へと戻っていた。
「なんだったんでしょうか?今の様子は…… この世界の話じゃなさそうですし……」
ナーシェは困惑したまま、口を開いた。
「それに、狐とか言ってたね!ルカ達に何か関係があるのかな!」
ルカもなにやら考えているようだ。
すると再び、何者かが語り出した。
「これは、映像と呼ばれるものでな、遙か昔の記憶だ。人間の残した記憶だ」
「記憶……? それに遙か昔って…… どういうこと?」
俺の言葉に何者かは、語りを続けた。
「この世界の歴史…… 遙か昔、人間の文明は高いテクノロジーを持っており、世界の中心であった。そして、人間は新たな物質を見つけ出した。魔鉱石というものだ」
「魔鉱石……」
しかし、仮に人間が技術を発展させていたとして、その文明はどこへ消えたというのか。
「そして、人間は欲深くも、魔鉱石を軍事目的にも用いたのだ。魔鉱石の力を使って兵器を大量に開発した」
「もしかして…… さっきの生物実験も魔鉱石を用いたものなの……?」
俺の言葉に何者かは同意をしてさらに続ける。
「その結果、不思議な力を使える動物たちが生まれた。人間はそいつらを戦争に用いようと考えたのだ。しかし、そう上手くは行かなかった。魔鉱石の暴走、オーバーテクノロジーの末、一度、人類は滅亡した」
「滅亡……」
「わしは、当時、動物実験の担当者でもあった。わしの産みだした、動物たち、例え兵器であったとしても、生き物である。愛着もある。だからこそ、わしは自分の動物たちと共をシェルターへと逃がした。人間が滅亡しても、この子達は生き残れるようにと」
「その中でも、特に上手く実験が成功したのが狐だ。彼らは元々知性も高く、すんなりと実験も成功した。わしの一番の自慢の子だった」
「それが、妖狐だって言うの……?」
「そう、しかし、彼らの中には、人間のDNAも組み込まれていた。その結果、再び、人間がこの世界に生まれてしまったというわけだ」
その言葉に、皆ショックを受け、顔を上げることが出来ないようだ。ルカは静かに口を開いた。
「じゃあ、ルカ達は……!人間によって作られたって事?」
「そうなるな」
「なんで……!」
ルカの言葉に臆する事なく何者かは語りを続ける。
「わしの願いは、わしの子供達…… 動物たちがのびのびと暮らせる世界を作ることだ。決して人間と動物が争うような社会を作りたいわけではない。だからこそ、人間が動物たちに害をなそうとしているなら止めて欲しい……」
「……」
何も言葉が出てこない。
「イーナよ、おぬしはこれを知ってどう思う?」
何者かの問いかけに、少し考えた後に、ゆっくりと口を開いた。
「……ルカ、ナーシェ、獣医師の役割ってなんだか知ってる?」
「……イーナ様? 動物を助けることじゃないの?」
「私もそうだと思います。違うのですか?」
2人は不思議そうな顔でこちらを見る。
「獣医師は動物の為に働く。動物の病気を治す。それは間違いじゃない。でもそれだけが正解でもない」
――どういうことじゃ?
サクヤも疑問を呈してくる。
「獣医師の本来の目的は、動物を通じて、人間の社会に貢献することだ。ある意味では人のための仕事なんだ」
「動物と人、両方に利益を与えなければ、それは獣医師とは言えない」
だからこそ……
「人と動物が争うなんて事……決してあってはいけないよ! 私は……」
静かに息を吸い、心を落ち着かせる。そして、俺は想いを吐き出した。
「獣医師として、それに九尾として、後は人間だったものとして…… 人間と動物たちの橋渡しをしたい。妖狐達が人間と笑って共生していける世界を作りたい…… それが私の… 役割だから……」
俺がそう言うと、ルカもナーシェもテオもシータも笑顔でこちらを見る。
「ルカはね!人間の世界で一杯楽しいものを見たよ!ナーシェみたいにいい人だっている!だから、ルカも人間とも仲良くしたい!誰かが傷つくような世界は嫌だ!」
ルカは力強く叫んだ。何か感慨深いものがある。あの森でケガをしていた小さな狐がここまで成長したのだから。
「ニャニャ! 流石イーナ様なのニャ!僕の見込んだ人なのニャ!一生ついて行くのニャ!」
このお調子者め…… そう思いながらも、俺はにやける表情を隠しきれなかった。
「私は一度、イーナに救われた身。だからこそ、イーナのために力を尽くそうではないか!」
「シータ……ありがとう」
「人間として!そんな状況放っておく訳にはいきません! それにイーナちゃんもルカちゃんも!テオくんも!可愛いですし!」
ナーシェは…… なんか、目的がずれてない……?
「ルート……ルートはどう思う?」
ルート自身迷っているようだ。無理もない。彼の場合、そんな単純な事情ではないだろう
「人間の事情など知らん!俺は俺の目的が達成出来ればそれでいい!今やるべき事は変わらない」
そう言いながらも、きちんと関係ない人間に手出しをしないという約束は守ってくれている。ルートのことも信じている。
「リラも同じように言っていた。人間と妖狐の、さしてはモンスター達との共生出来る社会を作りたいとな。そして、彼女は人間の世界でギルドと呼ばれる組織を作ったらしい。人間とモンスターの橋渡しをするために」
ナーシェはその言葉に1人呟いた。
「なるほど、ギルドはそういう役割があったのですね……」
「して、イーナ達よ。おぬしらは力が欲しいと言っていたな。わしもおぬしを信じよう。奥にある石、これは魔鉱石の中でも特に力を秘めている。その石に触れるが良い。おぬしらの魔力、より引き出せるようになるだろう」
その言葉に従って、俺はゆっくりと石へと触れた。触れるやいなや、何かが俺の中に入り込んでくるのを感じた。
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