わたし、九尾になりました!! ~魔法と獣医学の知識で無双する~

惟名 水月

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九尾転生編

27話 リラクリニック

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「ねえねえ……知ってる?あそこの病院」

「聞いたわ、なんか人に化けた狐やら、しゃべる猫がいるそうね……」

「やーね、人の世界にモンスターが入ってくるなんて……」

「もしかしたら、最近流行ってる病気も、あいつらがまき散らしたんじゃない……」


……


……


「わかっていたけど……」

 俺はほおづえをしながら呟いた。

「誰も来ないね!イーナ様!」

 ルカは無邪気に笑っている。そんな笑えるような状況でもないが、無理もない。

「やはり、一筋縄ではいきませんね!」

 ナーシェは張り切っているようだ。そんな俺達を尻目に、ルートはあきれた顔で口を開く。

「いつまでつまらんことをやるんだ…… 腕がなまって仕方無い」

「そんなこと言っても、今は何の情報もないし、仕方無いよ、地道にやるしかない」

 俺がそう言うと、ルートは舌打ちをしながら、病院の奥へと入っていった。

 カラン

 病院のドアを開ける音が誰もいない病院内に鳴り響く。ルカは嬉しそうな様子でドアの方へと向かった。

「イーナ様!お客さんかな!」

 俺達の病院を訪れたのは、がたいの良い、おじさんだった。ミドウである。

「九尾よ!病院の調子は…… なんだ誰もいないではないか!」

「そうなのニャ!おかしいのニャ!こんなに可愛いケットシーがいると言うのにニャ!」

 なにやらテオは怒こっているようだ。

「そんなこと言ったって仕方ないよ。みんなモンスターなんて慣れてないんだし」

 俺達はミドウの協力の下、王都フリスディカに病院を作った。

「まあ、地道に頑張るんだな!リラクリニックと言ったかな!夜叉もできる限りの協力はする!おぬしの理念に惚れたからな!」

 ――リラクリニック、先時代、俺達と同じような志を持って、人間界へと下りていった偉大なる妖狐の名前から頂いた。俺とナーシェ、医師も獣医師もいる。人とモンスターの共生のための足がかりにしたいという願いも込めてその名前を付けた。

「今日は、病院の視察に来たの?」

「それもあるが、おぬしの里から送られてくるヒポクラテスの実。あれは良い薬だ。高値で取引が出来ていてな!その報告もあるのだ!」

 ミドウはガッハッハと笑っている。

 結構黒いことやってるけど、大丈夫かなあ……

 少し、心配ではあるが仕方無い。

「ミドウさん、例の病気について、何か分かったことがあれば教えてね!」

「うむ、心配ない!大船に乗ったつもりで待っているが良いぞ九尾よ!」

 そう言って、ミドウは去って行った。まるで台風のように。

「それにしても、このままお客さんが来ないんじゃ、どうしようもないですね」

 ミドウが去った後、ナーシェは困ったような顔で言った。

「そうだねえ、やっぱりこっちからいろいろやるしかないか!営業ってやつだね!」

「営業?」

 俺達はギルドに属している。ギルドにいれば、モンスターに接触する機会は増えるし、人助けにもなる。そういう地道な努力を積み重ねていかないとならないだろう。


……………………………………………………


 ギルド内でも、俺達の噂は広まっていた。教官をはじめとして、中には、頑張れと励ましてくれるものもいたが、やはり、多くは嘲笑を浮かべている。ギルドにやってきた俺達の元に、複数人の男が近づいてきた。

「おいおい、おまえらモンスターの病院とやら始めたんだって!お優しいことですな!」

 こいつらはナーシェの元パーティである。レベルは4と俺達よりも高レベルだ。ギルドではレベルによって立ち位置が決まるため、今の俺達では何も言い返せない。

「そうですよ!モンスターだって事情があるんです!ただ討伐すれば良いってもんじゃありません!」

 ナーシェはむくっとしながら、言い返したが、さらに男達は煽ってきた。

「どうせ非力な女だから戦えないんだろ、モンスターを助けるなんてバカみたいな事言っちゃって!」

「それに、おまえらのパーティ、そのちっこい女だけでなく狐や猫までいるんだってな!おままごとかよ!」

 ちっこい女とは俺のことだろう。

――おいおい、イーナよ、言われ放題じゃな

「放っておこう」

「まあ、せいぜい死なないことだな!モンスターを助ける前に自分が死んだら話にならないからな!」

 高らかに笑いながら、男達は去って行った。

「言いたい放題言いやがって…… 覚えてろよ、この味噌男ども……」

 なにやら、ナーシェは近寄りがたい雰囲気を出している。今は触れない方が良いだろう。うん。

「とりあえず、受付行ってみようよ!何かおもしろい依頼があるかも知れないし!」

 鬼のようなオーラを出しているナーシェをなんとか引きづりながら、俺達は受付へと向かった。

「お姉さん!何か私達に受けられる依頼ってある?」

「そうですね…… レベル3なら…… これなんてどうでしょうか?」

 それから、いくつか、ギルドの依頼をこなしたが、なかなか進展はなかった。一つあるとすれば、あの魔鉱石に触れてから、俺達の神通力は格段に強化されていた事くらいである。

「今日も何もなかったですね…… なかなか進まないです……」

 その日も、同じように、俺達はギルドの依頼を済ませ、受付に報告に向かっていた。

「お姉さん、今日も無事に終わったよ!」

「あら、イーナさん達、お疲れ様です!そういえば、上から連絡があって、最近、森の様子がおかしいとのことで、なにやら強力なモンスターが多数現れているらしく、ギルドの人員を増やすみたいですよ!それで、教官がイーナさん達を推薦したみたいで!レベル4の試験の案内が来ています!」

「えっ!?レベル4になるのにも試験があるの!」

「試験と言っても、面談とか簡単なものですね!ほとんど落ちることはないです!」

「レベル4になれば、受けられる依頼も増えますね!」

 ナーシェは喜んでいるようだ。

 レベル4か…… 

 やはり昇進というものはわくわくするものだ。これを機に、何かまた新しい手がかりが見つかれば良いのだけれど……
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