わたし、九尾になりました!! ~魔法と獣医学の知識で無双する~

惟名 水月

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九尾転生編

28話 風切

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「こちらがレベル4の証、バッジになります!」

 ギルドのレベル4への昇格試験、俺達は問題なくパスした。ギルドでは、レベルに応じて、付けるバッジが異なる。バッジを見れば、その人のレベルが一目瞭然という仕組みだ。

「早速ですが、イーナさん達に行ってもらいたい依頼があるのです!」

「依頼?」

 俺の問いかけに、受付のお姉さんは続ける。

「はい!例のナリスの近くの森、なにやら最近、不穏な空気が漂っているとのことで!あの森に調査に行って欲しいのです!そして、今回は他のパーティも一緒に行くことになるのですが……」

 なにやら、少し語尾が小さくなったのが気になったが、まあいい。

「良いですけど……」

 今回一緒に依頼を受けたパーティは先にナリスへと向かったようだ。待たせるのも良くない。俺達はすぐにナリスへと向かった。

「ええーーー!あなたたちと一緒なんですか!」

 ナーシェは叫ぶ。そう、今回一緒に行くパーティとはナーシェの元パーティだった。受付のお姉さんめ…… 黙ってたな……

「こっちの台詞だよ!せいぜい足は引っ張らないでくれよな!」
「まあ、怖かったら先に帰っても良いぜ!俺達でやっとくからな!」

 相変わらずやなやつだ。

 しかし、ギルドからの指令とあれば仕方無い。一度引き受けちゃったしな……

「じゃあよろしくお願いします」

 なにやらみんな不満そうだったが、仕方無い、ここは大人の態度だ。

「おうおう、よろしくされますよ!」

 我慢だ我慢。


「みんなの力見たらそんなこと言ってられないんだから……」

 ナーシェは1人、ずっとぶつぶつと何か呟いている。怖い。

 それに引き替え、シータは流石に大人である。子供を見るかのような優しいまなざしで彼らを見つめている。

「イーナ様!早く行こ! 」

 そしてやはりルカは天使であった。



 なんだかんだで、無事に森の入り口へとついた。森は異様な雰囲気を醸し出し、近寄りがたい空気を出している。

「……なんか ……やばめだね」

 俺の言葉にシータも同意する。すると、男どもは口々にまた煽りだした。

「びびってるの?イーナちゃん!」
「可愛いお顔が傷ついちゃったたら大変だよ!」

 何も言わない。何も言わない。

「じゃあ俺達は先に行くぜ!後からゆっくりついてきな!」

 男達はニヤニヤしながら森へと消えていった。団体行動もへったくれもない。

「ねえ……」

 俺はナーシェに問いかけた。

「なんであいつらと……パーティ組んでたの?」

 ナーシェは少し元気なさげな様子で答える。

「私…… ギルドに入ってから失敗続きで……薬を間違えたり!部屋着のままギルドに言っちゃったり……」

 おい、大丈夫かこいつ。

「でも、前のギルドをクビになって、あの人達のギルドに数合わせって形でも誘われたとき、嬉しかったんです。私が必要にされてるって思えたから……」

「でも!今は!素敵なみんなと出会えたから!結果オーライですね!」

「頼むから……薬は間違えないでね……」

 俺達も彼らに続いて、森へと向かった。



「それにしても……あの人達どこまで行ったんでしょうか?」

 あれからしばらく森を歩いたが、進んでも進んでも、彼らに合流することはなかった。

「あいつら……迷ったりしてないだろうな」

 シータはなにやら彼らの心配をしているようだ。出来た男だ。

 さらに進むと、木々に囲まれた、池のような場所が見つかった。水面は青く輝いており、木々の緑と相まって、まるで楽園のような場所だった。

「綺麗ですね!」

 ナーシェはなにやら嬉しそうな様子で池へと近づいていった。ルカとテオもナーシェについて行く。俺はここで、皆に提案した。

「ちょっとここで休憩しようか!」

 池のほとりではナーシェとルカとテオがなにやら話をしている。平和である。



 しかし、つかの間の平和はすぐにと、過ぎ去ったのだ。

 池の向こうの森から突然に、それは現れた。巨大な狼は3体、牙を剥きながらこちらを威嚇している。そして、その3体の奥から、もう一体さらに大きな、3体とはまた違う、美しいとさえ思えるような白い狼が現れた。その狼は仲間に向かって静かに告げた。

「まて、そいつらは人間と違う香りがする。人間の香りもするがな……」

 ボスのような狼の声はこちらにも聞こえた。そして、さらに狼は続ける。

「おまえらは何者だ」

「九尾だ」

 俺は一応身構えながら、狼の言葉に返事をした。そして狼はなにやら納得したような様子で、また話を続けた。

「なるほど、俺は大神の族長 真神だ。名はシナツという」

「私はイーナです。シナツ……どうしてそんなに荒立っているの?」

 狼は襲ってくるつもりはなさそうだ。会話も出来そうである。

「先日、俺達の里は、人間に襲われた。その時に俺の父、前真神は皆を逃がすために、1人で戦い、そして死んだ」

 死んだ…って

「人間に…… やられた……?」

 しかし、大神も神通力はあるはずだ。いくら兵器があったとは言え、そう簡単にやられないだろう。

「あいつらはなにやら武器を持っていた。それに、1人向こうにも魔法を使うものがいたのだ……」

「魔法を?」

「そいつの魔法はなかなかに強力だった。何より驚いたのは、俺達にしか使えないはずの風切まで使いやがったんだ。そして、お前達妖狐が使うような術もな」

 なにやら、怪しげな気配が漂ってきた。それに……

「大神、気付いている?」

「ああ」

 何者が近づいている。賢者の谷から格段に神通力が使いこなせるようになったようだ。俺にもその気配は分かった。

「ルカ、テオ、ナーシェ後ろに隠れて」

 そして、そいつは俺達の目の前に姿を現した。鎧をまとった軍人であった。
 軍人は笑みを浮かべながらシナツの方に向かって、叫んだ。

「ここにいたか、大神よ!さて私と遊ぼうではないか!」

 狼たちは牙を剥き、臨戦態勢を取っている。
 軍人を見たナーシェの顔はだんだんと青ざめていくのが分かった。そして一言呟いた。

「な、なんで帝国がここに……」

 帝国……連邦と戦争をしていたという帝国……?

 さらにナーシェは続けた。

「帝国は滅びたはずじゃ……」

 次の瞬間、軍人は姿を消した。と思ったら次の瞬間大神たちの目前へと現れ、持っていた剣を振るう。大神たちはどうにかかわしたようだ。

「おい」

 俺は軍人の方に向かって声をかけた。軍人はこちらには気付いていなかったのか、声に反応してこちらを向いた。すると、また消えたかと思いきや、軍人は俺の前へと現れた。軍人の手によって俺の顔は持ち上げられていた。

「お嬢ちゃん、なんでこんなところにいるんだ?」

「嬢ちゃんじゃない、九尾だよ」

 俺は背中にある龍神の剣に手をかけ、軍人に向かって剣を振った。やはりあたらなかったようだ。再び、軍人は離れたところへと姿を現した。

「そうか、真神に加えて、九尾まで!これは傑作だ」

「お兄さん、誰?」

「私はエルナス帝国第3部隊長 ラヴィル、まあその名もすぐに忘れることになるがな」

「ラヴィル……」

「それに、良いのか4神のうち2人が俺1人を相手をして、今頃連邦は火の嵐だろうに」

「フリスディカ……!」

 ナーシェが呟く。

「奴らの次の狙いはフリスディカです!こいつはおとりです!」

 ナーシェが叫ぶと、ラヴィルはなにやら笑みを浮かべ、また口を開いた。

「おいおい、おとりとは失礼だな」

 また消えた。と思いきや、目の前へと現れた。今度は明らかに攻撃態勢である。なんとか紙一重でラヴィルの斬撃を防ぐ。そこに、シナツが横から攻撃を加えようと、牙を剥いて襲いかかった。やはりかわされたようだが。そして、そのままシナツは俺の横へと来た。

「ねえ、あの瞬間移動みたいなのって、風切ってやつ?」
「そうだ、まあ、俺達の風切よりは大分遅いがな」

 シナツは静かに答える。しかし、どうしたものか。

「シナツ、何か策はある?」

「俺達の方が早い、隙が出来れば一気に倒せる」

 しかし、なぜ、ラヴィルは大神の神通力を使えるのか?今は考えても仕方ないが。
 それに隙と言われても、こんなもんどうしろって言うんだ。

「風切ってどうやって移動してるの?」

「一気に地面を蹴り上げ、風に乗るんだ」

 地面を蹴り上げるか……

 ラヴィルも流石に九尾と真神、2人を同時に相手をするのは警戒をしているようだ。じわじわと距離が開いたまま、時間が流れる。

 ふと、俺は一つの考えを思いついた。地面を蹴るというのなら……

 俺は右手をラヴィルの方に向け一気に氷を放った。神通力は確かに強力になっているようだ。前よりも格段に範囲が上がっている。風切でかわされたようだが。

「ふはは、九尾よ、その力、使えるのはお前達だけではないぞ」

 ラヴィルが手を上げると同時に、俺の神通力と同じように、ラヴィルの足元から、こちらに向かって一気に地面が凍り付く。妖狐の力も使えるようだ。

 しかし……

――なんじゃ、あの神通力は…… 妖狐のものにしてはへっぽこじゃわい

「確かに」

 俺がサクヤの言葉に笑みを浮かべると、ラヴィルはその言葉が気に触ったのだろう。怒りがこちらにも伝わってくる。

「へっぽこだと……! 私を誰だと思っている」

 そう言うと、再びラヴィルはこちらに向けて氷を放った。不意打ちじゃなきゃ交わせる範囲である。やはり妖狐には劣るようだ。

――へっぽこじゃへっぽこ、そんな手品みたいな魔法、妖狐の力とは月とすっぽんじゃ

 なんでそんなに煽るかなあ……

 ついに、ラヴィルは耐えきれなかったようだ。再び、風切を使いこちらに攻撃を仕掛けようとした。しかし、次の瞬間ラヴィルは一気に地面へとたたきつけられたのだ。そして、そのあとラヴィルが起き上がることはなかった。瞬間、大神たちの餌食となったのだ。森にはラヴィルの断末魔だけがこだました。

 俺はにんまりしてシナツの方を向いて一言放った。

「隙は作ったよ!」

「ああ、ありがとうな、イーナ」

「どういうこと?」

 ルカは謎めいた顔で、問いかけてきた。

「あいつ、妖狐の魔法で足元まで凍らせてたでしょ。凍ってたら風切は使えないよ。一気に蹴り上げたらスリップするから」

 俺は笑顔でルカに答えた。正直、冷静さを失いやすい奴で助かった。

「それよりも!フリスディカです!早く戻らないと!」

 ナーシェの言葉に状況を思い出す。早く戻らなくては……!

「イーナよ!私達の背に乗れ!風切なら早く着く!」

「ありがとうシナツ!」

 フリスディカはどうなっているんだ……大神の背にまたがり、俺は嫌な予感があたらないことをただ祈っていた。
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