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2章
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◆第34話 「王の名において」
王都――正門前。
陽の高い時刻、誰もがその“異様な訪問者”に目を奪われていた。
黒と金の衣を纏い、背筋を伸ばして歩く男。
その後ろには、数名の魔族たちが控え、
まるで“外交使節”のような列を作っていた。
そして、その先頭に立つのは――
魔族の王、ディアボロス。
彼は王都の中央庁舎前まで歩を進め、衛兵に向かって告げた。
「我、魔族王ディアボロスなり。
王都の文官代表との面会を、外交権に基づいて要請する」
周囲がざわついた。
だが彼の声は澄んでいて、どこまでも冷静だった。
* * *
「……魔族が“正式な使節”として訪れた、だと?」
報告を受けたカリスは、一瞬、言葉を失った。
(武力ではない。示威でもない。
……あくまで“外交”として動いてきた、だと?)
魔族が力で動く存在である――それが、王都の常識だった。
だが彼らは今、その常識を“正面から破りに来た”。
「交渉など……無意味だ。
奴らは最終的に我らの世界を蝕む存在。
正義の法が歪められてはならない」
自分に言い聞かせるように呟いたカリスに、秘書官がそっと言った。
「ですが……文官上層は、“一度、話は聞くべきだ”と判断したようです。
あくまで形だけでも、“平等な対話の姿勢”を見せるために、と」
カリスは拳を握った。
(法で縛るつもりが、対話で緩められる……?)
それは、彼にとって“もっとも望ましくない展開”だった。
* * *
「我が名はディアボロス。魔族を統べる王なり」
重厚な議会室に響いたその声に、文官たちは静まりかえっていた。
「本日、我が国は“王都に向けて正式な外交交渉”を申し入れる。
内容は明確だ。――“モフのしっぽ亭”に対する一切の干渉の中止。
及び、ミレイア・ユリア・ローゼン殿に対するすべての調査・制限の即時解除」
「理由は?」
問われて、ディアボロスは一歩前に出た。
「彼女は“我が民”の加護を受けている。
我らの領域に足を踏み入れ、
我らに食を与え、平和を築いた“功労者”である」
「それはあなた方の国の話でしょう。
ここは人間の国。人間の法が優先される」
「故に申し入れたのだ。
この件は、“二国間にまたがる正義”に関わる問題。
であれば、片方の正義だけを振りかざすなど――暴力と変わらぬ」
その言葉に、一部の文官の目が鋭くなった。
しかし同時に、別の者が、僅かに頷いた。
「……持ち帰って検討しよう。
少なくともこの場で、一方的な判断はすべきではない」
外交とは、言葉による戦だ。
今、魔族の王がその場を制した。
* * *
「さて、ミレイアよ」
ディアボロスはその夜、空の下で呟いた。
「お前の正しさを、我らの誇りで守ってみせよう」
夜風がその言葉を運び、
彼の背後で、魔族たちが静かに膝をついた。
王都――正門前。
陽の高い時刻、誰もがその“異様な訪問者”に目を奪われていた。
黒と金の衣を纏い、背筋を伸ばして歩く男。
その後ろには、数名の魔族たちが控え、
まるで“外交使節”のような列を作っていた。
そして、その先頭に立つのは――
魔族の王、ディアボロス。
彼は王都の中央庁舎前まで歩を進め、衛兵に向かって告げた。
「我、魔族王ディアボロスなり。
王都の文官代表との面会を、外交権に基づいて要請する」
周囲がざわついた。
だが彼の声は澄んでいて、どこまでも冷静だった。
* * *
「……魔族が“正式な使節”として訪れた、だと?」
報告を受けたカリスは、一瞬、言葉を失った。
(武力ではない。示威でもない。
……あくまで“外交”として動いてきた、だと?)
魔族が力で動く存在である――それが、王都の常識だった。
だが彼らは今、その常識を“正面から破りに来た”。
「交渉など……無意味だ。
奴らは最終的に我らの世界を蝕む存在。
正義の法が歪められてはならない」
自分に言い聞かせるように呟いたカリスに、秘書官がそっと言った。
「ですが……文官上層は、“一度、話は聞くべきだ”と判断したようです。
あくまで形だけでも、“平等な対話の姿勢”を見せるために、と」
カリスは拳を握った。
(法で縛るつもりが、対話で緩められる……?)
それは、彼にとって“もっとも望ましくない展開”だった。
* * *
「我が名はディアボロス。魔族を統べる王なり」
重厚な議会室に響いたその声に、文官たちは静まりかえっていた。
「本日、我が国は“王都に向けて正式な外交交渉”を申し入れる。
内容は明確だ。――“モフのしっぽ亭”に対する一切の干渉の中止。
及び、ミレイア・ユリア・ローゼン殿に対するすべての調査・制限の即時解除」
「理由は?」
問われて、ディアボロスは一歩前に出た。
「彼女は“我が民”の加護を受けている。
我らの領域に足を踏み入れ、
我らに食を与え、平和を築いた“功労者”である」
「それはあなた方の国の話でしょう。
ここは人間の国。人間の法が優先される」
「故に申し入れたのだ。
この件は、“二国間にまたがる正義”に関わる問題。
であれば、片方の正義だけを振りかざすなど――暴力と変わらぬ」
その言葉に、一部の文官の目が鋭くなった。
しかし同時に、別の者が、僅かに頷いた。
「……持ち帰って検討しよう。
少なくともこの場で、一方的な判断はすべきではない」
外交とは、言葉による戦だ。
今、魔族の王がその場を制した。
* * *
「さて、ミレイアよ」
ディアボロスはその夜、空の下で呟いた。
「お前の正しさを、我らの誇りで守ってみせよう」
夜風がその言葉を運び、
彼の背後で、魔族たちが静かに膝をついた。
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